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「リー、おとにゃなりぞと!」
メニューをビシッと指差しながら注文するリーファス。
ちなみに、指が触れている場所は『大人なリゾット』と書かれている所からだいぶズレていた。
「トモミ様も同じで良いですか?」
「私はパンで」
夕べ食べたのも今朝食べたのもリゾットのようなものだったし……出されるものに文句は言わないが、選んでも良いなら是非とも食感が欲しい。それと、私はパンが好きだ。
「パン、ですか?」
「うん」
こくりと頷くと、何やら困った顔をされた。 え? パン駄目なの?
「パン、だけですか? 他にも何か……シチューなどは?」
「じゃぁ、シチューも」
良く分からないが、勧められるままシチューを追加。
視界の端で、神官たちが何やら目配せしあってるのが見えたが、うっかりつついてパンを諦めるように言われたら嫌なので気付かなかったフリをした。
さて。
注文が終わったところで、何気なく食堂内を見回していた私の目は不意に――フォーカスが寄るようにギュインと――ある場所に釘付けになった。
プリチー族が両手で果物を持ち、よちよちと歩いているのだ。
短い足を懸命に動かし、テーブルまで辿り着くと笑顔で果物を差し出している。果物を手渡すと、再びよちよちと戻っていった……と思ったらまた果物を持ってよちよちと……
見れば、他にも果物を持ったプリチー族がテーブルの間をよちよちうろうろしていた。
(何あれ可愛いっ)
「果物運びは、プリチー族にも人気の仕事なんですよ」
彼らを気にしている私に気付いたのか、隣の神官が教えてくれた。
食堂等で果物を運ぶのはプリチー族の最もポピュラーな仕事なんだとか。プリチー族はやりがいのある仕事に満足、運んでもらう側は愛らしさに満足、と。まさしくwin-winの関係!
さらに、プリチー族に運んでもらうと果物が美味しくなるんだそうだ。素晴らし……
「あぁ、どうやらショーが始まるみたいですよ。とても可愛らしくて大人気なんです。当のプリチー族には不人気なんですが……」
……危険! 危険! 危険! 脳内に警報が鳴り響く。
プリチー族のショー? とても可愛らしくて大人気?
嫌な予感がするというか嫌な予感しかしないいい! 落ち着け、まず、落ち着け。ショーを見なければ大丈夫だ。ここは冷静に、クールにやり過ご……
♪おいちーだいちゅきー(あいちてるー)
プリティー族の踊り子たちが、ぽてぽてとほっぺたを叩――
ゴッ!
私は額を勢い良くテーブルに打ち付けた。
(ぐっは! 思わずちらっと見ちゃったよ! やばいアレはやばい!)
何か、何か気を逸らすものをと求める私の前に、良いタイミングでパンが運ばれてきた。
助かった! と思わず笑みを浮かべそうになって、内心で自分に平手打ちをお見舞いする。
バカか! 緩んだ顔を隠せる事に喜んで緩んだ顔を曝すとか本末転倒すぎるて!
もろもろ含めて紛らわせるように、勢い良くパンに噛り付いた。
(……固いな。だが、そこが良い)
思っていたより歯ごたえが強かったが、固いパンも好きなので問題ない。
ぐっと顎に力を入れ、ブチリとパンを噛み千切った。
(うまうま。顎が疲れるこの感じがたまらん)
世間では柔らかいパンばかりがもてはやされていたが……まあ、それはそれで美味しいけれども……私は固くても良いじゃない派である。要するに、パンなら何でも好きって事だ。
パンを一個食べきり、口の中の水分が奪われたところでシチューに目を向けた。
ごろごろと野菜が入ったシチュー。スプーンで具を掬い、息を吹きかけてから頬張る。
今の私には少し大きめだったが、構わず一口でいった。少し味が濃いめだけど、美味しい。
……ん?
「「……」」
(何か見られてるー!?)
気付くと神官全員からじいーっと見つめられていた。
(ななな何かしましたか私!?)
居心地の悪さに視線をさ迷わせていると、ふと、別のテーブルの人がパンをちぎってシチューにつけているのが目に入った。そうか、あれがセオリーなのか。パンをつける事を考えて濃いめの味付けだったんだな。
納得すると同時に、自分の食べ方はマナー違反だったのかもしれないと思い至った。
(それで見られてたのかも! うわー恥ずかしい)
「ミー……」
声を掛けられ気まずい気分で振り向くと、何だか感極まった様子のリーファスがキラキラした目で此方を見ている……かっわえええ……じゃなくて、あれ?
「わいりゅど! かこいー!」
どうやら好意的に受け入れられたらしい。というか、むしろ好感度が上がったようだ。
星とハートが乱舞し、ハート型のバロメーターがぎゅいんと上昇する幻覚が見えました。
今回は智美がご飯を残さなかったのと、食器を神官さんが片付けちゃったので残飯処理という名の餌付けは回避されました。
でもその内出したい。