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第四十八話 共闘

前回までのあらすじ!


人斬り侍が問答無用で追っ手をぶった斬ったぞ!

 金属の鎧に包まれた腕が飛んだ。魔導銃を握ったまま、赤い軌跡を引きながら。

 驚愕の表情を向けた魔術兵の首を切っ先で貫く。


「貴さ――」


 周囲にゃ三名。

 薙ぎ払われた大剣を跳躍で躱し、一人の顔面を蹴って背面で空を舞う。

 重い鎧を着込んでいるやつってのは、上下の動きにひどく弱い。剣を跳躍で躱すなんざ造作もないってのによ。

 空中で両足を振り上げて後方回転し、やつらの背後に着地する。

 視線を切った。やつらはおれを見失っている。


「シッ!」


 鎧と兜の隙間、頸部を切っ先でなぞる。

 ゼンマイの切れたからくり人形のように動きを止めた魔術兵が、両膝を折って崩れ落ちた。


 前後左右から一斉にこちらを向く魔術兵。

 だが、魔導銃を持ったやつは無力だ。なぜなら――。

 正面の魔術兵が魔導銃をおれに照準した瞬間、左右の魔術兵らに銃身を押さえられた。


「やめろ! 魔導銃では同士討ちになる!」


 ――万に一つでもおれに避けられた場合、おれの背後にいる魔術兵(味方)に直撃する。よほどの阿呆でもなければ、引き金を引くこたあないだろう。

 おれはつま先で大地をつかみ、一挺の魔導銃を巡って戸惑う魔術兵の喉を、回転斬りで三者まとめて斬り払った。


「~~っ!?」


 喉を裂かれた魔術兵らは自らの手で傷口を押さえるが、無駄だ。命の温度は血液とともに傷口から溢れ出し、やがては動けなくなる。


「よくも仲間を――ッ!」


 おれの背後で魔術兵らが動いた。

 背中から斬られる恐れはもちろんあった。そんなことは百も承知だ。

 だが、その魔術兵らのさらに背後には――。


「ぐるぅぅああああぁぁぁっ!!」


 野獣の咆吼。

 金属の鎧などものともせず、肉を叩き潰す音が無数に背後から聞こえたあと、暴風がおれのざんばら髪を揺らした。

 一振り三人。上半身と下半身が引き千切られたように、さよならだ。

 魔術兵のさらに背後には、リザードマン族の戦士ギー・ガディアがいる。

 むろん、そこまでを頭で絵図にして、おれはこの位置を取るように着地したのだ。


「ふん、我を利用するか。小さきものよ」

「あんまり小せえ小せえ言うんじゃねえよぅ。オキタって名乗っただろうが。それに、おまえさんの腕を信頼してのことさ」


 外連味たっぷりに呟いて菊一文字則宗の刀身を肩に置くと、ギーが無表情のまま笑い声をもらした。


「クク。見かけによらず(さか)しきことだ」


 直後、降り注ぐ刃におれたちは背中を離した。


「見かけによらず、も余計だねェ」


 大剣の刃を(くぐ)って躱し、刀を肩越しにかまえて切っ先で騎士の左胸を貫く。菊一文字則宗の切っ先が、鎧を突き破って背部から露出した。


「あ……が……っ!?」


 斬るは適わずとも、突けば薄い金属なぞ、これこの通り。伊達にこの刀を相棒に選んだわけじゃあねえ。


 貫いた魔術兵の腹を蹴って斜面に転がし、低く払われた剣をブーツの靴裏で踏んで止め、頸部動脈を斬り裂く。

 血風巻き起こる――。

 およそ半数を斬った頃、空気が変わった。


「ひ……」


 誰かが後ずさりをした。

 おれは舌打ちをして、再びつま先で大地をつかむ。

 踵を返して逃走を図った魔術兵の頸部を背後から突き刺し、振り払った瞬間には、他のやつらはもう集落入口とは逆の方向へと雪崩のように走り出していた。


「逃がすな!」


 やつらを取り囲んでいたリザードマン族の戦士が先頭の魔術兵を薙ぎ払った瞬間、その左右側面を抜けて魔術兵らが囲いを突破した。

 一目散。逃げの一手だ。


 糞ったれめ。

 逃がせば報告されちまう。名もなき国の二の舞だ。

 もっとも、もうこのリザードマンの集落が怪しまれることは避けようもないことではあるが、それでも、殺せばリザードマン族が集落を捨てて逃げ出す程度の時間は稼げるはずだった。


「糞がッ!」


 おれはがしがしとざんばら髪を掻き毟る。

 これじゃ名もなき国と同じ末路だ。リザードマン族がどうなろうが知ったこっちゃねえが、ギー・ガディアは軍用飛空挺などという無粋なもんにくれてやるには、あまりに惜しい戦士だ。

 視線の先、ギーが若いリザードマン族の戦士に指示を出し、自ら先頭に立って走り出す。


「追え! 一人も逃がすな!」


 だが、厄介なことに魔術兵らは鎧を走りながら脱ぎ捨て、転がるように逃走し始めた。

 ああなっちゃ、追いつくのは至難だ。ましてや、ばらけて逃げられた日にゃ目もあてられねえ。

 今朝はまだエリクシルを飲んでいない。気は進まねえが走って追うべきか、今からでもリリィをたたき起こして竜化させるべきか。


「……あれれ? なんかいっぱい死んでますね。これ、アラドニアの魔術兵ですか?」


 ふと気づくと、銀色の長い髪を血風になびかせて、赤い懸衣を着た女が寝ぼけ眼を擦りながら集落の入口に立っていた。


「リリィ、急を要する! すぐに竜化してくれ!」

「は~い」


 とん、とん、と、魔術兵の骸を器用に飛び越えて斜面に立ち、リリィが光の粒子を衝撃波とともに散らした。その光が収まるより早く、おれはリリィの背中に跳び乗る。


「渓谷方面、低空で飛んでくれ。アラドニア兵を追う」

『承知しました、オキタ』


 銀竜シルバースノウリリィが翼を広げて空をつかむ。

 魔術兵の骸が大風で吹っ飛ぶと同時、シルバースノウリリィが大地より浮上した。二度目に空をつかんだ頃には集落は遙か眼下。

 輝く銀の鱗に包まれた長い首を下げると同時、シルバースノウリリィは斜面に沿うようにして凄まじい速度で空を駆け始めた。


 あっという間だ。地を這う生物の虚しきことよ。

 渓谷に差し掛かった頃にはギーを先頭とするリザードマン族らを追い越して、おれたちは十名のアラドニア兵の集団を巨大な影で呑み込んでいた。


『ここらへんは狭くて銀竜体では降りられません。どうしましょう』

「かまわねえよ。ちょいと行ってくる」

『わかりました。お気をつけて。あ、でもまだ結構高いですよ?』


 おれはリリィの背中を蹴って飛び降りる。渓谷の崖を蹴って落下の勢いを殺し、身体を回転させて――。


「……」


 地面が遠い。

 やべえええええ、ちょいと高すぎたぁぁぁぁ!

 巨大な岩石の上へと両足から着地する。


「ンがッ!? ――ッてぇ!」


 足先から痛みと痺れが這い上がり、背筋がぞわっとした。


「お、がぁう……! ……なまじ高所になれっちまうと、ちょいと危険だ……」


 だが、止めた。やつらの逃走を。

 散々っぱら渓流を走り、びしょ濡れとなって立ち止まった十名の魔術兵らが驚愕に目を見開く。

 いいねえ。いい光景だ。まぬけ面が笑える。


「ひぁ!?」

「な、なんだ!? こ、こいつ今、空から――!」

「く、ワイバーンか!」


 口々に見当違いのことを喚きながら、やつらは魔導銃をおれへと向けた。

 おれは菊一文字則宗を抜刀しながら唇を舐め、歪な笑みを浮かべる。


 さぁて、ここよりは剣戟第二幕のはじまりだ。


ドラ子の雑感


わあ……オキタって翼もないのにこんな高さから飛び降りられるんだ……。

そのうち自力でお空も飛ぶんじゃないかな……両手ぱたぱた~って……。

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