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竜×侍  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第四章

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第九十話 蘇生

前回までのあらすじ!


ティルスをエリクシルで生き返らせるぞ!

 程なく。太陽が沈んで夕暮れが訪れる頃だ。

 瞼が揺れて、ゆっくりと目が開く。


「ようやくお目覚めかい。のんきなもんだねェ」

「……あれ、オキタ」


 残念ながらティルスではない。リリィだ。

 こっそり涎を拭いてから銀色の髪に手を入れて、目を覚まそうとしているのか頭を振っている。しばらくぼうとした後、リリィがふと思い出したように目を見開いた。


「あ……! ご、ご無事で何よりですっ」


 目ぇ泳いでんぞ……。


「あら、ティルスじゃないですか」

「今頃気づいたのかよ」


 ティルスは青白い顔をしたまま、この牢内で死人のように眠っている。いや、呼吸が止まっているのだから死人には違いねえが。

 片羽根は失われたままだ。刑場から戻る際に持ってきてくっつけてやっても良かったのだが、こいつの矜持も考えてやめておいた。

 真剣で向き合い、敗れた。だが勇敢だった。

 傷は誇りだ。


「エリクシルを勝手にもらったぜ。おれの分とティルスの分だ」

「あ、はい。……え? あの、取ったのですか? オキタが?」


 でけえ胸を両腕で覆って、リリィが頬を真っ赤に染めた。

 若干、表情が引いてるあたりが微妙に腹立たしい。おまえさんが、ぐーすか寝てるからじゃねえかと言いてえよ。

 こっちゃあ別に涎でも良かったんだが、ライラの視線を考えてのことだ。おれにしてもリリィにしても、涎での回復ってのぁ、あまり他人に見せられたもんじゃあない。


「……ど、どうでしたか……?」

「十二分に効いたぜ、おれにはな」


 おずおずと伺うように尋ねてきたリリィに、おれは感謝の意を込めて胡座のまま頭を下げた。

 色々問題はあるが、こればっかりは心底助かっている。感謝してもしたりねえ。


「いつもありがとよ、リリィ」

「そ、そうではなく! あの……取るときの……感触といいますか……。も、揉みました……?」


 リリィが両手で顔を覆う。

 感謝の意が消し飛んじまったおれは、白目を剥きながら呟いた。


「おまえさん、目の前で死にかけてるやつがいるってのに、何を尋ねてんだ……」

「だ、だって……ぅぅ……」

「あと、後ろを見ろィ、後ろを」

「はい?」


 リリィが振り返ると、その背後には背中を牢の壁に預けたライラがにやにやした顔で脚を組んで座っていた。


「……」

「……へっへ。だと思ったよ。なんも進展しなかったんだねえ?」

「う、うるさいですよ! ライラはいつまでいるんですかっ!」


 後頭部で手を組み、ライラが悪戯顔で呟く。


「さてね。それにしてもあんた、あたしが持ってきたカレーンゴを食っといて、ずいぶんな物言いだな」

「はぅあ!?」


 リリィが恐る恐るおれを振り返った。


「……だ、黙って食べたわけじゃないんですよ? あ、えっと、ほら、生ものですから腐ってしまうと考えて、これはわたしの胃袋に避難させないとって思いまして……」


 無理あんだろ。


「阿呆、別にそんなこと怒っちゃいねえよ」

「ですよね! さすがはわたしのマスターです! レアルガルドよりも広い心!」


 黙って食っちまったことより、この態度よ……。

 ライラが喉でクックと笑っている。


「まあそりゃいいがよ。リリィ、こいつをどう思う?」


 おれは青白い顔で死んだままのティルスを指さした。


「邪魔者? でばがめ?」

「なんでだよ~ぅ」


 なんでこいつティルスには特に冷てえんだ……。


「そうじゃなくてだ。エリクシルで傷が塞がってんのに目ぇ覚まさねえ」


 おれを刑場から運んでくれた三体の天狗は、今も牢の前でティルスの様子を見守って待機している。


「時々確認しても、体温はあっても呼吸がねえ。やっぱ手遅れってやつかねェ?」


 リリィがティルスに視線を落とした。腕をつかんで仰向けから横倒しに転がし、背中の傷を看る。当然、とっくの昔にもう塞がっている。


「ああ……これでしたら……」


 リリィは事も無げにもう一度ティルスを仰向けに体勢に戻し、中腰になって右の拳を握り込んだ。


「おい、待――」


 止める間もなく、リリィがティルスの左胸へと拳を叩き下ろす。


「えいさーっ」


 ずどん、という衝撃音と、肋骨の砕ける鈍い音がして、魔術で強化されているはずの石牢自体が微かに揺れた。ぱらぱらと天井から砂埃が落ちる。


「なぁ~っ!? あ、あんた正気なの!?」

「おまえさん、何を――」


 誰もが目を見開いて立ち上がる。おれも、ライラも、三体の天狗どももだ。

 死んだティルスの口から、押し出されるようにごぼりと血の塊が溢れる。それだけだ。ただ遺体を傷つけただけで、やつが起き上がることはない。


 当然だ。リリィの正体は銀竜だ。エリクシルの効果で肉体が治っていたとしても、今の一撃だけでも十分に死ねる。おそらく砕けた肋骨は、内臓に突き刺さっていることだろう。

 動かない左胸もぼっこりとへこんでいて、心の臓とて無事では済まないはずだ。

 こんなことが爺天狗に知れたら、処刑続行もやむなしだ。


 と、とんずらするか……。


 だが、リリィの手を取ろうと、こっそり立ち上がりかけたおれは、そこで目を疑った。

 ティルスの肉体が、再び白煙を立てて修復され始めている。


「たぶんこれで起きると思います。だめでしたら、もう一度やります」


 リリィの穿った左胸のへこみはもちろんのこと、体内からめりめりと聞こえているのは肋骨が戻る音だろうか。

 まだ効果が残っていやがる。いつもは己があやかっているものだが、こうして端から見ていると、エリクシルってのは存外に恐ろしい薬だ。

 こいつが原因で戦争になったとしても不思議じゃあない。

 やがて左胸のへこみが完全に戻る前に、ティルスの眉間に皺が寄った。


「……ぁ……ぐ……! か……っ」


 三体の天狗があわてて牢内へと駆け込む。


「ティ、ティルス!」

「無事なのか!?」

「……お、おおおっ、爺様に報せてくる!」


 とんずらをぶっこきかけていたおれは、ライラのじっとりとした視線に気づいて咳払いをし、その場に腰を下ろした。

 おれはリリィに尋ねる。


「どういうことだ? なぜ生き返った?」

「生きてましたよ。心臓が動いていないだけです」


 ライラが不思議そうに眉の高さを変えた。


「どういうこと?」

「心臓が動いていないと本来であれば血液が行き渡らずに脳が死んでしまうのですが、それもエリクシルが脳の劣化を防ぎますので、効果時間中であれば問題ありません。あとは人工的に心臓を動かしてあげれば、こうして生き返ります」


 ばつが悪そうに、リリィが後頭部をぽりぽりと掻く。


「……その、ちょっと力の加減を失敗してしまいましたが、どうせ問題なく治りますので……少しだけ痛かったかもしれませんが……」

「ああ……そう……」


 銀竜すげえな、おい!

 もう他にどう言えとっ!?



ドラ子の雑感


ああああ、ちょっとどころか豪快に力加減を間違えたぁ~……///

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