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布団に入り、目をつむると同時に、ゆっくりと意識が沈んでいく。
その心地良さに身を任せ、私は深く深く潜っていった……
――――ふと。
穏やかな闇の中、「私」を呼ぶ声が聞こえた。
素直に返事を返せば、ふわりと全身を何かに包まれる。
大きな手に、そっと握りこまれているのだと、何故だかすぐに分かった。
ゆっくりと、優しく、何処かへ……手の主の元へと引き寄せられていく。
ぱっ。
私を運んでいた手が唐突に消え、視界が一気に広がった。
しろい、ふわふわとした世界。
そして、此方を見つめる、ふんわりとした衣装に身を包んだ青年……
嗚呼、この心臓を打ち抜かれる感じ、何度目だろう。
「こうして顔を合わせるのは久しぶりだな」
相変わらず魅了全開ですね高皇産霊さん!
プリチー族に感じるものとはまた少し違う、しかし強烈な愛おしさに全身を貫かれ、私はぎゅうっと頬の内側を噛みしめた。
(お久しぶりです! ああ今すぐ貴方への愛を叫びたい!)
じりじりする胸の内をどうにか抑えつけながら、私は無言で頷いた。
「相変わらず、だな」
ふっ、と。どこか嬉しげな淡い笑みを浮かべる高皇産霊さんが眩しすぎる。
「……用件は?」
顔を見れるのは嬉しいのですが、嬉しすぎて辛いので早いとこ用件を済ませてください!
私が私を抑えていられるうちに!
「ふむ。肉体の再生がほぼ完了したのでな。そろそろ生き返らせる事ができそうだ……此方でいうと、あと5日、というところだな」
「……! わかった」
「うむ。ではな」
ぽんぽん、と高皇産霊さんが私の頭に軽く手を置くと、すぅっと意識がその場所から離れていくのを感じ――――
ぱちり。
すっかり見慣れてしまった白い天蓋を、ぼんやりと見つめる。
五日、か。
くるりと身を反転させ、枕に顔を埋めた。
あと五日で、帰れる。
そろそろかな、とは、思っていた。
けれど。
ぎゅっと枕を抱きしめる。
息が出来ないくらいに。
緩めれば、色々なものが漏れてしまいそうだった。
ぐるぐると、今までの事が、出会った人達が、脳裏を巡る。
帰りたい。
けれど、帰りたくない。
硬く閉じた瞳に浮かぶ、笑顔。
離れたく、ない。
ぐっと、枕に指を食い込ませ、胸の中で暴れる感情の波に耐える。
コンコン。
ノックの音に、必要以上にびくりと体が跳ねた。
ふうっと息を吐き出し、苦笑する。
大丈夫。分かってる。
帰る事は、最初から決まっていたんだから。
いつも通りの自分を意識しながら、扉に手をかけた。
目ざとい神官達には気付かれてしまうかもしれないが……良く気がつく彼らだからこそ、気付かないフリをしてくれるだろう。
開いた扉の向こうでは、神官達が
「「ぐすっ……お、おはよ、ござ、い……えぐっ……ますぅ……っ」」
号泣していた。
「!?」
「「ひぐっ……トモミ様ぁ!」」
思わずびくっと後ずさった私の足元に、神官達がズザァっと滑りこんできた。
何これ! 怖っ!
「昨夜、我らの……ううっ……夢枕に、トモミ様を託した神、と名乗る美しい御方が現れっ……ずびっ……五日後の正午、トモミ様を連れ帰る、とぉっ……」
嗚咽を漏らしながらも律儀に状況説明してくれたのは、(涙と悲壮感で顔面が崩れすぎててちょっと自信が無いが、恐らく)マリルだ。
「元より……トモミ様が、いずれは神々の元へと帰られる御方だという事は存じておりましたが……別れを思うと、私は、私はぁっ」
リオンがぐわっと近づいてきた。涙に濡れて血走った目が怖い。
あまりの過剰反応ぶりに、先ほどまで感じていた何とも苦い気持ちがふっとんだ。
どうしたものかと冷や汗を流す私を追い詰めるかのように、第二波……リーファスと、プリチー神官達(プラス、それを抱きかかえた神官達)が部屋へと殺到してきた。
「ミー! かえっちゃめー!」
「「めー! ミーしゃまー! めー!」」
(涙目っ! 上目づかいで懇願っ! ……耐えろ、耐えろ私の精神!)
その後の四日間、泣きじゃくるプリチー族と神官達を宥めるのに手いっぱいで、別れの寂しさに浸る時間は皆無だった。