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あいちてるー!(心の叫び)  作者:
やっとはじまる本編
16/26

 今日は、常々やってみたかった一人外出にチャレンジしてみようと思う。

 神官を説き伏せるのに一ヶ月近くもかかったが、私はついに勝利をもぎとった!

 リーファスに涙目で引き止められた時は心が折れかけたが……一週間程おやつをリーファスに献上し、一緒にお昼寝する約束をして宥めた。

 お菓子は良いが、お昼寝は苦渋の決断だ。至近距離での愛らしい寝顔に耐えられるかと自問自答し……最悪、窒息寸前まで枕に顔面を押し付ける形になるが、まあ、きっと大丈夫だろうと自分を信じる事にした。


 と、いうことで。


(自由だー!)


 内心で両手を振り上げ、私は意気揚々と歩きだした。

 晴天に恵まれ、暖かい中に適度に吹く風が気持ち良い絶好の散歩日和である。まあ、それは今日に限った事じゃないというか、此方に来てからずっとそうだったりするが、今は気にしないでおこう。

 小さく鼻歌を歌いながら、石畳の道を歩く。行き先は特に決めていないが、今ならどこまででも歩いて行けそうな気がした。

 まあ、実際は小さい体で長距離移動とか疲れるから、そう遠くへは行かないけどね。


 さて、それにしても……


 すた すた すた すた


 じぃーっ。


(……)


 すた すた すた すた


 じいぃ~っ。


(……うーむ)


 何だろう。道行く人々にガン見されてるんだが。あっちこっちから視線が刺さる刺さる……何故にこんな注目されてんだ私?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 普通に歩いているプリチー族トモミを目撃した人々は、まず自分の目を疑いました。

 ごしごしと目元を擦ってからもう一度確認し、どうやら見間違いではないようだと気付いて衝撃を受けた後、その驚くべき光景に釘付けになっています。


「プリチー族が普通に歩いてる!?」


「何かプリチー族なのに凛々しい!」


「はっ速い! あんなプリチー族初めて見た! 新種か!?」


「そんな、抱っこ便を使わないなんて……!」


「無表情のプリチー族、だと!? ……あ、新しい世界が見えた……」



 プリチー族もまた、食い入るように智美を見つめていました。


「はやい! しゅごい!」


「しゅごいねー! いーなー!」


「ミーしゃまだお!」


「ミーしゃま?」


「ミーしゃま! めかくちの!」


「ありぇがミーしゃま! ふわー! かこいー!」


「ミーしゃましゅごいのー! しゅごいのー!」


 こうして無自覚にその勇姿(?)と名を広めていく智美なのでした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(あ、ここって……)


 見覚えのある風景に、ふと足が止まった。

 前に案内してもらった時に通った、広場だ。今日は人が少ないので、噴水が良く見える。

 きっと、また何らかの噂が流れれば人で埋まるんだろうから、今のうちに見ておこうと噴水の縁に沿って歩く事にした。

 とめどなく形を変える水柱は空を薄く閉じ込めた水色。絶え間ない水音がなんとも心地よい。


(癒されるー)


 きっとマイナスイオン的なものが大量に放出されているのだろう。

 白い石で造られた縁の繊細な彫刻を目でなぞりながら一周し、さて次はどこへ行こうかと考えていると、


(?)


 いつになく強い視線を背中に感じた。が、振り向いても誰も居な……居た。噴水の縁からひょこりと半分だけ顔を覗かせて、じい~っとこっちを見てる半透明の女性が。


(……えーと)


 例の、噂流すのが趣味な精霊様だよね多分。


『不思議じゃのう』


 此方を見たまま、精霊様はこてりと首を傾げた。


『プリチー族だというのに歩くのが早く、愛想も無い……そもそも何か根本が違っておる感じじゃの』


「そうですね、純粋なプリチー族じゃないので」


『ほうほう。何か特殊な事情があるのじゃな?』


 独り言に近い呟きに肯定を返せば、興味津々といった様子で噴水から身を乗り出してくる……不意に見えた精霊様の下半身は、透き通った青の鱗で覆われていた。


(人魚……!)


 薄いレースの様な鰭がぱしゃりと水を蹴り、跳ね上げられた水滴がキラキラと光を反射して……綺麗……とか思っている内に――がしっ!――腕を掴まれた。


『詳しく聞かせてもらおうかの』


 そして始まる質問攻め。



 時は進んで→



『なるほどのう……面白い奴が居たものじゃ!』


「そうですか」


 満足そうな精霊(もう敬称なんかつけてやらん!)の横で、私はぐったりと噴水の縁に手を突いていた。

  喋りすぎて喉が痛いとか、初めてかもしれない。


『次は、噴水の水に触れたプリチー族はお主の様に早く歩けるようになるという噂を流してみようかのう』


 精霊のうきうきとご機嫌な様子に、ちょっと水をさしてやりたい気分になるのも仕方ないと思うんだ。


「なるほど。そして、噂を信じたプリチー族が期待に目を輝かせながら次々と噴水に……」


『やめー! 無し無しやっぱ無しじゃ!』


 慌てる精霊に向かって、私は薄く笑みを作った。


「うっかり噂が広まらないと良いですね」


『……! い、言うでないぞ!? 誰にも言うでないぞ!』


「という前フリですね分かります」


『違ううーー!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ミー、わらた……!」


「あれを笑みと言って良いものでしょうか……いえ、楽しそうではございますが……」


 そんな会話がされているのは、噴水のすぐ近く。遮るものは無く、声も通りやすい場所ですが、智美が彼らに気付く様子はありません。リーファスが「ミーにばりぇないよに、びこーすゆ!」と望んだので……神々による完璧な隠蔽によって、ものすごく堂々とした尾行が可能となっております。

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