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B1-2「しかも火力がコントロールできる」

「と、いうことがあったんだけど……」


 翌日、運動部特有の早起きで教室にいた信吾に、ぼくが戦争イベント中に出会ったおかしな人物のことを話すと、彼は呆れた顔をして、頭を掻いた。


「あー、つまりそいつは、大将とほぼ互角に斬り合った上で、岡本太郎の名言を残して自爆したと。なんだその変態は、イカれてんじゃねえか?」


 ルドラが足を止める要因になった男の言葉は、なんとなく言いづらかったので話していない。確かにこれだけ聞くと、行動が意味不明すぎる。


 そこから鑑みると、あのガルドとかいう男の目的は、ルドラにあの質問を投げかけることだったと推測できるけれど……。


「撃破数が少ない割に戦功値が多かったのはそれが原因か。やっぱレベル9はデケえよな」


「自爆でも加算されるとは知らなかったな。ほんと、意味不明だよ。自爆してレベル9の戦功をプレゼントとか、本末転倒だよね」


「実は大将のファンだったりしてな」


「態度かなり悪かったけど?」


「いや、あれだろ、気を引きたいが為に意地悪するとかいう……」


「その想像は流石に気持ちが悪いからやめて」


 ぼくと信吾は顔を見合わせると、中身の伴っていない笑いを教室に響かせた。


「何よその笑い方、朝から気味が悪いわね」


 と、タイミング悪く教室に入ってきた橙火が顔をしかめて声をかけた。


「よお、バイトの忙しい橙火様。今月はいくら稼げたんだ?」


「何よそのイヤミ。あんたたちこそ戦果はどうだったの? Sランクに留まれそうなのかしら。あと様つけんな」


「そいつはもちろんだぜ、橙火様。が、ちょいと珍事が発生してな……」


 信吾が面白おかしいテンションであのイレギュラーの男の事を話すと、橙火は疲れ目になったみたいに目尻を押さえ、しかしすぐにけろりとした表情になった。


「そう、自爆でも敵に戦功が入るのは案外聞いたことなかったわね。戦功欲しさにやるバカがいそうなものだけれど」


「自爆しようにも近づけないんじゃ意味がねえってな。一撃で殺したきゃレベル7にするしかねえし、分の悪い賭けだわな」


「それをレベル9でやろうってんだから、相手も相当だよね……」


 ぼくがしみじみと言うと、橙火は鼻で笑った。


「ネットの海には色々な生物がいるものよ。あんたもこれからは気をつけることね」


「そうだね、そうする」


「おいおい大将、何で俺の方を向いてるんだぜ?」


「あんたが一番わかってるでしょ変態」


 信吾はやれやれとため息を吐く真似をすると、この話は終わりだとばかりに話題を変えた。


「で、肝心の連携の利用方法だが、どうにもこれがしっくり来なくてな。毎度違う味方と連携をとるってのは、ちょいとばかし無理があるんじゃねえか?」


「まあ、そうでしょうね。イベントに出てるプレイヤーが全て『分かってるやつ』ってわけじゃないでしょうし」


「おいおい、そうと知っていて何であんな作戦を振ったんだよ」


「何事も実験よ。それで具体的にどんな所に無理があったのかしら? ランカーなら、そのくらい分かるでしょ」


「こりゃあ手厳しいねえ、橙火大先生は」


「変な呼び方してんじゃないわよ。それで、あんたたちからは何かないの?」


 ぼくは努めて考えるそぶりを見せながら、あの自爆男との接敵の後の出来事を思い出した。


「大断層内の要塞は狭かったから、大火力がウリのランカーが確実に出ないってのは作戦としてはアリだと思う。けど、やっぱりいつものスタンドプレーの延長線上だったかな。連携ってほどのものじゃないかも」


「なるほどね、他に一般のプレイヤーたちと共闘する機会は無かったの?」


「大断層を落とした後は、一般プレイヤーの軍団に着いていってイレギュラーの排除をやってたけど、やっぱり単独行動になっちゃうね。レベルが違うと能力差が大きくなっちゃうから、どうしても足並みを合わせられない」


 ぼくの報告を聞いて、橙火は難しい表情をした。


「レベル7にレベル5をぶつける作戦はまだ実現しないか……。今度は動きを考えないといけないわね。で、そこの変態はどうだったの?」


「おいおい、俺には佐久間信吾って立派な名前があるんだぜ」


 文句を言いながらも説明された戦果は、ルドラとあまり変わらないものだった。


「原因とかはいろいろあると思うけど、根本的な問題が一つあると思うのよ」


 最後まで聞いて、橙火は一つの結論を出した。


「あんたたち、他のプレイヤーを積極的に利用しようっていう発想がそもそもないんだわ」


「他人を利用するって……。なんか人聞きが悪くない?」


「黙りなさい。チームワークってのはね、大なり小なり互いを利用し合うことによって成り立つものなのよ。一方的に利用するならそれは搾取と言えるけど」


 それでもイマイチ意味を掴めていないぼくらに、橙火は机を叩いて宣言した。


「こうなったら、習うより慣れろ、よ。とにかく今夜、あんたたちに味方を利用するってことがどういうことなのか、みっちり教えてあげるわ」







 というわけで、ルドラたちはクロノス領のホームタウンの一つで集合することになった。やや心配性のルドラと運動部習性持ちのバーツは十分前にやってきて、微妙に手持ちぶさたになる。


「なあ大将。あいつはああ言っていたが、一体何をするつもりなんだろうな」


「案外普通に、パーティーでのダンジョン探索でもやるんじゃない? 最近やってなかったし」


「何だよ、一緒に冒険したいならそうと言ってくれりゃよかったのによ」


「あながち間違いでもなさそうだけど、それ、本人の前で言わないようにね?」


 噂をすればなんとやら、時間ピッタリにエクレアがやってきた。だが、その姿にルドラたちはぎょっとする。


 姿はほとんど人間で、背丈はルドラとあまり変わらない。少しだぼっとしたチュニックとショートパンツでボディラインを隠した出で立ちで、その上から特殊プラスチックとか炭素繊維とかで作られたらしい軽鎧を装備していた。鎧は動きを阻害しない程度のもので、腕にはブレスレッドのようなファッション性に重きを置いたアクセサリも付けている。だがそれらは無駄を省かれた機能美を主張していて、実用性を重視するエクレアの性格をよく表していた。


 その姿は別に変わったところではなく、ルドラたちを驚かせたのは、その手に持っていたフライパンのようなものだった。


 案の定、最初につっこんだのはバーツだ。


「おいおいエクレア。その手に持ってる面妖なものは何なんだぜ? おかしいな、俺の目にはフライパンが見えるんだが」


「面妖とかあんたに言われたくないわ。そうよフライパンよ。これでも盾としても使えるんだから、もちろん料理にもね」


「俺はよう、おまいさんがそういう冗談とはほど遠い人物だと思ってたんだが。くそっ、俺も修行が足らねえってか……!」


「あんたはそれ以上修行すんな。あたしだって、たまにはちょっとした遊び心くらい……」


 言いながら、エクレアは顔を少し赤くして髪を掻いた。鎧と髪を寒色系でまとめたルドラとは対照的な、淡いオレンジ色のポニーテールが揺れる。


「とにかく! あんたたちには今日、連携の概念を叩き込んでやるからね! 覚悟しときなさい!」


 エクレアの号令で、ルドラたちはホームタウンからダンジョンへと移動する。今回はクロノス領内のダンジョンだったので、拠点内のワープ装置から直接移動することができた。


「じゃあ、エクレア。今日の作戦行動の内容の説明をお願い」


 ルドラが確認すると、エクレアはフライパンを担ぎながら説明を始めた。


「今日はディフェンダーを主軸にした戦闘を行ってもらうわ。あたしが敵の攻撃を受け止めて、その隙にあんたたちが攻撃する。この『456廃工場』には大型の敵MOBが多いわ。リーチも長いし、ビームセイバー程度で防げるとは思わないことね」


「納得だぜ。つまり俺たちゃエクレアを利用しないとこの先生き残れないってことだな。このダンジョン、推奨レベル6だからマトモに食らったら即死だな」


「そういうこと。レベル5だと火力も足りないから、あんたたち二人で協力しないとジリ貧になるわよ」


「いいじゃねえか、燃えるねえ。なあ大将」


 ルドラは頷いて、バックパックから武装を出現させた。バーツもそれに倣って二丁の拳銃を取り出す。


 エクレアの説明した「456廃工場」は廃工場という名前に反して、多量の照明に照らされた広い空間を細い通路で繋いだ構造をしていた。壁にはエネルギーライン的な光の線が幾つも流れ、空間の端には掘削機のようなものが鎮座していた。工場というより坑道のようで、炭鉱の施設を未来的にアレンジしたらこんな風になるのかもしれない。


 始めに遭遇した敵MOBは、両腕に破城槌(パイルバンカー)を装備した機械の巨人だった。特に肩から腕までの装甲が厚く、破壊的なパワーを発揮してきそうだ。なるほど、確かにビームセイバー程度では受け止められそうにない。


「あたしが受けるわ。あんたたちは下がっていなさい」


 エクレアが意気揚々と巨人に接近する。エクレアに気づいた巨人は荒々しく両足を踏みならし、そのまま一発、破城槌を打ち込んできた。


 エクレアはフライパンを構えると、柄に付いたスイッチを押し込む。するとフライパンの裏側から緑色のシールドが発生し、巨大な杭を受け止める。衝撃を完全には殺しきれずエクレアは一瞬体勢を崩すが、すぐにフライパンを払って衝撃を逃がした。


「すげえ、本当にフライパンで攻撃を受けやがった」


 バーツが感心して呟いていると、エクレアからの激が飛ぶ。


「二人とも何やってんの! 攻撃を受けてもこっちから攻撃しなきゃ意味ないでしょうが!」


 さっきは下がってろって言っていたような。そんな反論を胸に仕舞い、ルドラとバーツは走り出す。


 まずは二丁拳銃のバーツが、攻撃を弾かれてよろめいた巨人の脇腹に連射をぶちこむ。そちらに注意が行ったのを確認して、ルドラが逆方向から飛びかかり、〈マグネティック・ギア〉の効果でその巨体を駆けあがった。


 狙うはその頭部。ルドラは輝く刀身を思い切り叩きつけた。だが、既に巨人はその腕で頭をガードしている。有効なダメージを与えることはできない。


「よっしゃ、こいつの出番だぜ大将。反射して受け取れ!」


 ぽん、という小気味の良い音がして、バーツのもとから何か球状の物が巨人を飛び越す軌道で撃ち出される。ルドラは巨人の腕を蹴って飛び上がり、ビームセイバーに緑色の光を纏わせて球体を打った。レベル5ビームセイバー系スキル〈リフレクトセイバー〉の効果で、普通に打った時にはありえないベクトル変換が球体に生じる。


 直後、巨人の腕に着弾した球体が爆発し、猛烈な勢いで煙を吐き出した。クロノスならではの消費アイテム、スモークグレネードだ。それも範囲内の電波すらも遮断するスグレモノだった。


 こんなものに巻かれたら当然、巨人はこちらを見失うことになる。続けてバーツが銃弾を撃ち込むと、巨人は金属が軋むような唸り声を上げた。


 ルドラは再び〈マグネティック・ギア〉を起動し、磁気による引力で巨人へと飛びかかる。着地してそこが巨人の肩だと分かると、ルドラは頭の方向へ当たりをつけ、通常の三割り増しで光り輝く刀身を突き刺した。


 バーツが注意を引きつけてくれたおかげで頭部のガードは解かれている。今度はクリーンヒットだ。巨人は両腕を振り回して暴れるが、既にルドラは腕の射程から逃れていた。


「ヒュー! 戦争イベントじゃ使えなかったが、こいつもなかなかイカすだろう、大将」


 バーツが先ほどの煙幕を発生させた元凶を見せびらかす。拳銃と言うにはあまりにも大きすぎる銃口が、その武器の用途を物語っていた。


「ハンドグレネードランチャーだ。いやレールガンと言うべきか。金属だったら大体撃ち出せる逸品だぜ」


「いや、それ絶対EN消費すごいことになってるでしょ」


 ルドラが突っ込むと、バーツは当然顔で頷いた。


「ご名答だぜ大将。本来はレベル6くらいの装備だからな。俺のENは既に六割を切っている。同じ戦術はとれないぜ」


「そんな大技なら普通のグレネードでも使えばよかったのに」


「お、そんなに爆散するのがお望みか?」


「巻き込む前提なんだ……」


 そんなバカな会話をしていると、巨人が煙幕から抜け出してくる。ルドラは振るわれた右の破城槌を転がって回避し、続く二撃目を〈マグネティック・ギア〉の反発力で避けようとする。


「あ、やば」


 しかし視界の端に移ったフライパンを認めて、ルドラは回避行動を中断した。エクレアが巨人の腕をおもいっきりフライパンでひっぱたき、破城槌の進路を変える。


「あんたらねえ……」


 エクレアはほとんど呆れた様子だった。


「ばっかじゃないの! 何で煙幕とか使ってんの? それはソロ用の戦術じゃない? ディフェンダーがいるなら、むしろ煙幕は邪魔になるってどうして考えないのよ!」


 エクレアの叱責に、バーツは悪びれずに答えた。


「いやな、新しい武器があったら使いたくなるってのが、人類の性ってもんじゃねえか」


「知るかーッ!」


 どうやら、今日の訓練は前途多難になりそうだ。ルドラは苦笑いを浮かべながら、エクレアの援護に回ろうと体勢を立て直した。


チラシ裏的解説


・今回エクレアが使っていたフライパン

〈ヘミニジオ・ネオ〉

武器カテゴリ:フォトンブレード/ESPギア

ゲーム内設定:

 鍛造された超硬質合金によって作られた歪曲した鉄板に、防護フィールドを発生させるESPギアを内蔵した逸品。圧倒的な硬度としなやかさを持ち、高い対衝撃、対腐食、対熱性能を誇る。さらに防護フィールドを発生させることによってその防御性能は無類のものとなる。もちろん料理にも利用でき、防護フィールドによる熱管理で繊細な火加減を実現する。

武器性能:

 フライパンである。ひっぱたいて攻撃するほか、防護フィールドを用いて広範囲を防御したりする。攻撃力はあまり高くないが、叩いたときの衝撃力が大きく、敵の隙を晒せる。エクレアはゲーム内で料理するときもこれを使うが、防護フィールドは使わない模様。命名に最も時間がかかった武器。

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