鏡
最近鏡の中の自分がおかしい。
それは、3日前からずっと思っていたことだった。
今朝だって、髪をとかしている時に右手でくしを持っているはずが、鏡の中の自分は左手でくしを持っていた。
そして昨日は、ひとりでに笑っていたのだ。
もちろん、自分は笑っていない。
会社につくと、友人が話しかけてきた。
「おはよー麻里。最近元気ないね。隈も出来てるし、どうしたの?」
「おはよう奈穂。何でもないよー」
「今日さ、飲みにいかない?二人で。」
おそらくこれは、奈穂なりの励ましなのだろう。
こういう時に友達がいると、嬉しい。
「いいよ、行こう」
でもやっぱり化粧室の鏡を見ると、おかしい。
自分はピンク色の口紅をつけているのに、鏡の中の自分は真っ赤な口紅をつけている。
何でこうなったんだろう。
いつからだっただろう、自分がこんなにも生きることに不満を覚えたのは。
奈穂と飲みに行っても、気持ちは晴れるばかりか沈んでいく。
「麻里どうしたの?しんどいんだったら帰る?」
「あー、うん。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに。」
そう言い、家に帰った。
…やはり、鏡の中の自分がおかしい。
だって、鏡の中の自分の後ろに奈穂が、立っているから。
いや、これは現実なのかもしれない。
試しに名前を読んでみる。
「奈穂?どうしたの?何でここにいるの?」
だが誰も喋らない。
「奈穂?あれ?本当にあなたは奈穂?奈穂!」
何でここにいるのだろうか。
「奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈奈穂穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂奈穂」
どこかでプチンと、頭の切れる音がした。
「2○1号室の山田さん、また鏡に向かって喋り続けてたそうよ」
「まあ仕方ないわね。確か奈穂ちゃんだっけ?何者かに殺されたんだもんね〜」