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第六十七話 善人と悪人

前回までのあらすじ!


ドラ子のパワハラが人斬り侍に炸裂したぞ!

 野盗団洞穴の前で、おれたちは立ち止まる。

 銀竜体を隠すため、丸一晩中砂漠を歩き通し、疲労と睡魔にまみれながらようやく帰り着いたとき、おれたちの目の前に広がった光景は、我が目を疑うものだった。


 洞穴横には馬車があり、荷台には山ほどの物資が積まれている。

 砂漠越えのものはもちろん、穀物の種らしき大袋多数に、木箱から溢れんばかりの大量の魔導銃、そして大剣。

 呆然と立ち尽くすおれたちに、洞穴から顔を覗かせたナタクが人懐っこい顔で手を挙げた。


「あ、オキタ。おかえり。無事で何よりだ」


 のたのた近づいてきたナタクに、おれは尋ねる。物資を指さしながら。


「何これ?」

「あんたたちのおかげで、前線基地から物資を奪うことに成功したぞ」


 待て待て待て。おれたちゃ突入の合図を送っちゃいない。


「なんかな、合図を待って遠くから覗いてたら、魔術兵たちがすごい勢いで軍用飛空挺を取り囲むように移動を始めてなあ。合図はないけど、これはチャンスだと思ってやつらの倉庫に忍び込み、まんまと盗み出してやったってわけだ」


 ナタクがやや得意げな表情をした。

 相反するように、リリィが額を片手で押さえてうつむく。


 そりゃそうだ。たまたま無事に戻ってこられたものの、倉庫に見張りでも残っててみろ。ナタクはもちろん誰一人ここにゃ戻ってこられなかっただろうに。

 向いてねえ。こいつら、ほんとに野盗にゃ向いてねえ。

 まあ、だが今回に限ってだけ言えば、結末は上々だ。ここに来るまで、野盗団にゃどう謝ろうかとばかり考えていたが、その必要もなさそうだ。


「全部あんたたちのおかげだなあ。ありがとなあ、オキタ、リリィ」

「あ、いえ、……はい」


 リリィが返事を濁し、おれに視線を向けてきた。

 わかってるよ。言えばいいんだろ、言えば。


「ナタク」

「んー?」


 のんびりしたのんきな返事だ。


「おまえさん、野盗にゃやっぱ向いてねえや。合図もねえのに敵の本拠地に突入しちまうたぁ、自殺行為にもほどがあるぜ。もし見張りが残ってりゃ、仲間ごと全滅してたって不思議じゃねえぞ」

「おお。そうかもなあ」

「そうですよ。突入に合図が不要ならば、斥候の意味もありません」


 リリィがため息交じりに呟く。

 おれはナタクの鼻面に人差し指を突きつけて言ってのける。


「一応言っとくが、今回たまたまうまくいったからって、今後も野盗業でやっていけるとは考えるんじゃねえぞ。やつらの武器を奪ったようだが、使い手がなまくらじゃあ刃は斬れねえし、引き金を引くことを躊躇えば魔導銃だってただの鉄の塊に過ぎねえってことを忘れなさんなよ」


 要は、殺す覚悟があるかどうかだ。こいつらには間違いなく、ない。

 ナタクが苦笑した。


「大丈夫だ。そんなことは考えていない。あの武器は売り払うつもりだよ」

「ならいいさ」

「なんだかなぁ、人に刃物を振り下ろすよりも、大地を耕しているほうが気楽でいい。……ああ、おっと。すまない。別に、あんたたちへのあてつけじゃあないんだ。気を悪くしないでくれよ」


 今さら後ろ指さされたくらいで、おれが傷つくと思ってんのか。このおっさんは。何百の人間を殺してきたと思ってやがる。

 おれはがしがしとざんばら髪を掻く。


「謝るな。そういうところだよ」

「ナタクさんはオキタと違って、悪人にはなりきれない人ですねえ」


 な~んで余計なことを付け加えるかね、リリィは。


「……おまえさん……おれだって傷つくんだぜ」

「うふふ、存じ上げておりますっ」


 こんなやつがいるとは今日の今日まで信じちゃいなかったが、ナタクは生来の善人なのかもしれない。

 ま、いいさ。


「ナタク、今晩にゃもう南に旅立て。一応前線基地の軍用飛空挺は破壊しておいたから空からの追跡はないはずだ。だが、三日もあれば別の飛空挺がやってくる。空からの探索だ。逃げるなら早ええほうがいい」

「三日もあれば、砂漠越えもできますしね」

「そうするよ。アリアーナ神殿は、おれたちみたいなのを受け入れてくれるかなあ」

「どうせ僻地に集落から造るんだろ。黙って住み着いちまえよ。悪さしなきゃ大丈夫だろ」


 おれがあくび混じりに適当に言った言葉に、リリィが眉をひそめた。


「そういうわけにはいきませんよ。無国籍地域というか辺境に造った名もなき国とは違い、アリアーナ神殿国家の領内に集落を造るんですから。入信までは必要ないと思いますが、庇護を受けるならば一報は必要になるかと」

「そうかィ。だったら神殿の聖女に挨拶でもしてみるんだな。アリアーナの聖女レーゼ・ルシフォルだ。オキタに言われてアラドニア領内から逃げてきたって言やあ、まあたぶん通じるだろ」

「そうですね」


 事も無げに呟くリリィとは正反対に、ナタクが目を丸くする。


「あ、あんたたち、アリアーナの聖女様と知り合いなのかっ!?」


 聖女……様。

 聖女というもんはどうやらアリアーナ外でも信仰の対象らしい。まあ、あんな神の奇跡を目の前で見せられちゃあ、それもわかるってもんだが。


「ああ。まあ、そうだな」

「お、お姿さえ、滅多に見られるもんじゃないというのに!」


 お姿ねえ。ま、まれに見る美人っちゃ美人だったな。

 ふと気づくと、おれの心を読んだかのようにリリィがじとっとおれを見ていた。

 軽い咳払いで流す。


「まだ敵か味方かははっきりしてねえが、今んとこ対立もしてねえ」

「どちらかといえば、レーゼとわたしたちは対アラドニアの共闘関係ですね」


 そんなところだろう。


「ま、なんにせよ、そう知らねえ仲でもねえ。あいつなら話せばわかんだろ」

「必要があれば、わたしたちの名前を出してくださってもかまいませんよ、ナタクさん」


 ナタクが口をぱくぱくと動かした。


「……ええ……っ? ……もうほんとに何者なんだ、あんたたちは……。……たった二人でアラドニアの前線基地には殴り込むし、軍用飛空挺はぶっ壊しちまうし、アリアーナの聖女様とも知り合いだと言うし……」


 おれはナタクの背中を押して、洞穴へと歩き出す。


「細けえこたぁいいじゃねえか。そんなことよか腹が減った。またなんか食わせてくれ。しばらく食えそうにねえから、五日分くらいだ」

「あ、ああ。そ、そりゃかまわんが五日分って……腹を壊しても知らんぞ」

「わっ、やったっ。根こそぎいきますよー」


 リリィが舌なめずりをしてにやりと笑うと、ナタクが戯けたように肩をすくめた。


「ひぇっ、砂漠越えと俺たちが生きてく分の物資くらいは残してくれよぅ」

「うふふ、残るといいですねえ。わたしの胃袋は古竜の胃袋ですからねっ」


 リリィの後頭部に軽い手刀を入れる。


「ぅだ!? うう、なんですかっ」

「やめろィ。おまえが言うと洒落にならねえんだよ」

「オキタだって五日分も食べるって、さっき……」


 野盗団の洞穴に、賑やかなる声が響く。

 その日、おれたちは久々に手足を伸ばし、たっぷりの食事と深い睡眠を取った。


ドラ子の雑感


お腹十八分目まで食べましたっ!

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