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コルンに着くと。
「いらっしゃいませー」
大声が響いている。客寄せの商売人が、大声を出しているようだ。
「にぎやかだわ」
ララはうれしそうにそう言った。
「コルン大図書館に向かうぞ」
「はい」
三人で歩いて図書館へ向かう。図書館に向かう途中、あちこちの店から、誘われたり、良い匂いがしていた。
「うう~帰りに寄っていいですか?」
「いいよ」
キャイルは微笑んでそう言った。
図書館に着くと、そこには、中々大きな建物があった、蔵書二〇万冊と書いてある。
「すごい」
「思った以上に探しづらいですね」
サグナも困ったようにそう言った。
「司書さんに訊けば一発よ」
ララがそう言って、カウンターにいる、男の人に話しかけた。
「『ハーブの調べ』と言う本を探していまして」
「作者は、ハンリ・ファブリスです」
「では、植物の棚のF行をお探し下さい」
「そうか、司書さんでも、本の名前全部は覚えてないのか……」
ララは少しがっくりした。しかし、植物の棚F行を見ていると、『ハーブの調べ』は無かった。
「なんで?」
「植物ではないのかもしれませんね」
「植物じゃないとすると、自然とか理科の所だったんでしょうか?」
「魔女は、薬を作るのに使っていたのなら、医療の棚だと言う可能性もあるんじゃないだろうか?」
「あるかも!」
三人で、医療の棚を見てみた。
「F行の、ファブリスだから……あった『ハーブの調べ』」
「良くやったララ」
そのまま、借りて、帰りに街を歩いていいと言われたので、ララは、少し一人で歩き回っていた。
「ふ~ん、このアクセサリーかわいい」
白い羽の付いたブレスレットをながめて、そう言った。
「あっ、でも、この丸いふわふわのキーホルダーもかわいい」
アクセサリー屋の前で悩んでいたら。
「お嬢さん、少しお茶でも」
と声をかけられてしまった。
(ナンパか、こんなところで騒ぎを起こすと王子に迷惑がかかるわ、騒ぎにならないようにうまく断ろう)
「ごめんなさい、私、連れの彼氏を探しているの」
「彼氏いるの? お嬢ちゃん」
「はい」
「どうする」
二人組は話し始めた。
「今は、いないんなら、連れていっちゃおうぜ」
「えっ?」
おもいっきり腕を引っ張られた。
(げっ、どうしよう)
「ララ、やっぱり君は心配かけすぎ」
そう言って、目の前に現れたのは、キャイルだった。
「ごめんなさい、騒ぎは起こさないつもりだったの、でも、この人達しつこくナンパなんかしてくるんだもの」
「君は悪くないけど、騒ぎを起こしてでも、振り払うべきだったね」
キャイルは、そう言って、剣を取り出した。
「兵士か?」
「だったら、分が悪いぞ」
そう言って、慌てだすナンパ男。
キャイルは、剣を振り回して、一人のナンパ男の首の横に剣を置いた。
「今すぐ、死にたい?」
笑顔でそう訊いた。その笑顔は、何より怖かった。
「ギャー、ごめんなさい」
ナンパ男達は、一目散に逃げ出した。
「はっ、あの位の男なら、私でも倒せたかもしれないわ、よく見ると、なよなよしているじゃない」
「ララ、君は女の子なんだ、大人しく守られてくれない?」
「ふふ、王子様って、本当に天然でらっしゃいますね」
ララはうれしそうにそう言った。
「私を守りたいなんて、本当に変わってます」
キャイルは、少し首を傾げた。
「何が、変だと思ったの? 君を守る事ってそんなに変な事なのかな?」
「はい、変です」
ララは笑顔でそう言った。
「キャイル様、大丈夫ですか?」
サグナが心配そうにキャイルに駆け寄る。
「今日は、危ないから、帰ろうかララ」
「はい」
ララも馬車のところまで歩いた。
「しかし、今日は、収穫があったな、魔女の持っていたハーブの本を手に入れられるなんてラッキーだよな」
「そうですね、術師にでも、居場所をはじき出してもらいましょう」
「たどりの術者は、王宮にもいたな、サグナ」
「はい」
サグナが返事して本を手に取る。
「もう一度確認のため、読みますね」
サグナが本を読んでいると、手が止まった。
「一二六ページの次が、一二九ページになっている。もしかして魔女が抜き取ったのかもしれない」
「どれどれ、本当だ!」
キャイルも本を見て驚く。
「一二六ページから一二九ページは、カランと言う、花のページの様ですよ」
そう言って、図書館で借りた方を開いた。
「カランか、でも、それが何なのだろう?」
「カランは、毒のある草です。きっと、毒を作る予定だったのでしょう」
「なるほど」
キャイルも納得している。
「毒、カラン!」
ララが震えだした。
「どうした?」
「何でもない、少し、昔の事だけど、カランの毒で死んだ人がいたの、その人の事思い出しちゃって……」
「そうか」
キャイルはララの肩を抱いた。
「落ち着くまでこうしている」
「ありがとう」
馬車はガタガタ揺れて、城の中へ入って行った。
「母上、ただいま帰りました」
「おかえりなさい、キャイル、無事に帰って来てくれてうれしいわ」
「母上」
キャイルは王妃に抱きしめられる。
「サグナ、ララを一人にしないでやってくれ」
「はい」
「ララさん、いつまで泣いているのですか?」
「泣いてないよ、震えているだけ、寒いから……」
「じゃあ、目が赤いのはどうしてですか?」
「花粉症よ、ほっといてよサグナ」
「あなたを放っておくなと、キャイル様が言うのですから、私も仕方なくあなたの側にいるのですよ」
「ふん」
ララは拗ねた。
「王子には、内緒だよ、カランで死んだ人って、私のお父さんなんだ」
「そうですか」
サグナは冷めた様子でそう言うが、その時は、心配されたり、騒がれたりする方が嫌だとララも思った。
(サグナは意外と優しいのかも?)
そう考えていた。
◆ ◆ ◆
その夜、ララは、父のお葬式の夢を見た。
「……」
冷や汗が流れた。
(お父さん、なんで……)