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王さまが道で行き倒れていた人をお城へ連れていくと言いだしたので、隊列に加わっていた人は全員驚いてしまいました。
どれだけ王さまを止めようと躍起になっても、王さまは譲りませんでした。最後には王さまの友人であり、信頼している近臣が止めましたが、それでも王さまは主張を曲げません。勝手に倒れている人を馬に乗せると、自分は手綱を引いて、そのまますたすたと歩きだしてしまいました。
王さまの奇妙かつ不可解な行動に、お城の人たちはひそひそとあらぬ噂を立てました。最終的には、王さまが倒れていた人を気に入ったのだというのが主流になりましたが、えらい大臣や一目置かれている騎士や、親友の近臣がたずねても、王さまは首を縦に振りませんでした。
倒れていた人は王さまの命令で治療され、真っ白な寝台で休んでいました。王さまは暇さえあれば寝台のそばにいました。
「そんなに気に入ったのですか?」
彼が顔をあげると、長年のつきあいである近臣が、苦笑しながら立っていました。
「みな、反対しているわけではないんですよ」
「だからちがうと言っている」
「意固地にならなくても」
「ちがう」
彼は眉間にしわを寄せながら訴えました。自分はなにも言っていないのに、どうしてそういう方向に進んでいってしまうのかが謎でしかたありません。
視線を寝台に戻すと、倒れていた人はあいかわらずぴくりとも動かず眠っています。
倒れていた人は彼と視線が合ったあと、またすぐに意識を失ってしまったのでした。意識のない人を勝手にお風呂に入れてぴかぴかにするわけにはいきませんが、とりあえず服だけでもと、今は清潔な寝間着に着替えています。
近臣が隣に立ち、彼と同じように寝台をのぞきこみました。
「どこから来たのでしょうね」
ぽつりと近臣が言いました。
「天からだよ」
彼は近臣を見上げました。予想どおり、相手もこちらを向いています。
「――彼女は、我々の捜しものだ」
私が見つけてしまったんだ、と彼は真剣な顔で言いました。
きょとん、としてから、近臣はまさかとうめき声をもらしました。それから寝台で眠る彼女をいっそうまじまじと見つめます。
「この人が?」
「ああ」
彼は即答しました。まさか、と近臣はふたたびうなります。
彼としても、目の前の女性がとても自分たちの捜しものだとは信じられませんでした。ですから友人の気持ちもよくわかるのですが、頭の奥で誰かがそうだとささやいてやまないのです。
「まだ誰にも話していない。けれど、間違ってはいないだろう」
彼がはっきりと言うと、それ以上近臣はうなりませんでした。
『星の民』という言葉は、彼がまだ物心もつかないような頃から聞かされてきた言葉でした。
――我々はもともと『星の民』で、各地を転々としながら生活していたんだ。けれどそれでは生活がなりたたなくなってしまったから、この地に定住して国を形成するようになった。
我々は大切な捜しものをしている。この国の王になってもそれは忘れてはならない、大切な使命だと彼の父親は語りました。
それは血に混じり、肉に刻まれているのだそうです。彼は長の長男として生まれ、自然と次期国王としての座を保証されました。そして父が死んだ時に、王座と一緒に捜しものも託されたのです。
とりあえず、と長い沈黙をやぶって近臣が言いました。
「彼女が目覚めるのを待ちましょう。すべてはそれからです」
彼はこくりとうなずいて同意しました。
そうすると、ふたたび重い沈黙が室内に降ります。
「――まだこちらにみえますか?」
「なにか予定があっただろうか」
いいえ、と近臣が首を振りました。
「それならここにいる」
それから、彼はおかしそうに苦笑をもらしました。
「いつ目が覚めるのか、気が気でしかたがないんだ」
彼女はやはり、ぴくりともせずに眠りつづけています。時々生きているのだろうかと彼は心配になるのですが、やせた胸が動いているのを見てほっとするのでした。
「お前は信じられるか?」
とうとつに問いかけたというのに、近臣はすぐに返事をよこしました。答えは否定でした。
そうだろう、と彼は何度もうなずきます。それから神に祈るように両手をくんで、その上にあごを乗せました。
「私もとても信じられないんだ。けれど全身がそうなのだと訴えてくる。やっと見つけたのだと、自分の意思とは関係なく、歓喜に震えてくる」
今すぐ跪きたいぐらいなんだ、と彼は正直に言いました。けれど、彼個人の理性がそれを押しとどめていました。
「私にはわかる。彼女こそが、我々の女神なのだと」
彼に繋がるすべての祖先が、叫んでやまないのでした。




