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第七十三話 苦戦

前回までのあらすじ!


ドラ子がキレた。

 以心伝心たぁこのことか。

 念話が来るよりも一瞬早く、おれは甲板を蹴って銀竜シルバースノウリリィの背に跳び乗った。


 考えてみりゃなんのことはねえ。莫迦正直に通路を戻らずとも、ここは前部甲板だ。竜の背に乗ってちょいと跳ねりゃ、操舵室に届く。

 他の五隻から砲火を浴びることはない。要はこの軍用飛空挺を人質にできる位置に陣取れてさえいればいいのだから。


『……跳びます!』

「ああ!」


 戦意を失った魔術兵らを置き去りに銀竜シルバースノウリリィが膝を曲げた。広げた翼を一度だけ大きく動かし、跳躍する。

 そうして前足を伸ばし、中心部甲板にそそり立っていた操舵室へと強引に取り付いた。

 硝子一枚隔てた向こう側では、十名ほどの魔術兵が腰を抜かしている。


「リリィ!」

『やります!』


 リリィが前足を大きく持ち上げ、硝子を薙ぎ払った。けたたましい音を響かせて、分厚さおよそ一尺はあろうかという硝子が砕けて空に散る。

 だが、リリィの爪も操縦桿までは届かない。


「行ってくる」

『ご武運を』


 おれはリリィの長え首を走り、割れた硝子に足をかける。


「おまえさんは来ねえのかい?」

『お()りが必要ですか?』

「かっ! 誰に言ってんだ、阿呆ンだら」


 おれが顔をしかめて吐き捨てると、銀竜体の表情はわからねえが、銀竜の顔が少し笑った気がした。


『わたしは艇内へと続く入口を破壊し、甲板に魔術兵を閉じ込めます。ほとんどが甲板に出ているはずなので、増援の懸念を晴らしておきます』


 言うや否や、リリィは再び甲板へと飛び降りた。

 どうにも頭の切れる女だ。ふだんからそうなら、ずいぶん助かるんだが。

 おれは割れた分厚い硝子に立ったまま、操舵室の魔術兵どもに視線を戻す。


「さて、と。待たせたねェ」


 標的は操縦桿。こいつを完膚無きまでに破壊すれば、軍用飛空挺は揚力を失わずとももはや直進するだけの棺桶と化す。むろん、予備の操縦桿が隠されている可能性も考え、皆殺しは必須だ。


「行くぜ~……?」


 艇内に吹き込む風に乗り、おれは腰を落として唖然としていた魔術兵の喉もとを斬り裂いた。勢いのままにブーツを滑らせ、二人目の魔術兵の首へと菊一文字則宗を薙ぎ払う。

 が、その魔術兵は刃を騎士の手甲で受け止めると、腰に差していた刺剣を抜いて反撃に出やがった。


「~~ッ!」


 おれは横回転で身を翻して避け、回避動作に連動させてもう一度刃を薙ぎ払う。しかしその魔術兵はそれすらも刺剣で受け流し、後方へと滑りながら叫んだ。


「立て、貴様ら! アラドニア魔術兵の矜持を見せろ!」


 瑞々しく若い声。年齢は二十歳といったところか。

 いやはや、驚いたね。銀竜を見て腰を抜かした連中とはひと味もふた味も違う。それに菊一の斬撃を二度も弾くたァ、若えのに大した練度だ。ここが江戸なら一番隊の隊士に欲しいくらいだ。


「……永倉や斉藤が見りゃ喜んだろうなァ……」


 ちょいとした感傷に浸っている間に、腰を抜かしていた魔術兵らが、正気を取り戻したかのように立ち上がった。

 どうやらあの魔術兵には人望もあるらしい。


「魔導銃は使うな! 剣を取り、操縦桿を守れ!」


 将だな、あいつが。

 ゲイルのようにこれ見よがしに勲章をぶら下げたりはしていない。他の魔術兵と服装が違うわけでもない。たたき上げの若造といった具合だ。

 嫌いじゃねえぜ、おまえさんのようなやつは。


「おおおおおっ!」

「死ねぇぇ!」


 側方からの大剣の振り下ろしを躱し、後方から迫った魔術兵の右腕を斬り飛ばす。


「~~ッ!?」


 大剣を握ったままの腕が弧を描いて落ちる頃、菊一文字則宗の切っ先に頸部と喉を裂かれた二人の魔術兵の膝が折れた。

 真っ赤な水たまりが操舵室に一気に広がる。


「いいね。いい覚悟だ。どのみちおれをここで止められなきゃ、おまえさんたちはこの高高度から地面にご挨拶ってなもんだ。――せいぜい気張りな」


 右手に持った菊一文字則宗の峰を肩に置き、左手の指先をちょいと曲げてやる。


「……ッ」


 顔面を真っ赤に染めた魔術兵どもが、前後左右から同時に襲い来る。


「がああああぁぁぁぁっ!」

「ぶっ殺せ!」


 莫迦が。

 四方から降り注いだ大剣の刃を身をひねった跳躍で躱した直後、二人の魔術兵が悲鳴を上げた。


「いぎッ!?」

「ぎゃ!」


 同士討ちだ。互いに腕と胴を傷つけ合った。

 四人の魔術兵に戸惑いが生じる。その一瞬を見逃すほど、おれはお人好しじゃあない。


「イァッ!」


 着地と同時に頭の高さに切っ先を照準し、身体を回転させながら八つの瞳を一気に引っ掻く。声にならない悲鳴が聞こえた。

 視力を奪われた四人が大剣を取り落とし、潰れた瞳を押さえてもんどり打つ。

 戦意喪失だ。仮に戦意を取り戻そうとも、視力がなければどうしようもないだろう。

 残り三名――。


「ありゃ?」


 視線を戻すと、若い指揮官を除く二名が操舵室から逃げ出してゆくのが見えた。おれはあきれた調子で若き指揮官殿に尋ねる。


「……いいのかい?」

「戦う意志のないものなど邪魔なだけだ。名乗れ、サムライ」

「オキタだ。おまえさんは名乗らなくていいぜ。どうせすぐに忘れちまう」


 殺した男の名など、知らないほうがいい。正気を保てなくなる。

 魔術兵は手にした刺剣の刃を、左手ですぅっとなぞった。


「……?」

付与魔法(エンチャント)、風の刃だ」


 なんだぁ? 魔術か? 刃に半透明の薄い緑の風がまとわりついてやがる。

 魔術兵が右手に持った刺剣を己の胸の前で立てた。


「――参る!」


 目を疑った。

 踏み込んだと思った瞬間には、もう切っ先が目の前にありやがる。


「――ッ!?」


 菊一文字則宗の刃を滑らせ、首を傾けて流す。金属がこすれる耳障りな音と火花が頬に散った。

 速っええ!


「あン? ……て、どわぁっ!?」


 ごぉと耳もとで風が鳴ったと思った瞬間、おれは緑の風に巻かれて出鱈目な勢いで割れた硝子から投げ出されかけ、かろうじて手足を広げて引っかけた。

 危ねえ、空に投げ出されるところだった。

 粉砕された硝子の山に足を置いた瞬間には、すでに刺突が迫る。初撃を体捌きで躱し、二撃目をかいくぐり、三撃目を菊一文字則宗の腹で弾く。

 緑の風が菊一にまとわりつき――だが。


「~~ッ」


 おれは風の刃から逃れるために少々大げさに側方へと転がった。菊一文字則宗にまとわりついていた緑の風が、すぅっと男の刺剣へと戻る。


「逃がさんッ!」

「イァッ!」


 追撃に来た男の動きに合わせ、胴体へと刃を薙ぎ払う。が、男は急襲の勢いを無視するかのようにぴたりとその場に静止して、ふわりと背後に逃れた。


 うへぇ~、それが人間に可能な動きかよ……。

 

ドラ子の雑感


お腹空いてイライラする。


※ちょっと仕事が忙しくなりそうなので、更新がまばらになるかもしれません。

 なるべく週5更新を目指してはいますが、ご容赦ください。

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