初対面なはずなのに
私だけの可愛い可愛い人。
初めての出会い。
初めてのお泊り。
初めての口づけ。
初めての抱擁。
恥ずかしがりの君のためにこっそりと周囲には発覚しないようにしてきたけれど、私もそろそろ限界なんです。
だから、許してくれますよね?
あなたへの最高の思い出になるだろうサプライズ。
そう、だから…私を見てくれますよね?
※※※
「最近なんか変だ」
そう一人ごちると社食の食べた後を返却口にかえしながら呟く。
もうすぐ三十路になるからか、なんて自意識過剰になっちゃったんだろうかと思いながらも周囲を見渡す。
やっぱりだ。なんだか生温かい眼差しと、刺すような視線とを感じる。
化粧はそれなりにしかせず、安いスーツに身を包んだもうすぐ三十路を見つめて何が楽しいのだろう。こそこそ話しをしてることも癇にさわる。
「私がなにをしたってのさ」
子供のいじめでもあるまいに。
溜息しかでない。
そんなふうに考えていた時期がとても懐かしい。
今、私は白いとても高級そうなドレスを身に纏い息苦しいほどの化粧をほどこされて立っている。
ベールがなければ直視出来ないほど、隣には見たこともない美しい男。
見上げないといけないほど身長が高く、足も長い。程良くついてるであろう筋肉が白のタキシードをより素敵にしている。
まるで昔に見ていた、某美少女戦士に出てくるあこがれのタキシードの王子様のようだ。
顔の造作は目元が垂れていて、優しそうではあるけれどどこか底知れないものを抱えているような、そんな感じがする。
銀の縁の眼鏡が甘さを引き締めていて、私の好みを刺激した。
どちらさまですか?なんて言える雰囲気でもなく、腕を自然なエスコートでとられる。
「夢のようです。これで久美子さんは私のものです」
そうのたまいながら微笑む美男子。私はあなたの名前を知らないのに、あなたは知ってるんですねとは口が裂けても言ってはいけない気がする。
どういった意味なのかわからないまま。なんとなくそうなんだろうなと思いながらも、はっきりとさせたくない矛盾が頭を支配している。一生のことよね、これって…いやいやビックリカメラとかでしょ?とっても質が悪いけど。この人も俳優かなにかなのか、どっかで見たことある気がするし。そう思いたい。
讃美歌が聞こえる部屋へと入室させられる。
厳かな空気が怖くて、逃げ出すこともできない。
私の親類縁者から、友達、会社の人、明らかに上流階級の人からどっかで見たことのある有名人まで。
明らかにこの場にあった服装をしている。
父親が亡くなってから一人で育ててくれた母が嬉しそうに泣いている。意味がわからない。それにこの人に演技は無理だ。挙動不審になるに決まってるし…だからか…最近電話すらしてこなかったの。五月蝿くなくてラッキーとか思ってたんだけど。
それに私が三十路に近づくにつれてお見合い写真を、渡していた合鍵でこっそり侵入してはいたるところに入れ込んでいたとは思えないしおらしさだ。
あれ、あそこにいるのはお隣の一個上の幼馴染じゃないか。なんでそんなに睨んでるの。怖いよ。いつもの人畜無害な雰囲気はどうした。
「私以外見てはいけませんよ」
耳元で囁かないでください。
声まで私の好みってどういうことですか。ゲームとはアニメとかに出てきそうなまんまですよねお兄さん。
「ありがとうございます」
心の声に答えないでください。
「おや失礼」
一歩、また一歩と進む。
目の前には白髪のナイスミドル!と叫びたくなる神父さん。
えっと…冗談ですよね。
一生、縁がないと思っていたことがおこってるとかじゃないですよね。
※※※
ああ、なんて可愛らしいんだろう。
私が用意したドレスのなんと似合うことといったら。
やはり二人だけでするべきでしたか。
こんな美しいあなたを私以外が見るなんて、許し難い。
それにしても、サプライズ、驚いてくれたようでなによりです。
あなたに知られないように全て内密に行いましたから。
お母上にご挨拶に行った時は、それはもう驚かれて『こんなに素敵な人が家の娘にはもったいない』とのお言葉もいただきましたし。
友人方や幼馴染の方(多少乱暴なお話合いにはなりましたが)にも快く協力していただけました。
不審がる人も、私の肩書とあなたのなんでも恥ずかしがる性格とをお話し、サプライズを嫌がるだろうけれども一生の記念だからと丸めこみました。
単純で優しい人たちで助かりました。
処分するのも一苦労なので。
あとはもう簡単です。
当社での緘口令と、監視、及び警護を一手に引き受ける者を入社させ、あなたを見守り続けました。
あぁ、勿論私の親族で私に逆らうような愚かな者などおりませんよ。
そんなものすでに処分してるに決まってるではありませんか。
そこからが大変でした。
準備ができるまでの我慢と、あなたと会う日を、あなたを見つめる時間を減らしました。このサプライズには色々と趣向を凝らさないといけませんからね。
苦渋の選択でしたが、ここまでくると感慨深いものです。
そうして、ようやっと鈍感なあなたが気づかなかった檻が出来上がりました。私が気付かせなかったとも言えますけれどね。大丈夫ですよ、この檻はとても広くて、快適ですから。私以外に心を渡さなければ。そのためにも、これからもあなたには気づかれないように檻の維持に努めましょう。だって私達は愛しあうのがこの世界の理なんですから。
一目見たときから。
私はあなたの虜です。
いままではあなたの眠っている時しか触れることが叶わなかったあなたが私のものになる。
なんて喜ばしいことなんでしょう。
本当はわかってます。
私の頭の中が少しおかしいことくらい。
そう、だって。
直接、こんな間近であなたが目覚めている時にお会いするのは初めてなんですから。
えぇ、えぇわかってますとも。
それでも、逃がしはしません。
だってそうでしょう?
もうあなたは私の作り上げたこの広い結婚という檻の中に捕らわれてしまったのですから。
だってこんなにも愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて・・・食べてしまいたいくらいなんですから。
逃げないで下さいね?逃げることなんて不可能ですけれど。
そう例え死を選んだとしてもね。