15
大聖堂の地下にある保管庫。
どことなく秘された雰囲気のあるその場所の片隅に、小さな影たちがひっそりと集っていました。
薄暗いために細部は確認できませんが、影たちは白いシーツを被せられた「何か」を中心に、半円形になって座っているようです。
と。
「らいとあぷ!」
しんとした空気を切り裂くように、舌足らずな声が高らかに響きました。
ぱぁっ! と何処からともなく光が差し込み、白いシーツと、その端を握りしめる一人のプリチー神官の姿を照らし出します。
なんということでしょう、小さな影の正体は、プリチー神官だったのです!
プリチー神官がちょいっとシーツを引っ張ると、良いタイミングで巻き起こった突風により、ばさっとシーツが取り払われました。
半円形に座っていたプリチー神官たちから歓声が上がります。
ちなみにシーツを引っ張った彼は、上から落ちて来たシーツの中でもごもごともがいています。
光の中に浮かび上がるのは、整然と並べられ、積み重ねられた何枚もの絵画。
そこに描かれているのは……
「「みーしゃま……!」」
プリチー神官たちが尊敬の念を込めてその名を囁きました。
そう。ここに並べられているのは全て智美をモデルにした絵……智美に魅入られた絵師によって、紙が尽きるまで描き続けられた、膨大な量の絵です。
それらは、神官たちの手で一枚一枚丁寧に額縁に入れられ、大聖堂の各所に飾られる予定……でしたが、本人が強く拒否したために現在こうして保管庫にしまわれている状態なのです。
シーツの中でもがもがしていたプリチー神官がどうにかシーツの隙間から顔を出し、ぷはっと息をつきました。
彼がはふはふと息を整えるのを他のプリチー神官たちがじっと待っている様子から、どうやら彼がここに居るプリチー神官たちのまとめ役のようです。
「みーしゃま、いった!」
顔を出せただけで満足したのでしょうか、首から下をシーツに埋もらせたまま、きりっとした顔で彼は語りだしました。
言葉とともにシーツの一部がもそりと動いたのは、恐らくびしっと絵を指さしたかったのでしょう。
「にじせちょすゆ、おきくなゆ!」
その言葉には、熱がありました。
彼の胸の中で燃え上がる炎……耳にした者の胸をも焦がす、希望という炎の熱。
束の間の沈黙、続いて爆発するように次々と歓声が上がりました。
「にじせちょ!」
「にじせちょ! ちゅごい!」
「にじせちょすゆー!」
「おとにゃなゆのー!」
目をきらきらと輝かせ、はしゃぎまわるプリチー神官たちを、微笑ましく見守る別の影がありました。
保管庫の入り口近くにひっそりと控える、神官たちです。
彼らは知りません。
いえ、この時はまだ誰も……
遠い未来、プリチー族たちが本気で「大人変身の術」を手に入れるなどとは、知る由もなかったのでした。