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第百二十二話 地下へ

前回までのあらすじ!


大変だ、ドラ子が負傷したぞ!

 瓦礫の陰に潜んでいた魔術兵の残党の首を刎ね、崩れて空の見える廊下を走り続ける。


「ゲイル、まだかよ!」

「地下へと続く階段はいくつかある。最も近い位置にあったものは埋まってしまっていたのでね」


 ゲイルが前方、魔導銃をかまえた魔術兵の胸部へとロングソードを投げて突き刺す。そいつが仰向けに倒れるよりも早く駆け抜け、おれは歯がみした。

 糞! 時間はあまりかけられねえ。

 謁見の間に置き去りにしてきたリリィの安否が心配だ。


「うおおおおおっ!」

「――っ!?」


 大剣を大上段にかまえ、崩れた上階から飛び降りてきた魔術兵の振り下ろしを転がって躱し、足もとの瓦礫を蹴り上げて顔面にぶつけ、怯んだ隙に喉を貫く。

 その隣でゲイルが苛立たしげに頭を掻いた。


「だめだ、ここもか」


 地下へと続く階段らしきものが、瓦礫ですっかり埋もれちまっている。


「他は!?」

「脱出経路が地下に繋がっている」


 三名の魔術兵どもが次々と上階から飛び降りてくる。


「そりゃあどこにある!」


 おれは先頭のやつの足を斬って飛ばし、二人目の斬撃を半歩退いて躱して、三人目の胴体を下半身から切り離した。


「つぁ!」

「あぐ……!?」


 逃した二人目の胸部をゲイルのロングソードが貫くと同時に、足を失ってなお魔導銃を抜いた魔術兵の心の臓を菊一文字則宗の切っ先が破る。


「か……っ」


 びしゃり、と血が跳ねた。

 羽織の袖で返り血を拭っても、顔に付着した血の量は変わらねえ。そりゃそうだ。浅葱色だった羽織も、今やすっかり赤黒く変色しちまっている。


「城下の中庭にある井戸だ」

「糞ったれ!」


 中段中庭から下に見えていた中庭だ。

 おれたちは示し合わせることもなく、引き返す。


「気をつけたまえ、サムライ。城下中庭には無傷の魔術兵らが今も山ほどいるぞ」

「わぁ~ってるよ!」


 倒壊した廊下から城下中庭へと飛び出し、闇に紛れながら魔術兵の集団へと疾走する。

 速く、速く、もっと。


「な――ッ!?」


 負傷兵に肩を貸していた魔術兵がおれに視線を向けた。

 おれはすり抜け様にそいつを斬り裂き、井戸を目指してまっすぐに走る。右へ進路を変えて左の敵を斬り、薙ぎ払われた大剣を跳躍で躱して、大上段から兜ごと魔術兵の頭を割る。


「て、敵襲! 敵襲ゥゥ――がぐッ!!」


 叫んだ男の喉にロングソードが突き刺さる。

 素手になっちまったゲイルを目掛け、同時に六名の魔術兵が襲いかかった。だがゲイルはあわてることなく両手を振って剣の雨を降らせ、最後の二振りを両手でつかむ。


「ぬんッ!」


 ゲイルの両腕を広げた回転斬りに、悲鳴が上がった。

 三名の魔術兵が胸や腹を裂かれながら吹っ飛ばされる。

 魔術兵どもが動き出す。中段中庭から下を見たときの記憶では、その数およそ二百といったところか。


「……糞が!」


 やってやれねえことはねえ。だが、時間がかかっちまう。

 斬撃疾ばしで一気に薙ぎ払ってやる――ッ!

 立ち止まって納刀をし、体勢を低くしたおれの背中をゲイルが両手で押した。


「放っておいてかまわん! 井戸に飛び込め、サムライ!」

「ぬおっ!? お、おま――!?」


 まるで猫にでもするかのようにおれの首根っこをつかみ、ゲイルが跳躍する。魔導銃の一斉掃射が始まったのはそのときだ。

 橙色の炎弾をいくつも掠めながら、しかしそれでもゲイルはおれを片手で運んだまま井戸へと飛び込むことに成功した。


「おおおおおおおっ!!」

「ぬああああああっ!?」


 落ちる。一寸先すら見えぬ、狭い闇の中を。

 あまりの浮遊感に、ふぐりのあたりがひゅんっとなった。だがそれも一瞬のことで、ゲイルは井戸の底の水に着地するなりおれをぶん投げて、己も横穴へと飛び込んだ。


 その直後のことだ。炎弾が雨あられと井戸底に降り注いだのは。

 爆発、炎上。井戸底で水蒸気が爆ぜ、横穴に逃れたおれたちを石の飛礫(つぶて)が襲った。


「いでででででッ!」

「こ、こら、私を盾にするんじゃない! あだぁ!?」


 あわてて距離を取り、おれたちはへたり込んで呼吸を整える。


「はー……ふー……。……おい、ゲイル」

「ふー……ふー……、何かね……?」


 おれは掃射の止んだ井戸底に視線を向けて、ゲイルに尋ねる。


「やつら、なぜ追って来ねえ」

「一般の魔術兵は知らないのだ。井戸の底が地下や城外に繋がっていることをね。私はいずれ役に立つだろうと思い、ラドニス城を単独で調べ尽くしたゆえに知っている」


 ゲイルが井戸底に視線を向け、悪人の笑みを浮かべた。


「おそらく魔術兵は、ようやく我々を仕留めたと思って油断しているはずだ。もっとも、運悪くやつらの中に侯爵以上の位を持つものがいるのであれば、ばればれだがね」

「……追って来ねえってことは?」

「いなかったのだろう。レスギルゼナ公爵とあそこで鉢合わせたことは運がなかったと思ったけれど、考えようによっては彼をドラゴン嬢の尻に敷けたのだから運が良かったのかもしれないね」


 運か。莫迦莫迦しいとは思いながらも、運ってやつぁ存外に莫迦にできねえもんだ。生きるや死ぬやの戦いをしているときに、敵味方の力が拮抗するならば、最後に勝負を決める要素は運でしかない。

 おれは立ち上がり、尻についた土を払った。


「さぁて、なら行くかね。ツキがあるうちによ」

「ははっ。戦女神リリフレイアの加護かもしれないな」

「冗談きついぜ……」


 そんなもんがあんなら、真っ先に神罰が下されるのぁおれだ。

 二人して立ち上がり、手探りで歩き出す。井戸の底の横穴なんざ、月の光も届きゃしねえ。なんも見えねえ。


「おい、魔術光ってのぁ出せねえのかィ」

「私には無理だ。私の魔法は地に属する魔法でね。魔素を生み出せ魔力の才能があると言っても、属性には個人差や得手不得手があるものだ」

「小難しいこたぁどうでもいい。どうせおれにゃ才能自体ねえからな」


 ゲイルが少し笑った気配がした。

 壁に手をつきながら無言で歩いてしばらく、おれはざらざらとした岩肌に手を滑らせて眉をしかめる。


「どういうこった、行き止まりじゃねえかよ」

「どきたまえ」

「……ヒェ! お、おい、尻をつかんで引っ張るな! 気色の悪ィ!」

「なんと! ……後ほど消毒せねば……」


 殺すぞ。

 おれとゲイルが位置を入れ替えてしばらく、がこ、と小さな音が鳴って、進行方向の壁が崩れた。


 おれは眩しさに眼を細める。

 白色の灯りだ。行灯(ランプ)の中に炎ではなく、魔術光が灯っている。左右に長く続く通路があって、数歩ごとに行灯(ランプ)が設置されていた。つまり、おれたちは横穴から顔を出したということになる。




ドラ子の雑感


……足音が近づいてくる……。

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