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竜×侍  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
第一章

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第十話 一人と一体

前回までのあらすじ!


侍に侮辱されたドラ子が激オコプンプン子になったぞ!

 気づくかよ、ふつう。誰だって女が怪物だったなんて思いやしねえはずだ。

 女は洞穴の奥で膝を抱え、壁にもたれかかって、ぶすくれている。


「……悪かったよ」


 ぎろり、空色の瞳がこちらを睨む。


「あのような侮辱は初めてです。怪物だなどと」


 雪融け水のように冷たく、綺麗で透き通った声だった。

 どうやらこの娘が、あの怪物そのものだったようだ。

 こいつの言葉を信じるなら、この娘は竜族、それも由緒正しき銀竜と呼ばれる古竜族の生き残りらしい。

 おれは菊一文字則宗を抱えるように胡座をかいて、女に視線をやった。


「侮辱したつもりはない。おまえさんを怪物と称してしまったのは、竜ってのがなんなのかをおれが知らなかったからだ」

「竜を? 知らない?」


 訝しげな表情を向けられ、おれは肩をすくめる。

 正確には、おれの知っている幻獣の竜とはまるで姿形が違っただけだが、あえてそれを説明する必要はないだろう。ちなみにおれの知ってる竜ってのは、鰻に手足が生えた翼もねえニョロニョロした薄気味悪いやつだ。

 もっとも、絵巻物でしか見たことはない。しょせんは幻獣だ。


「そも、ここがどこかもわからねえときたもんだ。江戸は遠いのかい?」

「エド……」


 おれは苦虫を噛み潰したような表情で言い直す。


「ああ、もう奠都(てんと)されて東京だったか」


 とうきょう。無粋な響きだ、まったく。


「トーキョー……。それは国の名前でしょうか?」

「国? 東京は帝都だが国じゃねえなァ」


 異国か、やはり。

 この女の髪と瞳、それに体つきを見れば日本人じゃねえだろうと思ってはいたが、なまじ言葉が通じるもんだから可能性を否定していた。


 しばし考える。

 いや、いやいやいやいや。海なんざ渡ってねえだろ。渡れる身体でもねえ。大海のど真ん中でおっ死んじまう。


「うん?」

「?」


 おれが首を傾げると、女がおれに合わせるように、かわいらしく首を傾げた。


「おまえさん、日本って国はわかるか?」


 銀色の長い髪が左右に揺れた。

 終わった。たぶんもう江戸にゃ帰れねえわ、これ。まあ、最終目的地はあの世だから別にいいんだけどな。


「……ここはどこだ?」

「ルナイス山脈です」


 案の定、聞いたこともねえ。

 女はかまわずに続けた。


「人間たちは狂気の山脈と呼んで近寄りません」

「ああ。生命がないからか」

「はい」


 鳥や動物はおろか草木に虫までいないとなると、納得もできる。もっとも、ここには一人と一体、それに土の下には白骨までいやがるが。


「ああ~……もういいや……」


 考えるのがめんどくさくなって、おれは洞穴の壁際に腕枕をして寝転んだ。


「どこでくたばろうが大した違いはねえ。なあ、おまえさん。もしもおれがここでくたばっちまったら、あの白骨みたいに後生大事にしてくれるかい?」

「マスターは死にません」


 おれは視線だけを女に向けた。

 今さらだが、なかなかどうして赤の着物が似合っている。面妖な髪色をしているというのに不思議だ。


「肺病なんだよ。医者からも見捨てられた身でな」

「それでも死にません。眠りの間にわたしの血を飲ませましたから」

「はは、おまえさんの血は不老不死の妙薬だとでもいうつもりかィ? そいつぁいいね、実にいい!」


 女が額に縦皺を刻んでから数秒、「あっ」と口を開けた。


「申し訳ありません。マスターがひどく無知であることを忘れていました」

「言い方!」


 女はおれの苦言を無視して語り出す。


「不老にも不死にもなりませんが、銀竜の血液は万病に効く薬なのです。ヒトの間ではエリクシルと名付けられ、高値で取引されています」

「へ~え」


 眉唾だ。んなわけねえだろ。こちとらしょっちゅう喀血してる身だ。残念ながら、てめえの身体のことはてめえが一番わかっ――。


「……」


 気づく。朝から一度も喀血していないことに。

 おれは跳ね上がって飛び起きる。肉体が軽い。気のせいだと思っていたが、これほどまでに軽いのはいつぶりか。

 それに、銀竜と戦ったときの傷まで消えていやがる。そういや、おれが斬った傷もこの女にはない。片目なんざ潰してやったというのに。

 おれは上体を起こして尋ねた。


「おい……おい、本当かよ……」

「はい。そして銀竜は――いえ、古竜族すべてですが、血液を最初に捧げた方の言葉に逆らうことを、盟約にて禁じられています」

「盟約?」


 女が大きな胸にそっと手を置いて瞳を閉じ、静かに、厳かに呟く。


「はい。銀竜シルバースノウリリィは、マスターの言葉に逆らうことをゆるされていません。もしも盟約を破りし暁には、わたしの肉体は肉片ひとつ残さず腐り落ちて自壊し、精神は地上から消滅するのです」

「冗談だろ?」


 女はこたえない。真顔のまま、じっとこちらを見つめて。


「マスター、もしもあなたがわたしに死ねと仰るのであれば、わたしにはそのようにするしかありません。抱きたいと仰るのであれば、不慣れではございますがそれにも従いましょう」


 話がぶっ飛び過ぎてて理解できない。

 正座を組み、三つ指をついて、女が静かに頭を下げた。


「ですからどうか、シルバースノウリリィを、いつまでもあなたのお側にいさせてくださいませ」


 背中のあたりに変な汗を浮き出させたおれは、何度も何度も瞬きをしながら洞穴の中で視線を泳がせる。

 え、これどうしたらいいの?


ドラ子の雑感


どきどき……。

ぅぅ……、……断られたらどうしよう……。

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