機種交換
この作品は、お題を元に書きました。
携帯のauショップからプレミア会員限定のお知らせメールが届いた。
《2011年1月31日までの、お得情報》
締め切り日までの各種契約の特典が満載だ。
そう言えば、この携帯も前回の機種交換から2年を過ぎた。
今なら機種交換をしても違約金が発生しない。ポイントも1万近くまで貯まっている。
この頃、文字変換に時間が掛かる。スムーズに変換出来る時もあるが、そうでないことの頻度が高くなっている。
良し、決めた!
機種交換をしよう。
ショップに入ると順番待ちの席が、ちょうど空いたところだった。
ラッキー!
前回は1時間も待たされたから、その覚悟で来たのだが、今回はタイミングが良かった。
今年はついてる!
「次の方、30番の番号札をお持ちの方、どうぞーっ」
僕は、その声を発した担当者の前に、すかさず腰を降ろした。
「いらっしゃいませ。あらっ」
「えっ、君……?」
「ええ。去年、此処へ配属になったの」
彼女は、声をひそめて、そう説明した後、またビジネスライクな口調に戻して訊いた。
「今日は、どのように致しましょうか?」
「あっ、その……機種交換をしようかと」
「機種交換?」
彼女の表情が険しくなった。
「えっ……なに?」
僕は何故、彼女が表情を変えたのか解らない。
「あなたは、そうやって簡単に機種交換する人なのよねっ」
彼女は怒ったような口調で僕を睨みつけて来た。
「いや、だって……文字変換が遅くなったから」
「では、新しい機種にデータの転送をしますから暗証番号を教えて下さい」
「えーと……確か2011だったかな? 当時、愛してた人の誕生日が2月11日だったから。それで、その愛してた人は、友人の彼女を僕が送っただけなのに、勝手に誤解して連絡が取れなくなってしまったんだけど」
彼女の表情が、また変わった。
「えへんっ……その方を、まだ愛してるのですか?」
「ええ。勿論です。僕は、今でも優子が好きです」
今村優子と書かれたネームプレートが彼女の胸で揺れた。
彼女は更に優しげな眼に変わり、軽やかな声で僕に告げた。
「20時に終わるから【マロンマロン】で待ってて」
―了―
お題は
『2011』でした。
尚、筆者の人生と物語は、全く関係がありません。
物語は虚構です。