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竜×侍  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
おまけ

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第?話 参上ハゲ無双! ~おれとおまえと筋肉美~

これはあくまでもおまけです。

苦情はご勘弁!


 ねえ、これはたとえばの話さ。

 もしも一人の人間が世界中の悪党どもをみんなみ~んなぶっ殺したら、平和になった世の中でそいつはなんて呼ばれるんだろうね。

 あり得ないって? ……だからいったじゃないのさ。たとえばの話だって。

 世界に平和を導いた「英雄様」って呼ばれるのかな。

 それとも、大量殺戮を行った「稀代の悪党」と蔑まれるようになってしまうのかな。

 ふふ、あんた、興味はないかい?


 屋内であるにもかかわらず、麻のローブについているフードを目深に被ったその女は、挑発的な口調でそう呟いた。

 そうして語り出す。途方もなく長く、しかし哀しいほどに短かい物語を。

 魔王となった男の物語を――。


 レアルガルド大陸東端、とある港湾国家。潮風吹き付ける海の花亭――。

 物語の続きを語り終えた女は、安酒の瓶を男のグラスへと傾けた。とぽとぽと小気味よい音を響かせ、紫色の果実酒が注がれる。


「……魔王。その男は、そう呼ばれたのか」

「そうさ。人間たちの間ではね」


 男は指先で、決して小さくはないグラスをつまんで一息に煽る。

 指先。そう、男の手は人並み外れて大きかった。


 そこから視線を少し上げれば、人間離れしたほどに筋肉を発達させた腕が見える。どれほどまでに鍛えればこのような腕になるのか、女には検討もつかない。なんかもう若干気持ち悪いくらいだ。血管が生き物のように脈打つところなど、特に。


 実のところ、さらに視線を上げれば、もっと珍妙なものを見れるのだが。

 残念ながら目深に被ったフードが邪魔で、今それをまじまじと見ることは叶わない。先ほどちらっと見えて以降、とても気になってはいるのだけれど。

 頭皮という名の不毛なる砂漠に咲く、たった一本の毛という花が――……。


「……もう五年も前の話さ」

「それからどうなった?」


 低く、低く。そして穏やかな声だった。


「想像通りさ。アラドニアの残党が一千万の民と結託し、魔王とその仲間に挑んだんだ。むろん、結果は火を見るよりも明らか。魔王の刃は空疾ぶ斬撃となり、一振りで討伐隊二〇〇〇名の命を奪った。民も兵も、向かい来たものは等しくね」

「……そうか、奪ってしまったか」


 女は少し驚いていた。

 目の前の席に座る男が、あっさりと信じたからだ。

 誰が信じる? 一振りで二〇〇〇もの命を奪う斬撃など。

 それでも男は呟くのだ。優しい声で。


「……つらかろうな、魔王は」


 これまでこの話をした相手には鼻で笑われてきた。魔導技術(テクノロジー)が失われた今、そのような力などレアルガルド大陸に存在するわけがないのだ、と。

 だが、信じた。この男は。ハゲの分際で。


「討伐隊とやらもさぞや驚いたであろう。戦意など微塵も残さず消し飛ぶほどに」

「あ、ああ。そうさ。……魔王の一撃が二〇〇〇の命を奪ったから、それで済んだ。それだけで残る討伐隊は撤退したんだ。そうでなければ、どちらかがどちらかを殲滅するまで戦いは続いていたはずだ」


 それは、最小限の犠牲だけで戦いを終えたいと願った魔王の、精一杯の善意だった。

 殺しに善も悪もないと、魔王は言うけれど。


 女は咳払いをして酒に口をつけ、唇を湿らせた。

 しまった、と思った。喋りすぎたのだ。余計な言葉を付け加えてしまった。

 深く息を吸って吐き、女は気を落ち着けて続けた。


「そうして軍事国家アラドニアは崩壊したんだ」


 男はやはり指先で酒瓶をつまむと、女のグラスへと果実酒をなみなみと注ぐ。まだ大して減ってもいないのに、なみなみと。零れるのも気にせず豪快に。


 男の放つ命の輝きに押されるように、女は自らの口から言葉が滑り出してゆくのを感じていた。己の話術に巻き込むつもりが、いつの間にか語らされてしまっていることに、女は未だ気づいていない。

 この男の放つ魅力に取り憑かれてしまっていることに、気づいてはいないのだ。


「だけど、二〇〇〇の民の命を奪った魔王を、この大陸に住む人々はゆるさなかった。脅威であると判断したんだ。そうして、リリフレイア神殿国やアリアーナ神権国家が、神の名の下に魔王の討伐を決めたのさ。他の国家も次々とそれに追随した。魔王は常闇の眷属をアラドニア北方に集中して住まわせ、それに対抗した。長い長い魔王討伐戦争の始まりさ」

「……哀しい戦争だな」


 ああ、喋ってしまう。ここまでは我が主、魔王とて望んではいないというのに。


「そうして四年が経過した。この頃から黑竜“世界喰い”の動きが活発となり、様々な国家が襲われ始めた。皮肉にもそのおかげで魔王討伐戦争は停戦、けれど、魔王の住むアラドニア地方にも黑竜はやってきた」

「む……」


 男はまた一息に酒を煽る。

 女は無言で男に酒を注ぎ、長いため息の後に語り出した。


「魔王と常闇の眷属は黑竜を討つため、神竜国家セレスティの精鋭とともにワイバーンにのって空へと飛び立った。だが、人類を散々苦しめてきた魔王軍の力を以てしても、黑竜は墜とせない」


 一息ついて、女は寂しげに瞳を伏せた。


「あれは本当に地獄のような戦いだった。名だたる戦士が幾人も逝った。魔王を庇って死んだものもいる。魔王は――あいつはどうしようもないほどに落ち込んだ」


 男がグラスを持った腕を伸ばし、女のグラスへと軽くあてる。

 きん、と小さな音が響いて、女は視線を上げた。


「勇敢なる戦士たちに」

「あ、ああ。うん。勇敢なる戦士たちに……」


 そうして同時に酒を煽る。

 ハゲのくせに、ずいぶんと気障な男だ。そんなことを思った。


 あの戦いでは、アラドニアの魔王軍も、セレスティの竜騎兵らも、毒竜に喰い殺され、黑竜の瘴気を浴び、次々と死んでいった。

 あの頃の魔王の心中を思えば、今でも胸を締め付けられる。


 あいつは毎日のように、未だ目覚めぬ相棒の横で涙を流していた。

 あたしには、どうすることもできなかった。慰めることさえ、させてもらえなかった。


「誰もが思った。もう駄目かもしれないと。けれど、目覚めたんだ。その段になって、魔王の騎竜がようやく目を覚ました。絶滅したとされる銀竜さ」

「な、なぬぅ!? ぎ、ぎ、銀竜だとォ!?」


 がたり、と男が椅子から立ち上がる。

 その体躯、まるでオーガのごとく。下半身は大樹のように地面を挟み込んで離さず、上半身からは空をも揺るがすほどのエネルギーを迸らせていて。

 驚いた女が、思わず椅子ごと仰け反る。


「ひ……っ」


 その拍子に、一瞬、魅惑の頭皮が見えた。

 やはり一本だけ毛が生えている。しかもスウィングドアから吹き込むわずかな風に、踊っていて。

 なんだこれは。なんの冗談だ。笑わせようとしているのか。それとも――。


「……お、お、落ち着きなよ。ま、まあ、驚くのは無理もないさ。人間たちの間では、絶滅したって言われてるしね。銀竜は」

「そ、それで? それでどうなったのだっ!?」


 男の食いつき方が変わった。エリクシルが生み出す富にでも、目が眩んだのだろうか。

 いや、いやいや、違う。この瞳は、無邪気な子供の瞳だ。

 らんらんと輝かせて。


「ふ、ふふ」


 思わず笑った。


「む? どうしたのだ? はっ!? よ、よさないか、私の頭皮を見つめるのは」


 男の首から上がカ~っと赤く染まり、男は大きな両手で頭皮をそっと覆い隠す。

 どうやら笑ってはいけなかったらしい。我慢。そう、我慢だ。


「なんでもないさ。ぷふっ」

「……」


 とても哀しげな瞳をしている。


「と、とにかくだ。魔王の騎竜が四年ぶりに目覚めた。それも、幼体から成体へと成長してだ。むろん、古竜種が一体増えただけでどうにかなる相手じゃない。けれど魔王の歓喜は、敗戦濃厚で気が落ちていた常闇の眷属たちに伝わった。みんな魔王のことが大好きだったから」


 男が豪快に笑みを浮かべる。


「士気が上がったかっ」

「そう! お祭り騒ぎさ! そうして魔王軍は多大なる犠牲を出しながらも、ついに黑竜を討ち払った。騎竜の飛翔能力のおかげで魔王の刃が届いたんだ。けれど結果は二〇〇年前の異種族連合のときと同じ。魔王軍は逃げる黑竜を見失った。仕留め損なったんだ」

「人類は手を貸さなかったのか?」


 女は苦笑いで肩をすくめる。


「手を貸す? それどころか相打ちを願ってたんじゃないかな。ワイバーンと竜騎兵を派兵してくれた神竜国家セレスティ以外はさ。ひどい話さ。人間たちのために悪を斬って斬って斬って、戦って傷ついて戦って、ぼろぼろンなってようやく辿り着いた先が、人類の最大の敵対者だったなんてさ」

「なんともやりきれんな。人にある光を見出すことができず、闇のみを見続けてしまったか」


 男がため息をつく。

 その頭皮は光を放ち、輝いてはいるけれど。


「そうだね。黑竜戦が終わった瞬間、また魔王討伐戦争の再開さ。もっとも、魔王軍、人類、双方ともに黑竜に国力を奪われた今は、国境付近での小競り合いくらいのものだけどね。けれど時間が経てば、また規模は大きくなる。きっと」


 腰を浮かせていた男が、ようやく椅子に身を置いた。

 木製の椅子がぎしりと悲鳴を上げる。それほどまでに男の体躯は大きい。


「さて、あたしの話はこれで終わり。ま、行きずり女の戯れ言さ。信じるも信じぬもあんた次第ってとこだね」


 女がゆっくり立ち上がる。


「なぜ、今の話を私に?」

「さあね。ただ、魔王は望んでいる。長く苦しい旅の終わりを」

「私にその役割を担えと?」


 フードを目深に被ったまま、口もとに笑みを浮かべる。


「あんたの好きにすればいいよ。あたしはただ魔王の真実を知って欲しいんだ。世界に。だからこうして時々、人間たちに潜り込んでは語っているのさ」

「貴女は魔王の手の者か」


 少し迷った。少し迷って、そうして決めた。

 この男には、何かしらの力のようなものを感じる。大勢を変化させる大いなる力だ。それほどまでにエネルギーを感じる。肉体から、言葉から、心から。

 頭皮以外から。

 頭皮はあれだ。概ね渇いてる。時間の問題。うん。


 だから――。

 女は自らの手でフードを取った。危険を承知で。

 頭を振って長く黒い髪を流し、同じ色の瞳を男に向けて。褐色肌に――長い耳を見せつけるように。


「おまえは……先の物語に出ていた……」

「ライラ。ダークエルフ族最後の生き残りさ」


 直後――。

 ざわ、と海の花亭がざわめいた。

 そこかしこから不穏な空気が漂い出す。


「おい、あいつ、常闇の眷属じゃないのか……」

「ダ、ダークエルフ族だとッ!?」

「と、捕らえられれば、け、懸賞金が……」

「いや、殺せ……殺される前に殺すんだ……」


 剣を抜くもの、杖を掲げるもの、この場から逃げ出すもの、それぞれ動き出す。

 だが、男は。その男だけは微動だにしなかった。それどころかのんきに酒を注ぎ、一息に煽って。


「ならばライラ。銀竜殿に――あ、いや、む、ぅん。魔王と銀竜に伝えておけ。私が必ず会いに行く、と」

「魔王と、戦ってくれるのかい?」

「さてな。出方次第だと言っておこう」


 それでいい。そのほうがいい。

 だから信用できる。大丈夫。あたしは男を見る目だけはたしかだ。なんたって、あの魔王を見出した女なのだから。


「そしてほんのついでに、銀竜殿にエリクサーを分けてもらいたい。いや何、ほんの少しでいいのだ。そう、掌に垂らした数滴を、たとえば……たとえばだぞ? 頭皮に塗り込むだけの量があればそれでいい。湿らせる程度だ」


 あ~、やっぱこいつ駄目かも。毛根を甦らそうとしているらしい。

 そんなことを考えながら、ライラは幻術を発動させる。

 姿を揺らがせ、剣を抜いた男たちの隙間を悠々と歩いて抜けて。


「待っているよ。アラドニアで」


 スウィングドアをくぐる。

 夜の港町は、波の音と潮の香りがしていた。

 エルフだから森は好きだが、海も悪くはない。


「ダ、ダークエルフが消えたぞ!」

「どこへ行きやがった!?」

「おい、もしかしてあのハゲも常闇の眷属じゃあないのか?」

「たしかに。人間離れしすぎている……」


 アラドニアに帰ろうと歩き出した直後のことだ。

 海の花亭からテーブルを床ごと破壊したかのような凄まじい轟音が響き、ライラは立ち止まった。


「ぬぁんだと貴っ様ァァァァ! 今、私をハゲとひどく無慈悲に軽蔑した瞳で一片の容赦もなく人間ではないなどと罵ったのは誰だァァァァ!! 貴様か? 貴様かァァ? はァン?」

「な、なんだこいつ……ひ、やめ――あがごぐッ!?」

「やめろ、このハゲ野郎! そいつを放――げごッ!!」

「私はハゲではない! 私の頭皮にこの(マリアンヌ)がいる限り、あくまでも薄毛だと言えようッ!! ――とうっ!」


 木造の海の花亭の壁に穴が空き、気絶した男の首が飛び出した。


「うわ……っ」


 あまりにひどい喧噪に、ライラは顔をしかめる。

 どうやらハゲという言葉は、あの男にとっての禁句だったらしい。

 正直、危なかった。喉もとまで出ていた。


「……あちゃあ。やっぱ人選、間違ったかも……」


 呟き、少し笑った。

 そうして鼻歌交じりに走り出す。




?の雑感


あ~あ、ジンさんったら、ま~たやっちゃってる……。

あははっ、これはまた宿を変えなきゃいけませんねえ。


なんのこっちゃわからない方は、

召喚ハゲ無双! ~剣と魔法と筋肉美~(完結済)

(http://ncode.syosetu.com/n0082ct/)をお読みいただけると幸いです。


エピソード0『召喚ハゲ無双』は勇者の物語。

エピソード1『竜×侍』は魔王の物語。


10/15追記

竜×侍で広げた風呂敷は、↓の物語、


エピソード2『魔法少女をあきらめない!』(連載中)

http://ncode.syosetu.com/n6243dn/


に引き継がれております。


もしよろしければそちらのほうも覗いてやってください。

もちろん前二作を読まなくても楽しめるように作っておりますので、初めての方もご安心ください。


『竜×侍』のあとがきは活動報告のほうへ。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/417132/blogkey/1513080/

ご意見ご感想はいつまでも受け付けております。

忌憚なきご意見、ご感想をお待ちしております。



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[良い点] 楽しかった~(≧∇≦)b ゲイルは紳士なのですが、良いやつでした(笑) [気になる点] メルは、ジンさんと会う前に変態覚醒してたのか? [一言] これから、エピソード2へ ε=ε=(ノ≧…
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