第七十一話 古竜剣術
前回までのあらすじ!
ゲロはドラゴンブレスの一種だった!
ゲロドラゴン!
鉄を蹴る足音を響かせ、おれたちは階段を上る。上がりきったところでリリィが再び階段を力任せに破壊し、追っ手ごと下層へと落とした。
アラドニア軍用飛空挺内、中心部中層。
魔術兵らが仮眠を取るための部屋が、左右にずらりと並んでいる。
「調べますか?」
「どう見ても部屋だ。階段はねえだろ」
突然右手側の鉄扉が開かれ、大剣を持った魔術兵が飛び出してきた。
「おおおおおっ!」
おれは上体を仰け反らせて叩きつけを躱し、抜刀術で脇腹から肩口までを斬り裂く。断末魔の叫びもなく、魔術兵は肉体を二つに分けて血の海に沈んだ。
そいつを皮切りにして、鉄扉が次々と開かれる。
気づけばおれたちは、あっという間に前後を、視界を埋め尽くすほどの魔術兵らに取り囲まれていた。
「挟まれちゃいましたね」
「んだなァ……」
嫌ぁ~な汗が浮いた。
前後の挟撃ならば同士討ちを警戒して魔導銃を使われる心配はなさそうだが、いかんせん数が多すぎる。このままでは前後からじわじわ距離を詰められて終わりだ。
せめて前方に斬り込む隙だけでも見出せれば、とは思うが……。
「……リリィ。おまえさん、軍用飛空挺には一〇〇名しか乗っていないって言ってなかったかィ? おれ、もう三十は斬ってきたし、おまえさんが階段破壊で下層に閉じ込めた数もそれくらいだろ」
「それは最低限の人数で一〇〇名いれば動かせるらしいですよ、という意味です。交代要員までいるとするなら、その倍は覚悟――わはぁぅ!」
奇声を発して、リリィが掘り出された芋のような体勢で大剣を避けた。
だが次の瞬間には金属床にめり込んだ大剣の刃をむんずとつかみ、魔術兵の腹に蹴りを入れて派手に吹っ飛ばす。
そうして大剣をかまえ、不敵な笑みで前方の魔術兵らを威嚇した。
「まだ喋っていたのに……わたしを怒らせましたね……。驚いて変な声が出たじゃないですか……。――このわたしに剣を持たせたことを後悔させてあげます」
リリィが大剣の柄を両手でつかみ、腰をぐぐっと右に回して両腕を深く引き絞った。
威力のみを重視したと思しきそのかまえに、魔術兵らが一斉に一歩退く。
「行きますよ、古竜剣術――ッ」
こいつ、剣まで使えたのか!
だが考えてみりゃ当然だ。リリィは父親こそ銀竜だが、母親はその背に乗っていた兵士。竜騎兵だったのだとか。
ならば剣術を習っていても不思議じゃあない。
おれはごくりと喉を鳴らした。
おもしれえ! こいつの莫迦力で大剣を振るうとどうなる? ギー・ガディアを超える剣士にだってなれるぜ!
リリィの両膝が微かに曲がり、その身が深く沈み込んだ。赤の懸衣に覆われた美しき全身から、鋭利な殺気が膨れあがる。
――殺る!
そう考えた直後、リリィが鉄製の床を蹴った。赤の懸衣が激しくはためいたと同時、大きく引き絞った大剣を薙ぎ払う。
「はぁぁぁ! 斬・撃・疾ば――ッ!」
なに!? 斬撃疾ばしだと!?
がぎぃぃぃん、と金属音が鳴り響き、大剣の先が右側の鉄扉を引っ掻いて止まった。
莫迦力で振ったためか、大剣は中腹あたりまで鉄扉にめり込んでしまっている。
「斬撃、とば、とば、とばないです……。ちょっと待っててください」
リリィは鉄扉を半分まで斬り裂いた大剣を引き抜こうとして、柄を懸命に引っ張っていた。
おれはもちろんのこと、敵である魔術兵らまでもが、珍妙なるその光景に我を失って眉根を寄せている。
こいつ……剣術どころか、てめえが手にした得物の尺すらわかってねえ……。
「えいっ」
大層な音がして、蝶番をねじ切られた鉄扉が外れる。
「抜けました」
抜けてねえし。大剣の先に扉がまだ突き刺さったままだし。
唖然呆然。魔術兵らの中にも、抜いた大剣や魔導銃を撃とうとするものはいない。大型魔導機関のうなりのみが響く。
「勝機――っ! 大剣疾ばしぃぃ!」
リリィが突然、手にした大剣を貫いた鉄扉ごと前方の魔術兵らにぶん投げた。
巨大な重量の影に呑まれ、魔術兵らの悲鳴がこだまする。
数名が全身を強く打ちつけられて昏倒し、数名が勢いでなぎ倒され、数名が下敷きの大惨事となる中、おれは菊一文字則宗を引き絞りながら前方の魔術兵集団へと斬り込んでいた。
血風、巻き起こる。
どこをどう斬ったかなどおぼえていない。人数を数えることもしていない。前へと走りながら、首、見かけては斬り飛ばし、肌、見かけては貫き、踊るように刀を振るう。
「なんだ、こいつ! 痛ッ!」
「殺せ!」
「ひ、やめ――っ」
「こんなチビに何を手こずっている!」
「ぎぁッ!」
大剣の攻撃を避け、躱し、受け流し、千鳥足のようにふわふわと、けれども鋭く動きながら菊一文字則宗に血を吸わせてゆく。
腕や足、首、はみ出した臓物、様々なものが飛び、異臭の漂う通路を突破する。
「ぶはっ!」
無意識に息を止めていたらしい。
おれは空気を貪り、走りながら振り返る。すぐ背後にはリリィが大きな胸を揺らしてついてきている。
なんとも緊張感に欠ける顔だ。
「無事かァ?」
「おかげさまで、とても楽でした」
そいつはお互い様だ。おまえが阿呆なことをしなければ、斬り込む機会にゃもうちょい苦労していたはずだ。
「はっはっ、上等! 逃げるぞォ!」
「は~い」
背後からはうんざりする数の魔術兵らが追ってきている。しかもおれたちが挟撃を破ったことで同士討ちの懸念が晴らされ、魔導銃を撃ちまくってきている。
一人とっ捕まえて盾にすりゃあよかった。
耳もとを通過した氷弾らしき透明な魔術弾に、おれは首をすくめる。
「うひぃ!」
「あ、階段がありますよ」
リリィの指さす先、おそらく中心部上層へと続くと思しき階段を駆け上がる。
だが、鉄扉を開けたおれたちの目の前に開けた光景は、操舵室ではなく、軍用飛空挺の前部甲板だった。
流れる風を受け、青空を見上げて、おれは頭を抱え込む。
追いかけ回されているうちに、どうやら行きすぎてしまっていたらしい。
なんてこったい……。
ドラ子の雑感
痛い痛い、背中にいっぱい魔術弾あたってるぅぅ……。
でも避けたらオキタが死んじゃうから我慢~……。




