第三十話 エルフの集落
前回までのあらすじ!
本家本元の土下座は美しかった!
二つの足音が迷いの森を歩く。
一つは後ろ手に縛られて、泣きそうな顔で前を行くダークエルフとかいう種族の長身の女で、もう一つは縛った蔓の端を持ち、その背後を悠々と歩く銀竜シルバースノウリリィ嬢だ。
ちなみにおれは――。
「……すまないねェ……。……おれがこんな身体なばっかりに……」
「ふふ、いいですよ。お気になさらないでくださいませ」
なぜか上機嫌なリリィに背負われていた。
もう体内の栄養分は燃やし尽くしちまったのさ。
女に背負われるなんざ、侍の恥だ。
「……あぁ~、切腹もんだ」
「あら。今さら何を仰っておられるのですか。マスターはもう散々わたしの上に乗ったではありませんか。雄々しくて、荒々しくて、素敵でしたよ」
「……その言い方よ……」
前を行くダークエルフが振り返り、リリィではなくおれを睨み付けた。
「イ、イチャイチャするなっ! あたしがいることを忘れんなっ!」
もっともな意見だが、見解の相違も甚だしい。
リリィがダークエルフをぎろりと睨み、小声で呟く。
「……うるさい……」
「ひぃ!」
ダークエルフが足をもつれさせながら逃げようとした。
リリィは落ち着いた様子で彼女を縛った蔓を引いて寄せ、その背中をわしっとつかむ。
「早くあなたの村まで案内しなさい。マスターが飢えて死んだら、わたしがこの森ごとあなたを食べますからね?」
「も、もう着いてるよ!」
リリィが眉をひそめた。
景色はこれまでとまるで変わらず、光すらほとんど射さない深い森だ。四方どちらに視線を向けても、それは変わらない。
「魔術結界ですか?」
「そうだよっ」
やや拗ねたように吐き捨てて、ダークエルフが右手の人差し指と中指を立て、小声で何かを呟きながら斜めに手を振り下ろす。
おれは目を見張った。
音もなく、景色が破れたのだ。迷いの森の描かれた絵巻を破ったと言えばわかりやすいか。
ダークエルフは迷うことなく、その先の景色へと足を踏み入れる。
「……ついてこい」
森、拓けて――。
その一帯に闇はなかった。
大きな大きな、とてつもなく大きな樹木が五本ばかり生えているだけだ。それは迷いの森にあった大樹程度の高さではない。
「こりゃすげえ……」
思わず声に出た。
見上げりゃ十丈以上はあろうかという大樹の枝には無数の家屋があり、大樹同士の枝は木の橋で結ばれ、白肌と褐色肌の耳の尖った亜人種が行き来している。
樹上の集落だ。
リリィが橋を渡る彼らの姿を眺めて、眉の高さを変えた。
「ハイエルフとダークエルフが一緒に暮らしているの?」
「そうだよっ! 人間どものせいでなッ!」
ダークエルフの女がぎろりとおれを睨んできた。
「敵の敵は味方ってことで、手を打ったんだッ。数のいなくなったダークエルフが、ハイエルフの軍門に下ることによってなッ」
その口ぶりだと、ハイエルフとダークエルフも本来ならば仲の良い種族というわけではなさそうだ。立場的にはハイエルフのほうが上か。
おれは渇いた唇をこじ開けて、掠れた声で尋ねる。
「人間が、おまえさんたちの敵なのかい?」
「あたりまえのことを言うなッ!!」
ダークエルフの声色が変化した。
それまではどこか怯えの混ざった強がりに聞こえていたが、今のはそれさえ忘れた怒り一色だった。
憎しみに燃える瞳を向けられたのは、久方ぶりだ。
ま、おれにゃこれっぱかしも関係のねえ話だ。腹さえ満たせりゃそれでいい。
リリィがダークエルフの手首を縛っていた蔓を指先で切り、その場に投げ捨てる。
「そうかい。じゃ、案内してくれ」
「……ッ」
ダークエルフはおれを睨んでいたが、リリィに促されると不承不承に歩き出した。
大樹の洞に向かい、その中に造られていた螺旋状の階段を上がり始める。
途中、すれ違った肌の白いハイエルフの男が、ぎょっとしたように、リリィとおれに視線を向けてきた。
「人げ――っ!?」
「やあ、ちょいと邪魔するぜ」
「……」
返事はない。ただ、前を行くダークエルフと同じ種類の視線を向けてきただけで。
樹上の集落に到着すると、エルフたちの視線が一斉におれたちに集まった。
子連れの女エルフはあわてて自分の子をつかまえ、木造の家屋へと閉じ込める。男らは木弓や石でできた刃物に手を伸ばし、あからさまに警戒心をむき出しにした。水汲みの老いたエルフは水桶をひっくり返して逃げ出す。
「……傷つくねェ。これ、食いもんもらえるかねェ……?」
「わたし、無理な気がしてきました」
気づけばおれたちは、若いエルフに取り囲まれてしまっていた。どいつもこいつもかまえてこそいないものの、油断なく武装してやがる。大半がハイエルフだ。
「……おれもそんな気がしてきた……」
ほとんどが黒曜石の弓矢に、槍は少人数か。
不用意に近づいてこないあたり、アラドニアの魔術兵や名もなき国の門番よりはできるのだろう。
そのうちの一人。輝く金色の髪を持つハイエルフが、おれたちの横に立っていたダークエルフに声をかけた。
「ライラ、なぜ人間などを連れてきた。生かして帰せば、我々は行き場を失うぞ」
どうやらダークエルフの名前はライラというらしい。
「そ、それは――」
「これだからダークエルフは使えない。森で殺せば魔物が処理してくれたものを、危険を承知でわざわざ連れ込むなど」
ハイエルフたちが一斉にライラへと軽蔑の眼差しを向けた。
しかもやたらと物騒な言葉が聞こえちまった気がする。
あ~あ~……勘弁してくれよ。腹ぁ減った……。
ドラ子の雑感
食べ物……もらえそうにない……。
マスターが骨っこになったら、宝物にしよう…………くすん……。
※来週中にでもタイトルを変えようと思っています。
もっとなろう向けに色々詰め込んだもののほうがいいのかも……。
※追記
上記タイトルの件、私の書き方が拙く、皆様に誤解を与えてしまいました。
変更を決めたというより、まだその前段階です。
変更をすべきかどうかで迷っている、の間違いでした。
何が正しいのか、もう少し考えてみたいと思っております。
お騒がせいたしました。




