しっぱいした!
それは良く晴れた、風が温かい日のことでした。
昼休み、ふと青空の下で昼寝でもしたら気持ち良いだろうと思い立った神皇産霊は、屋上へと足をむけました。
そう思ったのは神皇産霊だけじゃなかったらしく、屋上にはすでに先客が。
屋上の真ん中で堂々と大の字になって眠る、とある女子生徒……そう、それは。
(智美ちゃんだー!)
気付くと同時に、ちょっと後光を漏らしてしまう神皇産霊。
あわてて光を引っ込め、起こさないようにそっーと、しかし素早く近づきました。
智美は神皇産霊が近づいても逃げません。……あたりまえですね。寝ていますから。
無邪気な寝顔でした。
不機嫌以外の表情を、神皇産霊はその時はじめて見ました。というか、いつも顔を逸らされていたため、智美の顔自体よく見たことがなかったのです。
この機会にと、まじまじ寝顔を覗き込む神皇産霊。
(……えいっ)
思わずといった様子でその手が動き、人差し指がふにゅりと智美のほっぺたをへこませましました。
「ん」
くすぐったそうに眉をよせながら、きゅっと神皇産霊の指をつかむ智美。
(……!)
神皇産霊は口元を押さえ、ぷるぷると体を震わせながら何かをかみしめました。
「んー?」
近くで悶える神皇産霊の気配に気付いたのか、智美が目を覚ましました。
ぼんやりとした瞳が神皇産霊を映した瞬間……
寝ぼけていたのでしょうね……
智美はほにゃりと、頬をゆるめました。
ズキューン!
無防備な笑顔に胸を打ち抜かれ、神皇産霊は目を見開いたまま、ぴたりと全ての動きを停止させました。
胸の奥がきゅうっと絞まる様な感覚と、電流を流されたみたいな全身の痺れ……神皇産霊は自分自身の反応に戸惑いました。
(あれ? え? 何だろう。何でこんなに嬉しいんだろう? いつだって私の周りは皆笑顔で、でも、この子だけは笑ってくれなくて、それが逆に良くて、むしろ笑いかけて欲しくないなんて思ってたのに。なのに、嬉しい?)
後から後から湧き上がってくる激しい歓喜。
そっと確かめるように自分の胸に手を置き、神皇産霊は自覚しました。
(うん。嬉しい。嬉しいよ! あぁもう、嬉しすぎて、嬉しすぎて ま ず い !)
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目を開けると、天使がいた。女神かもしれない。
思わす笑みが浮かんだ。
彼女の瞳に、自分のゆるんだ顔が映っている。あぁ、間抜けな……か……お……――!
一気に覚醒する意識。自分の状況、事態を認識して、ピシリと全身が凍りついた。
しくじった、しくじった、しくじったぁ!
何てことだ!
寝ぼけてた。完全に寝ぼけてた。寝起きに彼女のドアップって不意打ちすぎんだろうが!
うぁぁ何笑っちゃってんだよ自分! 恥ずかしすぎるうぅ!
飛び起き、慌てて神皇産霊さんから距離をと……る……!?
えぇえぇええ!? 何これ、何これ、何これぇ!?
彼女の周りに、何か見たことも無い幻想的な花々が咲き乱れてるんですけど!?
比喩表現でなく、実際に!
しかも、彼女自身も発光してるんですけど!
神々しい光と花に囲まれた彼女はとても綺麗だけど! だけど、とても異常な事態です!
綺麗だけどね! 何だこれ! でも綺麗!
あぁもう、混乱と感動がちょうど半々くらいでややこしすぎる!
驚きすぎて羞恥心に身悶える間もないんですけど! 何だこれえええ!