第三話
ここには悲鳴が溢れていた。沢山の人が暮らしていたのだろう、レンガにより建てられたいくつかの家。耕された農地、それは人の夢の一つの形。だが、それは今や人の笑顔を生むための物ではなく、ただの残骸。
それらは大きな力によって無理矢理破壊されていた。その間を逃げ回る人、人、人。
あるものは子供を抱き、愛するものの手を引き、年老いた親を背負い、死から逃げていた。
壊れた廃墟の中心で哮る竜巻。
それが人々に死を与えていた。全ての者に平等に。そしてたくさんの悲鳴のなかで一際大きく甲高い赤ん坊の鳴き声が響きわたり、その世界は唐突に終わりを迎えた。
そこは今までの世界とは全く違った場所、小鳥の声が聞こえてき、カーテンなどついていない窓からは太陽の光が入ってくる。
「またあの夢だ」
そしてその平和な世界で一人の少女は頭を抑えながら小さなベッドの上に更に小さな体を起こす。
その目の下にはかすかであるが涙のあとがあった。
「泣いてたんだ」
少女は鏡を見て目の下をこすりながら言う。年はまだ十に届いていないだろう。小さな背丈に不りつあいな程にのばされた髪の毛は寝癖によってボサボサになっている。
手に持った鏡を見てそれを確認した少女は最早先程見た悪夢などは頭の中に無いのだろう、布団から体を抜け出すと洗面所に向かって歩き出す。窓の外には丈夫なレンガ造りの建物が朝日に照らされていた。まるで壊れた建物を修理したように不自然に色の違うレンガで造られた家が。