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「では行って来い」
「行ってらっしゃーい!」
高皇産霊さんと神皇産霊さんに見送られ、ぽっかりと開いた穴に飛び込んだ瞬間、私の意識はプツリと途切れた。
ふわふわと夢の中を漂っている時のような、心地良い感覚に身をまかせていた。
一度ばらばらに分解された『私』の欠片が、少しづつ少しづつ集まって繋がって溶け合って……あ、今。
ぼんやりとしていた意識が、急速に覚醒し――
――ぱちり、と。
目を開いた私の前には、二頭身の天使がいた。
全体的にふくふくとした丸いフォルム、触れなくても柔らかいと分かるピンク色の頬、
くりっとした大きな目……どこをとっても愛らしい!
白を基調とした何やらファンタジーな服がとても似合っている。
手にしているというより頑張って支えている様子の長い杖は、持ち主の小ささをより強調していて、たいへん微笑ましい。
(うああああ何この愛らしい生き物っ!)
天使は笑みを浮かべ、そのとろけるような笑顔によって内心で鼻血を噴出している私に手を差し出した。
「よこそ、いちぇかいのこ」
(ぐはっ! しゃべり方も可愛え!)
外見だけでなく声も愛らしい上に、舌足らずな口調がまた……!
「かみのおちゅげ、きーてゆ!」
むふんと誇らしげに胸を張る様子も……でなくて、『神のお告げ』とな? さっきも『異世界の子』って呼ばれたし、この天使は事情を知ってるって事で良いんだよね?
「リー、おちぇわすゆ!」
私の疑問を感じ取ったのか、天使は心得顔で頷き、杖を掲げて宣言してくれた。
その後バランスを崩してぽてんと尻餅をつくというサービス付で。
(やめてくれ。私を萌え死なす気なのかこの天使は)
「じゃぁ、これからよろしくお願いしますね。えーと、リーくん?」
多分『リー』というのが天使の名前だろうと思ったのだが、
「や! リー!」
どうやら何か間違っていたらしい。ふるふると顔を横に振り、訂正(?)された。
「……リー?」
「や! り……リーハ!」
「リーハ?」
「や! りー……りー……あうぅ」
(あああもうどこまで可愛いんだこの天使め!)
同じ様なやりとりをひたすら繰り返す事数十回。
涙目な天使の愛らしさにノックダウン寸前の私に、天から声が降りてきた。
――異世界の子よ――
――我等が愛し子の名はリーファスである――
おそらくこれは神の声であろうと瞬時に理解し、思わず両手を合わせて拝んだ。
「ありがとうございます! 助かりました!」
(もう少しで「理性」的な何かがプチンといっちゃうところだったよ!)
ふっと脳裏に満足げな顔をした神々の幻影が浮かぶ。
あぁ、助けが入るまでに間があったのは、名前を言おうといっしょうけんめい頑張るリーファスを堪能してたからなんだろうな。
(分かります。舌足らず万歳!)
心の中で力強く同意し、天使改めリーファスに向き合った。
「よろしく、リーファスくん」
「く、ないない!」
「……リーファス?」
「あいっ」
ぱぁっと嬉しそうな笑顔を浮かべながら、挙手してくれました。私のハートは撃ちぬかれ過ぎてもう蜂の巣ですよ。
手を下ろした後、何かを待つようにじっと此方を見るリーファス。
自己紹介を促されてるんだろう。うん、分かったからあんま見ないで。抱きしめたくなるから。
「谷島智美です」
「タニチ……トーミ?」
「智美」
「トーミ!」
「……はい」
良いよもう何でも。可愛いから許す。可愛いは正義である。
大変お待たせ致しました。
やっと出せたー!