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そうこうしている内についた、見覚えのある食堂。
(あ。ここ、前にリーファス達と一緒に入ったとこだ)
食堂内を見回し、記憶と照らし合わせていると、ぱっとメニューで目を塞がれた。
「きょろきょろすんのも良いけどよ、まずは注文済ませちまえって」
それもそうかとメニューを受け取って視線を落とすが、わしゃわしゃと力強く頭を撫でられながらじゃまともにメニューが見えないんだが。と、いっても前回同様、主食はもう決まってるんだけどね。
「じゃぁ、パンと牛乳」
「おう。パンと牛乳と果物なー」
え。何か増えてる。
気遣いかもしれないが、そんなにお腹減ってないから困るんだけどな。
「そんなに食べられないので……」
「あん? 知らねぇのか? こういうとこじゃ果物頼むのが常識なんだよ。食べきれなきゃ残せば良いっつーか……むしろ多少残してやんのがマナーってやつだ」
なんと。この前は何も言われなかったが、神官たちは優しいので多少のマナー違反は見逃してくれていたんだろう。そういう事なら、と納得した……ものの。
よちよちよちよち……
「あい!」
にぱっ
(可愛えええっ!)
果物を運んで来たプリチー族の笑顔にノックダウンしそうです。
いやいや、リーファスやプリチー神官に囲まれて生活しているんだから、もうそろそろ慣れ……慣れるかーっ!
思わず、隣に座っている『白魔導師』的な格好をしたお姉さんのローブに顔を埋めた。
「あらあら……どうしようコレお持ち帰りしたい(小声)……どうかしましたか?」
「アイツ今、何かボソッと……いや、うん、どうした嬢ちゃん?」
「いえ、何でもないです。すみません」
いや、ゆったりした袖が目隠しにちょうど良くてつい。
さて。
どうにか無事に食事を終た私は、食器や食べ残し(果物は半分以上残してしまった)を持って返却棚をめざいしている。私の分も一緒に運んでくれると言われたが、自分で運ばせてもらった……のだが、ふとゴール目前で重要な事に気付いてしまった。
どうがんばっても、手が届かない。
駄目もとで背伸びしてみる。
届かない。
ちょっと跳んでみた。
届くはずがない。
「……ですよね」
(大分伸びたと思ったけど、まだまだ小さいんだな私……)
項垂れていると、ぐいっと後ろから腰を両手で挟むようにして持ち上げられた。
「はいっ! これで届くよね?」
「あっ、ありがとうございます」
振り向くと、先ほど向かいの席に座っていた弓使いの女の子。華奢に見えるのに、子供一人+食器を腕の力だけで持ち上げて平然としている。さすが冒険者。
こうして、持ち上げてもらった事で届くようになった返却棚。
その片隅に、何故かちょこんとプリチー族が座っていた。
(?)
「食べ切れなかった残りは、そこのプリチー族に食べてもらうんだよ。あーんてして、食べさせてあげるの」
(……!?)
あーん!? あーんだと!?
最後の最後にそんな罠をしかけてくるとは……っ!
こんな事なら素直に自分の分も返却しといてもらえば良かったあああ!
目の前には私からの「あーん」を待っているプリチー族。
持ち上げられて固定されている為、逃げ場は無い。
……あ……あああ……あ――
――そこから数分間、私の記憶は酷く朧気だ。
しきりに心配してくる冒険者たちを振り切り、疲れた気分で歩く帰り道。
ぱしゃり、と唐突に飛んできた水飛沫に靴の先を濡らされ、目を上げれば噴水の精霊が興味深そうな目で此方を見ながらふよふよと浮かんでいた。
「……噴水から出てこれるんですね」
『少しの時間だけならの』
精霊はどこか得意げにそう言うと、くるりと意味なく一回転してみせた。
今はそのテンションがうざ……少々煩わしい。
『しかし、やはりトモミじゃったか! 本当に大きくなるんじゃのう……ふむ。次は「噴水の水を飲むと身長が伸びる」という噂なんてどうじゃろか』
私をしげしげと見つめた後、「良いこと思いついた!」とばかりに声を弾ませる精霊に、私は二秒ほど思考した後頷いた。
「良いんじゃないですか?」
後日、
低身長で悩む人や、大きくなりたいプリチー族たちによって噴水の水が飲み干されたとか。