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第四十九話 剣戟

前回までのあらすじ!


アラドニアンどもを地の果てまで追い詰めるぞ!

 魔術兵どもの魔導銃が一斉に火を噴いた。

 おれは浅瀬から走り出て渓谷の絶壁を蹴り、反動を利用して端のやつの首筋を側面から一本突きで貫いた。


「……ッ!?」


 菊一文字則宗を引き抜き、そいつの上衣の背中をつかんで走り出す。

 魔導銃の一斉掃射の中を、おれは骸と化した魔術兵の身体を盾にして強引に駆けた。爆炎が散って爆発音が耳をつんざく。

 懐かしいね、この感じ。


「人間を盾に!」

「貴様、それが人間のすることかッ!!」

「……ひっ、こ、この外道めッ!!」


 形状を保てず使い物にならなくなった()を蹴倒して、怯えながら叫んだ男の肩口から脇腹までを斬った。

 返り血を浴びながら、おれは崩れ落ちようとしたそいつの髪をつかむ。

 次の盾が己の番だと悟ったか、男は絶望の表情を浮かべた。


「外道? そうだよ? 今さらそれがどうした? 死合なんぞに上等も糞もねえ。人斬りだの人殺しだのは、世間様に顔向けできず、地面に額擦りつけながら歩いてる外道のすることだ」


 おれはそいつを盾にして次の魔術兵へと走った。

 あまりの事態に、魔術兵どもは引き金を引けずにいた。死なねえ程度に浅く斬ってやった甲斐があったってもんだ。


「――だが、お天道様に顔向けできねえのは、おまえさんたちも同じだろう? ろくすっぽ抵抗もできねえ集落を一方的に空から焼いちまうようなやつらなんだからなァ?」


 先頭の魔術兵が魔導銃を足もとに落とし、直剣を持ち上げたときにはもう遅い。おれは盾にした男ごと、そいつの左胸を一本突きで貫いていた。


 残り七人。

 菊一文字則宗を引き抜き、血を払う。

 逆袈裟に払い上げられた大剣を低い跳躍して躱し、魔導銃から飛び出した炎の弾丸を斬り払って、反す刀で足を斬る。


「……ッア……がああぁぁぁぁ!?」


 転んだ男の喉を撫で切りにし、渓流の水を蹴り上げる。水飛沫を目隠しにしてすぐさま屈むと、頭部上空を無数の炎弾が通過した。

 それらが着弾するよりも早く、おれはつま先で水底を蹴って距離を詰め、魔術兵の胴体を臓物ごと斬り払う。


「イアッ!」


 口から泡のような血を吐いた男の胸ぐらをつかみ、魔導銃の掃射から身を守る。

 骸の背中で炎が弾けて散った。


「な、なんなんだ、こいつはッ!?」

「クソクソクソクソ!」


 もう味方が盾にされていようが関係ねえ。魔術兵どもは恐怖のあまり、味方の骸ごとおれを灼き尽くさんとして魔導銃を連射し始めた。


 ほうらな。一皮ひん剥きゃ、みんな仲良く外道ってなもんだ。


 ブーツで水底を蹴って走る。炎弾が着弾する飛沫に紛れて、おれは浅い渓流へと身を沈めた。

 本来であればこの程度の浅さでは身を隠すことなどできはしないが、やつらが使っている魔導銃は炎の弾丸を発射する。水面に着弾すると同時に発生するのは、飛沫だけではなく蒸気もだ。


 てめえで目隠し作ってりゃ世話もねえ。ついでに言えば、流れが穏やかなため、渓流自体がすでに血で濁ってきていた。

 水中で足を斬り、転んできたところで首を撫で上げる。むろん、刃でだ。

 ぼちゃん、と音がして魔術兵の首が渓流を流れていった。


 残り四人。

 魔術兵らはすでに魔導銃をかまえているだけで、引き金にかかった指は石のように固まってしまっている。顔色は総じて青ざめていた。

 そろそろ二度目の戦意喪失が起こる頃合いだ。だが渓谷の下流にはおれが立ち、上流からはギーたちがこちらに向かってきている。

 逃げるにしても、おれを殺すしかない。


「もう撃たねえのかい?」


 おれは菊一文字則宗の切っ先をやつらに照準して、にたりと笑った。


「言っとくが、命乞いならするだけ無駄だ。だっておまえさんたち、助けを乞うた名もなき国を焼いちまったんだろう? それじゃあ殺られてもしょうがねえやなァ?」


 ごくりと喉を鳴らして、先頭の魔術兵が呟いた。


「そ、それは……だが、やったのは我々の部隊では――!」

「入隊先が違えば同じことをしていただろう? ああ、勘違いするなよ? 別に怒っているわけじゃあねえんだ。あそこに縁者がいたわけでもない。ただ、約束しちまったのさ」


 宿屋の小娘とな。

 水底をつま先でつかみ、飛沫を上げながら走る。


「あんたたちがアラドニアに殺されたら、アラドニアはおれが斬ってやるってなことをよ」

「ひ……っ」


 目を閉じ、魔術兵が魔導銃を出鱈目に乱射した。

 銃口の向きから弾道を予測し、左右に身体を振って躱しながら魔術兵の腕を斬る。


「あぎゃあッ!!」


 魔導銃を持つ手が宙を舞い、血を飛散させながら渓流に落ちる頃には、その魔術兵はすでにおれの足もとで骸と化していた。


 残り三人。

 菊一文字則宗の峰で肩をとんとんと叩きながら、おれは尋ねてみた。


「さて、おまえさんたち、どうするね?」

「も、もうやめてくれ! アラドニアには妻と子がいる!」


 言わんとすることはわかる。

 だがおれはあえて首を傾げてやった。一宿一飯の恩義をくれたアリッサのために。


「? それがどうかしたかい? 名もなき国にだって夫婦や親子はいただろうよ」


 魔術兵が絶句した。

 名もなき国での宿屋からの立ち去り際、一応の忠告はした。

 戦えないなら集落を放棄して逃げろ、と。それでも死んだのなら、それはアリッサ自身が決めた己の寿命だ。

 それでも、うまく逃げ延びていてくれるといくらかは気分も晴れるってもんだが、……あの分じゃ望みは薄かろう。


「そんな……」

「そんなも糞もねえだろ、莫迦が。なら一つ、提案してやろう。おまえさんたちが生き延びるための提案だ」


 三人の魔術兵らが同時にごくりと喉を鳴らした。


「さっきリザードマン族の囲いを突破したときのように、三人のうちの誰か一人を犠牲にしておれの左右を走って抜ければ、もしかしたら二人は逃げ切れるかもしれねェ」


 おれの提案に、三人がほんの一瞬だけ顔を見合わせる。

 迷いやがった。この阿呆どもが。

 やつらがおれから視線を逸らした瞬間を狙い、おれは一気に斬り込んだ。魔導銃の間合いを詰めて刀の間合いに入り、逆袈裟に刃を振り上げる。


「シッ!」

「ぎぁ――ッ!?」


 パッと赤い飛沫が散った。魔術兵の胴体と――……おれの口からも。


「……あ?」


 喀血だ。エリクシルが切れちまった。


「お……ぐ、がはっ! げぁっ!? か……っ」


 咳込み、また血を吐く。

 急激に呼吸が苦しくなり、目が霞み始めた。

 拙い……。息ができねえ……。

 残り二人。二人がぼやけて四人に見えちまっているが。


「……おいおい…………頼む……ぜ……」


 リリィの涎でも飲んどくべきだった。こりゃあ。

 膝が揺れた。

 二人の魔術兵のうち、一人がけたたましく嗤った。おれを指さし、耳鳴りで聞き取れない言葉を吐きながら。

 そうしてそいつは、いつの間にか膝を折って腰まで水に浸かってしまっていたおれへと大剣を持ち上げた。

 糞ったれ。


「――………………ぁ……ぁ……ぁぁぁあああああああああん、避けてくださぁ~~~~~~~~~~~~いっ!!」


 だが、大剣を振り下ろそうとした魔術兵は、なぜか遙か上空から隕石のように降ってきた女性体リリィの尻を頭部で受け、下敷きとなって水底で弾けて潰れた。


「? ……?」


 凄まじい衝撃と天をも貫く水柱に、一瞬、己が死にかけていることさえ忘れて目を丸くする。

 魔術兵の頭部が破裂するほどの衝撃だったにもかかわらず、リリィはてめえのでけえ尻を手で撫でながら涙目で立ち上がった。

 泣きそうなへの字口で。


「ぅぅ……いたたたた……。ぅぅ、こんなのどうやって着地したんですかぁ……」


 いや、おれにゃあ、おめえの尻がどうなってんのかのほうが不思議だよ?



ドラ子の雑感


ぅぅ……恥ずかしい……。

魔術兵なんかにラッキー助平されちゃいました……。

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