10
「のわあああ!?」
「トモミ様! どうされましたか……!?」
時が進むのは早いもので、二回目の試練の日……馴染ませるために一日新しい体で過ごす日がやってきた。
前回よりも成長した体は、だいたい8歳くらい。
二回目だからもう説明は要らないと思ったんだろうけど、朝起きていきなり大きくなってたら吃驚するよね!
さらに、急に体の大きさが変わったもんだから感覚がズレてて、バランス崩してベットから転がり落ちる事もあるよね!
ついでに、行動が異常に早い神官たちが即座に駆けつけてきて、床にべちゃっとなってるところを目撃されるって事もあるよね……!
(恥ずかしいいい!)
次回から、日数を細かく確認する事を心に誓いました。
そ し て 。
「うっわ、動きやすい!」
軽やかに地面を蹴り、全身に風を感じながら通りを駆け抜ける。
特に急いでいるわけではないが、こうして走っていればプリチー族を視界に長く留めてしまうという事もない……という子づくり対策である。
さらに、今日はもう一つ秘策がある。
息を切らしながら辿り着いたのは……ギルド。今日は一日ギルドで過ごそうと決めていた。
必殺『他の事に集中してればプリチー族に気をとられる事もないはずなんだぜ作戦☆』だ。
ギルド、私にとってそれはロマンを煮詰めて凝縮したような夢の場所。
特別何をする必要ななく、こうして依頼書を眺めているだけでもお腹いっぱいである。
内心うはうは状態で思う存分一人の時間を堪能……
「どうした? 依頼すんならあっちの受け付けだぞ嬢ちゃん」
「あ、いえ。見ているだけなのでお気になさらず」
「あん? そんなん見てても楽しかないだろうよ。変わってんなぁ~」
親切心からだろうか。帯剣した、筋骨たくましいオジサマに話しかけられた。少し言葉を交わしただけで離れていったが、なんだか心配されているらしく、視線を未だに感じる……子供、だからだろうか?
「貴女もしかして冒険者志望? 止めといた方がいいわよ。命は大事になさい」
「や、冒険者になろうとは思ってないです」
「あら、違ったの?」
「冒険者に憧れてはいますが、自分がなれるとは思えませんし……やっぱりお姉さんみたいに強くて格好良い人じゃないと」
「憧れ、ねぇ。実際はそんなに良いもんでもないけど……ま、そう言われると悪い気はしないわね」
どうやらこのナイスバディなお姉さんからも心配されてしまったみたいだ。軽く私の頭を撫でてから離れていったが、先ほどのオジサマと同じく此方を気にする視線を感じる……そんなに危なげに見えるのだろうか。
「ねぇ、そこにぼーっと立ってられたら見づらいんだけど」
「あ、すみません」
「別に、そんなに離れなくても良いけど。……さっき首傾げてたけど、何か気になる依頼でもあんの?」
「気になるというか、この部分の意味がよく分からなくて」
「ああ、それは――」
何やら『魔導師』的な雰囲気の少年にも喧嘩腰な気遣いをいただいた。彼からはツンデレ+お人好し属性のニオイがする……
というか、何だか妙に構われるんだが。見た目が子供だから仕方ない、のか?
(A:普通に考えて、ちっちゃい子供が一人でギルドに来る事なんてそうそうありません。訳ありと思われても仕方ない状況です)
でも八歳っていったらもう小学校中学年くらいになるんだし、そこそこ一人で出掛けられる年齢だと思うんだけどなぁ。
(A:今の体は八歳ですが、日本人は幼く見られるオヤクソクです。恐らく周りからは4~5歳児に見えている事でしょう)
今より幼い容姿の時より子供扱いされてる気がするのは何故だ。
(A:プリチー族はあの姿でも『大人』だからです。さらに、プリチー族の高い独立心をできるだけ尊重しようという、皆様の配慮がありました。今は完全に『子供』なので、そりゃあ子供扱いもされます)
ふぅっと思わず溜息をつくと、先ほどからチラチラと此方を気にしていた細マッチョなお兄さんが(さりげなさを装おうとして失敗しながら)早足に近づいて来た。
「おう、嬢ちゃん! 何か、その、あれだな、元気ねぇな! あれか、腹でもへってんのか? しゃーねーなぁ、俺が飯食わしてやんよ!」
「え、いえ……お構いなく……」
「ガキが遠慮すんなっての! なぁ、お前等も良いよな、この嬢ちゃんと一緒で!」
「や、違……」
「もちろんです」
「構わん」
「いーよー♪」
いつの間にか、恐らくこのお兄さんの仲間であろう冒険者数名に囲まれていた。
(ふあああ! 絵に描いたようなパーティーメンバー!)
一目見ただけで外見も内面も個性豊かなんだろうなと察する事ができる濃い面々。思わず胸を高鳴らせている内に、ひょいっと腕に抱き上げられてしまった。
「さーて、今日は何処にすっか~」
なんとも機嫌良さそうなお兄さんの声を頭上に聞きながら、溜息をつく。
成長(?)しても移動方法は抱っこなのか……
遠い目になった私をどう思ったか、お兄さんの隣を歩く中性的な美形さんに頭を撫でられ、よりいっそう微妙な気分になったのだった。