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寝転がったまま、そろそろ見慣れてきた白い天蓋をぼんやりと見つめる。
しっかり睡眠をとったはずなのに妙に疲れた気分なのは、夢のせいだろう。
(そういえば、体……)
起き上がって確認すれば、やはりちょっと大きくなっていた。
丈も幅もゆったりとした寝巻きを着ていたのだが、今は小さく感じるくらいだ。短くなった裾を何となく引っ張っていると、コンコンと扉がノックされた。
神官たちが来たのだろう。ひょいっとベットから飛び降りて扉を開ける。
「おはよう」
「「おはようござ……い……!?」」
目を見開いて固まる神官たち。今まで何をしても余裕で対応してくれていた彼らを驚かせられた事に、胸中でにやりとする。
「あの、トモミ様、その、御体が大きくなっていらっしゃる様なのですが」
震える声で聞かれ、どこから説明しようか考え……面倒なので端折ることにした。
「おはよう。何か、時々成長するみたいだけど気にしないで」
「「…………分かりました」」
一斉に頷く神官たちは、とても大人だと思う。
「あ、そうだ。私がこっちに来てからどれくらい経ったかって、分かる?」
「はい。トモミ様がいらしてから今日で二十日目です」
即答。考える素振りもなく、さらっと即答。
全員「これくらい分かってて当たり前」というような顔をしないでくれ。
何とも言えない気分になる。
「……ありがとう」
えーと? こっちの20日が向こうの45日って事は……2.25倍?
じゃぁ、向こうでの半年は此方での……計算中(電卓が欲しい!)……えーと、だいたい80日くらいと考えよう。
で、20日経ったから、残りは60日くらいか。思ってたより早く帰れそうだ。
ほっとするのと同時に、別れを思うとちょっと寂しい気分にもなり、内心苦笑する。
(絆されてるなぁ)
「うあー! ミー、おきくなてゆ!」
「ミーしゃま、おきー!」
「おきー! おきー!」
大聖堂に入った瞬間、きらっきらした目のプリチー神官たちが押し寄せてきた。埋もれた。
何このプリチーハーレム! 楽園ですか! この愛らしい生き物たちに毎日囲まれてれば絆されもするよね!
だって外見も中身も生態系すら愛されるためだけにあるようなプリチー族……はっ!
マ ズ イ !
さぁっと全身の血の気が引いた。少し前に知った、プリチー族のある性質を思い出したのだ。
――プリチー族にはラブゲージというものがあり、プリチー族が懐いた人間が一時間以上愛情の篭った瞳で眺めると、ラブゲージがマックスになり子供ができる――
……今の私は人間である。という事は、だ。
(うっかり見つめたら子供できるー!?)
一時間なんてすぐだよ! いや待てプリチー族から懐かれるのが前提なんだから大丈夫……
ちらっとプリチー族たちの方を見る。にっこーっと笑顔を返された。リーファスは目が合った瞬間にぎゅっと抱き付いてきた。
……懐くってどのレベルからアウトなのかな!
とりあえず、念のためプリチー族を視界に入れないように…………いや無理じゃね?
どうしたって視界に入って来る。というか目で追ってしまう。
私は悩みに悩んだ末、一つの結論に至った。いっそ強制的に視覚を封じてしまえば良いと。
そして。
「ミー、なんでめかくち?」
リーファスからのもっともな指摘に、すっと頭が冷えた。何やってんだろう私。
目隠しをすれば確かにプリチー族は見えないが、視界が全部遮られるので身動き出来ない上に、傍から見たら「何してんのコイツ」状態なわけで……というか、考えてみれば一人で部屋に篭ってれば良いだけの事なんだよね……はい。私はアホです。
ちなみに、本来は腰に巻く為の細帯を使いました。
「……故郷に、目隠しをして行うゲームがあって」
「げむ……!」
この時の私は、とっさに絞り出した言い訳のせいで神官全員参加の『目隠し鬼』と『スイカ割り大会』が開催される事になり、さらにそれが広まって一大ブームになるなんて知る由もなかった。