第六話 「衝動買い」
どもども~、呼ばれて飛び出でじゃじゃじゃじゃ~ん>< 獅子竹鋸で~っすw
キラッ☆ ゴメンね、でももう大丈夫。だから、俺の小説を読めっ!
………………。
…………。
……。
すいません、私が悪いんです。徹夜明けでテンションが無駄に高い私が悪いんです。なのでどうか石打の刑だけはやめて!あれだけはいやっ!
というわけで、「ファンタジア・フロンティア!」第6話です^^
今回は以前よりも早く更新出来ただけでなく、友人からの提案でないようを厚くしました。ちょっと読み応え有りすぎるかも……ブルブルッ。
とまあこんな感じで不定期更新ぐだぐだ作品ですが、どうかご賞味あれ^^
ジャンヌ「何はともあれ、まずはハンターズギルドで登録することだね。本当ならアタイが案内するべきなんだけど、どうしても外せない用があってさ。すまないね」
大通りの3ブロック奥にあるこの貸家は、2階建ての、石造りのアパートみたいなものだった。他にも同じものが何棟かあったので、恐らく公団のようなものなのだろうと推測する。それはともかく貸家で一息ついた私たちは、ジャンヌの提案によりハンターズギルドへ行くことになったのだが……。ちなみにハンターズギルドとは、ある程度予測はしていたが、やはり同業者、特にこの場合は冒険者、賞金稼ぎ、傭兵などの職業斡旋所のことらしい。ちなみに登録は誰でも無料で、そのほかにも商会ギルドなどが実在しているとのこと。とにかく、そこへはジャンヌ抜きで行かねばならなかった。
リィゲル「構わない。地図さえあれば難儀はしないし、それに、私はフィールドワークは好きだ」
ヒルダ「ええ、ですから気にしないでください」
ジャンヌ「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ、これを渡しておくから、気をつけるんだよ」
地図といくらか入った財布を投げてよこされた。
リィゲル「登録は無料じゃないのか?」
私は小首を傾げて尋ねる。
ジャンヌ「んや、無料さ。ただ、一文無しで行かせるのはしなびないからね。あと、意外とアタイには貯えがあるから、これくらい痛くもかゆくもないのさ。遠慮せず持ってきな」
なるほど、ジャンヌの気配りには頭が上がらない。
リィゲル「すまないな、何から何まで……。なるべく使わないでおこう」
私はそう言って地図と財布を上着の内ポケットにしまい、ドアを開けかけた。すると、
ヒルダ「そう言えば、と言ってもいまさらなのですが、私とリィゲルの服装は、少々周りから浮いているように感じられます。その点で何か気をつけなければならないことなどありますか?」
と、ヒルダがジャンヌに問いかける。確かに、ヒルダの言うとおりだった。文明の発展度からかんがみて、いくら軍服とは言え私の服は見ようによっては高級な礼装に見えるし、ヒルダに至っては騎士のような鎧である。何かトラブルに巻き込まれないとも限らなかった。
ジャンヌ「浮いてると言うか、リィゲル。あんたたち貴族かなんかじゃないのかい?」
リィゲル「確かに私は貴族の称号を冠しているが、一軍人に過ぎない」
レイア「竜族の私を誑かしておいて一般人とは白々しいな」
リィゲル「いつ何処で誑かされたんだ」
レイア「求めるなら、拒みはしないぞ?」
リィゲル「何をとは聞かないから、話の続きをさせてくれ」
レイア「ふっ、よかろう(笑」
心臓を受け取った代わりに精神力を日々削られている気がしないでもない。
ジャンヌ「アタイはてっきりどっかの貴族のボンボンかとばかり思ってたよ」
リィゲル「これは私の国の軍服なんだ。まあ、士官だったからそれなりには上等だろうけどな」
ジャンヌ「なるほど、随分と贅沢な国だね。ま、いいさ。それより、まあ、そんなに気をつけなくてもいいんだけど、まあ、貴族を嫌ってる奴なんてどこにでもいるからね。その格好じゃ勘違いされるだろうね。だけど、面と向かって突っ掛かってくることはないと思うから、服装はまた後で考えようじゃないか」
リィゲル「ならいいんだ。じゃあ、行ってくる」
ヒルダ「行ってきます」
ジャンヌ「ああ、お詫びと言っちゃなんだけど、上手い飯でも用意してるよ」
こうして私たち三人は、ハンターズギルドへといくため、ジャンヌの貸家を後にした。
リィゲル「――――一度大通りに出て左側に見えてくる。……盾を掴んだ鷹の看板……。ん、あれか」
そうしておよそ三十分ほど、ハンターズギルドは難なく見つかった。
木造三階建ての割と大きめなその建物はなんというか、入り口からして斡旋所というよりはむしろ酒場のようだった。実際一階フロアは受付と酒場だった。昼間だと言うのにどのテーブルにも客がいて、そこかしこを店員と思われる女性たちがせわしなく行きかっていた。客の方はと言うと、全員が全員そうであるとは言わないまでも、どことなく粗暴な輩が多く、下品な会話も目立つ。
喧騒に包まれるフロアを受付へと進む私であったが、全くもって、うるさいなどとは感じなかった。
ヒルダ「嬉しそうですね、リィゲル」
ふと横にいたヒルダが微笑みながら言う。
リィゲル「ああ、以前は部下たちとよくこうして酒を酌み交わしていたからな」
一度だけ敵に見つかりかけたこともあったが。
リィゲル「私がいた戦線は東部だったから、特に美味く感じたものさ」
レイア「五臓六腑に沁みわたる、か。そう言えば我はしばらく口にしていなかったな」
氷点下の酒盛りを懐かしく思っていると、意外にもレイアが乗ってきた。
リィゲル&ヒルダ「「レイアも飲むのか?(飲まれるのですか?)」」
レイア「おかしいか? 何も人間だけの嗜みと言うわけでもあるまい。まあ、滅多に口にすることはないから私が変わっているのかも知れんが……。少なくともある程度はいける口だぞ?」
リィゲル「意外だな。じゃあ今度、飲み比べでもするか」
レイア「ああいいぞ。だがただでは負けてやらん」
ヒルダ「それでは、私もいいですか?」
レイアを誘ったつもりが、今度はもっと意外な人物が参戦してきた。
リィゲル&レイア「「ヒルダも飲むのか!?(飲むとは!?)」」
ヒルダ「意外ですか? 私だって好きですよ。まあまずは登録の方をしませんか? いつまでもお店の真ん中で立ち話と言うのも無粋ですから」
確かにそうである。そこまでではないが店員の視線もあったので、私たちは当初の目的に取りかかった。
リィゲル&「すまない。ハンターの登録をしたいんだが、ここ受付であってるか?」
カウンター越しに声をかけられた職員の女性がこちらを振り向き、笑顔で応える。
受付嬢「はい。新規登録はこちらで承っております。身分証はお持ちですか?」
リィゲル&「いや、あいにくと持っていない。ここで作れるって話を聞いたんだが」
受付嬢「出来ますよ。それでしたらこちらの書類に必要事項を明記して下さい」
リィゲル「後ろの二人も新規だから、三枚くれないか?」
受付嬢「かしこまりました。ではこちらを。ペンは隣のカウンターにありますので」
リィゲル「ありがとう」
そうして三人で隣へと移動し、ペンをとって書類の空欄を埋めていった。そして、今頃ではあるが、あることに気が付く。
リィゲル「そう言えば、私の言葉はどうして通じるのだろう。それに文字まで……」
そう、私は何を隠そうこの世界にとっては異世界人である。言葉はもとより文字など書けるわけがないのだ。にもかかわらず、言葉は通じるし文字も難なく書くことができた。若干の違和感がなかったわけではないが……。
ヒルダ「言葉とは、人が対象を認識する上で重要なファクターです。言葉による概念化は世界への意味付け、それは世界が違っても変わりません。同じ世界内での地域ごとの差異はもちろんありますが、リィゲルの場合は世界そのものを移動したので、言語という概念がそのままこの世界のものと変換されたんです」
リィゲル「なるほど、違和感の正体はそれだったのか」
ヒルダ「はい、ですがそれもじきになれますよ」
ペンを筆さしに置き、三枚の羊皮紙を受付に提出する。
受付嬢「――――――確かに承りました。それでは、確認をさせていただきます。リィーゲルト・フォン・ハインリッヒ様、ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア様。それと、レイア様、で間違いありませんね」
ヒルダの家名は戦乙女と言う事もありヴァルキュリアにしたが、レイアは『我々に家名はない』と、そのまま記入した。受付の女性は一瞬いぶかしむそぶりを見せたが、別段追求することもなかった。
リィゲル「ああ、よろしく頼む」
受付嬢「それではこれに手を当てて下さい」
そう言って女性は透明の半球状の水晶のようなものを取り出す。
リィゲル「これは?」
受付嬢「初めてご覧になりますか? これは魔晶石といって、おもに魔術の触媒に用いられるものなのですが、その特徴の一つとして特定の人物の情報を記憶することができるんです。ですからこうして契約や登録の際に使用することがあるんです」
リィゲル「そう言う事なら」
つまるところ、契約不履行や犯罪者の特定に役立つということだろう。なかなかよくできたシステムである。
特にやましいことなどないので三人とも魔晶石に手を当てる。するとそれは淡い光を発し、やがてまたもとの透明な水晶へと戻った。
受付嬢「登録が完了いたしました。こちらがハンター登録証と身分証明証となります。初回のようですので、今回は無料での提供となりますが、紛失された場合、再発行には料金が発生いたしますのでご注意ください」
「覚えておこう」
受付嬢「では、改めてよろしくお願いします。ようこそハンターズギルドへ。ハンターランクと依頼についての説明をお聞きしますか?」
「ああ、聞かせてくれ」
受付嬢「はい、まずはハンターズランクについてですが、これはハンターズギルド内でのある種の階級となっていて、SS,S,AA,A,B,C,D,Eの全8種あります。あなた方は登録したばかりなのでランクはEとなっておりますが、依頼を一定以上達成していくごとに昇格となります。ランクは受けることのできる依頼の難易度に影響するのでご留意ください」
リィゲル「影響と言うと?」
受付嬢「はい、正確には請け負うことのできる依頼の制限になるのですが、まずは依頼の難易度に説明させていただきます。全ての依頼にはそれぞれこちらが判定した難易度が割り当てられ、初めてハンターののもとに依頼として紹介されます。その難易度と言うのが――――。そうですね、こちらをご覧ください」
受付の引き出しから一枚の羊皮紙が引っ張り出され、カウンターに置かれた。
リィゲル「これは、依頼書か?」
受付嬢「はい。この依頼内容の下に★が描かれていますね? この★の数が多ければ多いほど、難易度が高いということになります。下は一個から上は24個までです。あなた方のランクはEですから、最高で★が4個までの依頼が受注可能となっています。依頼の内容については様々で、一番多いのはモンスター等の討伐依頼ですね。次いで商隊や重要人物の護衛、荷物の運搬、素材の採取、雑務などがあります。それぞれの依頼書には依頼主の名前、依頼内容、報酬、契約料、期間、成功条件、失敗条件、そして今説明した難易度が記載されていますので、受注なさる際は十分ご確認ください。特に注意していただきたいのが契約料です。これはハンターが仕事を破棄または失敗した際の違約金として、または特殊な依頼の場合の支給品の経費としてあらかじめ徴収いたしますが、依頼を達成されましたら報酬とともにお支払いいたします。それと、討伐依頼についてですが、討伐対象を倒した証拠としてその身体の一部を持参していただきます。もし、何も証拠部位がない場合は依頼失敗となりますのでくれぐれも留め置きください」
ふぅ、と一拍おいて女性は他に何かお尋ねしたいことはありますか?と尋ねる。
リィゲル「いいや、ない。説明ありがとう。今日は登録だけしにきただけだから、依頼の方はまた後日にするよ」
受付嬢「わかりました。いつでもお越しください」
女性に一礼し、私たちはハンターズギルドを後にした。とりあえず、今日の目的は遂げた。しかし日はまだ高く、ジャンヌが帰ってくるにはまだ時間があったので、何かしておくことはないかと思案する。
リィゲル「ヒルダ、何か思いつかないか?」
ヒルダ「そうですね……。特にないです」
リィゲル「そうか、レイアは?」
レイア「用か……。ないこともない」
リィゲル「と言うと?」
レイア「以前主が言っていたことを思い出してな。その腰に差している剣についてだ」
リィゲル「宵闇がどうかしたのか?」
レイア「ああ、確かおぬしはこう言ったはずだ。『この刀はそうそう抜かない』と。だがこの先いつ荒事に巻き込まれるかも分からないというのにそんなことは言っておられんだろう。ハンターの依頼をこなす上でもそうだ。だから、何か代わりの武器を買ったらどうかと思ってな。さすがに徒手空拳で構わないなどとは考えておるまいな?」
なんということだろう。完全に失念していた。我ながら情けない。しかし――――。
リィゲル「――――しかし、武器を買おうにも先立つものがない」
そう私たちにはお金がない。無一文。下手すればジャンヌのたかりである。もし仮にジャンヌから借り受けたこの財布の中身を使うにしても、武器を買えるほどの額はないのだった。
が、レイアはニヒルな笑みを浮かべている。
リィゲル「何か考えがあるようだが」
レイア「ああ、当然だ。私とて考えもなしに提案する馬鹿ではないからな」
ヒルダ「それは危険を伴うようなものですか?」
と、ヒルダ。彼女の言葉はまさに私も懸念していたことだった。短時間にそれなりの額を用意するには、借金以外はどうしても非合法になるのだ。
レイア「見くびってくれるでない。リィゲルの意に反するようなことはしない」
リィゲル「ならいいんだ。じゃあ聞かせてくれないか? その方法を」
非合法でないのなら文句はない。なので私はレイアにその策について尋ねた。が――――。
レイア「ふふふ、そう急くな。じきにわかる」
と、はぐらかされてしまった。
レイア「確か地図によるとハンターズギルドの二軒隣が素材屋だったな。行くぞ」
にやにやしながら素材屋へと向かうレイア。私は彼女を信じているが、心配せざるを得ないこの心境をぜひとも理解していただきたいものである。
孤高の店主「……いらっしゃい……」
表通りという商人なら羨むような場所に建つその店は、こじんまりとしたどちらかと言うと活気に乏しかった。品物も雑然と並んでいるだけで、まったく見た目など気にしていない様子である。一人カウンターに肘をつきながら、ふてぶてしく応対したのが恐らくこの店の主だろう。壮年のあごひげを蓄えたこの男は、まるでこちらを吟味するかのように眺めていた。普通の客ならそそくさと帰ってしまうような、言っては失礼だがいかつい顔である。
しかしレイアはそんなこともお構いなしにずんずんとカウンターに接近する。まあ、雰囲気は殺伐としているものの、特に悪意などは感じられなかったので私とヒルダもそれにならう。
レイア「おぬしが店主か?」
孤高の店主「……いかにもそうだが、何か用か?」
レイアと店主のやり取りが始まった。私とヒルダはレイアの手の内を全く知らないので、一抹の不安もあるが、ここは黙って見守ることにする。
レイア「とある素材を買い取ってもらいたいのだが、いいだろうか?」
孤高の店主「……確かにここは素材屋で素材の買い取りもやってるが、うちは他と違ってそこらへんに転がっているようなもんは扱ってない。それを承知で売りに来たんならいいが、ろくでもないものだったら叩き出すぞ……」
レイア「そうかまえるな。まずはこれを見てからだ」
そう言ってレイアは外套の中から一つの革袋を取り出した。そして中身をカウンターに出し――――。
(――――これはレイアの鱗!?)
そう、美麗な桜色をした、紛れもないレイアの鱗だった。しかも一枚だけでなく9枚もある。
私とヒルダは思わず驚いたが、一番驚いていたのは鱗を見た途端に目付きを変えた店主だった。
孤高の店主「……こいつは驚いた。こんな色の火竜種の鱗は見たことがない。一体どこでこんなもんを……。麗しい花のような桃色。火竜種の鱗とは思えないほどの軽量と硬度。それに、どれをとっても均整が取れていて、傷一つない」
まるで店主は魅入られたようにレイアの鱗を鑑定した。そして、惜しむことなく賛美の麗句を並べる。その言葉は決して大げさなものではなかった。
孤高の店主「……よもやこんな代物を拝む日が来るとは思ってもみなかった。まさに眼福だ。さきほどの非礼を詫びさせてくれ。すまなかった。俺は見ての通り客を選ぶ。だからあんたたちを試したんだ」
レイア「気になどしていない。その気概は称賛に値するからな。それより、買い取ってくれるか?」
孤高の店主「ああ、もちろんそのつもりだ。こんなものを見せつけられたんじゃ買わずにはいられないだろが。いくらだ?」
レイア「おぬしが付けてくれ。言い値で構わない」
孤高の店主「今度はあんたが俺を試してるんだな。よし、一枚につき銀判貨二枚でどうだ」
(銀判貨一枚!?)
私は再びその値段に驚いた。ジャンヌから聞くところによれば、この世界に普及している硬貨は閃貨(鉄でできた硬貨)、青銅貨、銅貨、銅判貨、銀貨、銀判貨、金貨、金判貨、白金貨、白金判貨の十種類で、閃貨を一とするなら順番に百、千、一万、五万、十万、百万、五百万、一千万、五千万となっていて、平均的な家庭の月収額が銀貨四枚。つまり閃貨二十万枚分である。そして店主が鱗一枚につき提示した額が銀判貨二枚。一家庭を九カ月間まかなうだけの大金なのである。
レイア「合計で金貨1枚と銀判貨8枚か、高すぎず低すぎずと言ったところだな。なかなかどうして、見る目があるじゃないか」
孤高の店主「当り前だ。俺はこれでもこの道四十年だ。と言ってもまだまだ未熟だが、目利きぐらいはできる。で、いいのか?」
レイア「ああ、その値で構わない。金はすぐ用意出来るか?」
孤高の店主「ちょっと待ってろ。今金庫から取ってくる」
カウンターのいすから急いで立ち上がり、店の奥へと入って行くのを確認すると、私はすぐさまレイアを問い詰めた。
リィゲル「あれは、貴女の身体の一部だろう! それをやすやすと売ってしまっていいのか?」
ヒルダ「そうです。こんな方法は取るべきではありません
レイア「勘違いするでない。私は主の意に反するようなことはしないと言ったぞ」
リィゲル「私は友に身体の一部を売らせるような人間ではない。ましてやこれからの運命を共にすると誓った戦友に――――」
レイア「話は最後まで聞かぬか。何もむやみに売ったわけではない。私たち火竜族は、まあ、他の甲殻を鱗を持つ種族は皆そうなのだが、定期的に鱗が生え変わる。だから、この鱗は全て生え変わるために剥がれたものなのだ。今までなら捨ておいていたが、これからは何か役に立つこともあろうかと取っておいたのだ。改めて言うが、私はおぬしの守護者になることを誓ったのだ。その私がおぬしの嫌がるようなことをするとでも思ったのか?」
リィゲル「――――っ!」
そう、レイアは私との戦いののち、守護の契約を結んだ気高き火竜である。私はこともあろうか命を預ける戦友に疑いの思いをいだいたのだ。私はレイアを信じきれなかったことをいたく恥、言葉を失った。
レイア「謝らないでくれ。私も意地が悪かった。おぬしが勘違いしてしまうのは最初から分かっていたのにな。初めから説明しておくべきだった。だから、謝らないでくれ。私はおぬしの誠実さを垣間見ることができたのだ。かえってこっちが恥ずかしいくらいだ」
そう告げて、らしくもなく苦笑いして見せるレイア。私も謝るなと言われ、何とも言われず苦笑いを浮かべた。
ヒルダ「私も謝ります。レイアにはレイアなりに、思うところがあったのに疑ってしまって」
レイア「いや、おぬしも謝ることはない。それより、店主が出てくるようだぞ」
リィゲル「そうだな、この話しはもうここまでにしよう」
そうして話を打ち切ったと同時に店主が店の奥からカウンターに戻ってきた。
孤高の店主「取り込み中だったか?」
レイア「いや、ちょうど終わったところだ」
孤高の店主「そうか、ならいい。金貨1枚と銀判貨8枚だ。いいものを仕入れさせてもらったよ。感謝する」
レイア「こちらもいきなりですまなかったな。これだけの大金を。これからしばらくは経営が大変だろう」
孤高の店主「なに、どうせこの店はほとんど俺の趣味のような店だからな何か入用になったらいつでも言ってくれ。そこのにいちゃんたちもな」
リィゲル&ヒルダ「「私たちのことか(ですか)?」」
孤高の店主「ああ、あんたら、そうとうな腕の持ち主なんだろう。身体つきを見りゃひと目でわかるよ。本物か、偽物かくらいはな。物の良し悪しを見極める。それが俺たち商人だ」
リィゲル&ヒルダ「そこまで言われては返す言葉もないが、身に余る言葉だな」
ヒルダ「私も、同じです。まだまだ精進が足りません」
孤高の店主「ふっ、随分と謙遜するんだな。冒険者ならしっかり胸を張りな。でねーとなめられっぱなしだぞ。だが、己を理解することができると言うのはいいことだ。あんたらなら道を違えることはないだろう。っと、歳をとると説教臭くなるな。あんたら、用が他にあるんだろ? だったらこんなところでもたついてないでさっさと行きな。商売のじゃまだからよ」
不敵な笑みを浮かべ、我々を見送る店主。こんないい笑顔ができる人間は今までそうそういなかった。彼は紛れもなく人生の先達であった。
若い店員「いらっしゃいませっ!ようこそ『ソロン・ブレイズ』へ!」
素材屋を後にした私たちは、その足で大通りの向かいに構える武器屋へと入って行った。レイアは武器など必要ないと言って外で待っている。こちらは先ほどの素材屋とは打って変わって、垢ぬけた明るさと爽やかな笑顔を携えた若い店員たちが必死に働いていた。店もかなり大きく、周辺の店舗とは一線を画していた。武器・防具はピンからキリまでそろっており、種類ごと値段ごとに見比べられるようになっていて、これぞという商品がよく映えるように配置されていた。掃除も行き届いている。
若い店員「どのような品をお探しですか?」
早速呼び込みをしていた一人の青年が近寄ってきた。なかなかの好青年である。
リィゲル「まだ決まったわけではないから、考えているところさ」
だがこちらも今日初めて武器屋に来ようと思い立ったわけで、まったくこれと言って欲しいものが決まっていなかったのである。これからは恐らく一対一だけでなく多対一の戦闘が起こりうるのでそれに対応できるように――――。
若い店員「分かりました。ではどういう用途、どのようなコンセプトでお探しですか?」
――――これは意外である。アルバイトの店員とばかり思っていたが、多少は武器に関して通ずるものがあるようだ。少々無粋かもしれないが、試してみてもいいだろうか?
リィゲル「そうだな、今はこれしかないから、と言ってもこの刀は業物なんだが。とにかく予備の武器、もしくはこれの代わりになるようなものが欲しい」
若い店員「やはりそれはカタナでしたか。自分も見るのは初めてなんです。確かそれは叩き斬るよりも撫で切ることを主眼に置いた、切って良し、突いて良しのある種完成された武器でしたね。ですが、おもに一対一向けのため、多対一ではもてあましてしまう恐れがあるらしいとか」
リィゲル「これは驚いた。存外に詳しいな」
若い店員「はい。今はまだここの見習いですけど、でもいずれは独立して自分の店を構えるのが自分の夢なんです。だから、日々冒険者の方々からも勉強させてもらってるんです」
なるほど、どおりで精通しているはずである。まさか刀についてここまで理解しているとは思わなかった。しかし、なんと前途有望な芽であろうか。
リィゲル「そうっだったのか。それじゃあ、君が店を出すのが楽しみにするよ」
若い店員「はい! ありがとうございます! では、商品の紹介をいたしますので、こちらにお越しください」
リィゲル「ああ、よろしく頼むよ。あと、ヒルダにも見繕ってくれないか?」
若い店員「ええと、そちらのご婦人がヒルダ様、ですか?」
リィゲル「ああそうか、まだお互いの名前も知らなかったな。私はリィーゲルト・フォンハインリッヒ。リィゲルって呼んでくれて構わない。それとこっちの甲冑を着ているのがブリュンヒルデ・ヴァルキュリア」
ヒルダ「よろしくお願いしますね(^^」
ポッ
フリッツ「は、はい。よろしくお願いします。ぼ、僕の名前は、フリッツ・ウィンストンといいます。で、ではこちらへ」
一瞬で顔を赤くし、口調がぐだぐだになるフリッツ。まあ、ヒルダの微笑みは女神のそれなので仕方があるまい。私とて、ぐっとくるものがあったりなかったり……。
リィゲル「ヒルダは何にするか決めてるのか?」
まあとりあえずは場の空気を普通に戻すことにする。
ヒルダ「ええ、決まってますよ。向こう《ヴァルハラ》では弓と細剣を使ってましたから、その二つにします」
リィゲル「何だ、もう決まってたのか。だったら早いところ決めないといけないな」
フリッツ「付かぬことを伺いますが、リィゲルさんは長柄の使用経験はありますか?」
長柄か……。確か父からある程度手ほどきを受けた気がする。
リィゲル「ないこともないよ」
フリッツ「でしたら、先週入荷したいいものがあるのですが、いかがでしょう?」
リィゲル「そうだな……、じゃあ見せてくれるかな?」
フリッツ「かしこまりました。少々お待ち下さい」
やがてフリッツがいたく重そうにしながら持ってきたのは、2mほどの槍だった。しかし、槍状の頭部には斧のような形をした広い刃が付いており、その反対側には小さな鉤状の突起が付いていた。
リィゲル「――――これは、ハルバートかな?」
ハルバートとは、私がいた世界の15世紀ごろ、スイスで登場した多用途な武器である。その特殊な形状から、切る、突く、引っかける、鉤爪で叩くといった四つの使い分けが可能となっている。
フリッツ「やはりご存知でしたね。さすがです。これはレーヴェンノヴァ帝国の鍛冶匠“ゲオルグ・ディートリヒ”が手掛けた作品の一つなんですよ」
フリッツは誇らしげに解説しつつ、ハルバートを私に手渡す。
リィゲル「ん?意外と軽い」
と言っても体力が守護の契約によって格段に上がっているので、普通の人にとっては非常に重かったりする。
フリッツ「…………」
案の定、口をポカンと開けて呆然とするフリッツ。まあ、確かにあれだけ重たそうに持っていたものを片手でやすやすと持たれたとあっては驚くしかないだろう。
フリッツ「……リィゲルさん。あなたの何処にそんな力があるんですか?」
リィゲル「なに、単に力が多少あるって程度だよ」
フリッツ「それにしても――――。いえ、それより、随分と手慣れた持ち方ですね?」
リィゲル「そう見えるか?」
フリッツ「ええ、リィゲルさんには遠く及ばないですが、実は僕、槍術を習ってるんです。それで、何処となく師範代の先生と構えが似ているなと思って」
リィゲル「よく見ているね。鋭い観察眼だ」
フリッツ「そう言ってもらえると嬉しいですよ。ありがとうございます。ところで、いかがでしょうか?そのハルバートは」
ふむ、と再び私は自分の手におさまっているハルバートに視線を落とした。穂先から石突まで全て金属でできたこの槍であるが、私はふと下から順に叩いていった。
コンコン、コンコン、コンコン、コンコン――――。
穂先まで叩き終えた私はそこで息を一つ付く。ああ、なんということだろうか。
リィゲル「これは、凄いな。確かに業物だ。音のバランスがいい。それにこの刃と槍状部には硬軟2種類の鋼が用いられている。まるで刀だ」
フリッツ「気に入られたようですね。リィゲルさんなら安心してお売りできますよ」
リィゲル「いくらかな?」
フリッツ「はい、ええと、金貨1枚になります」
リィゲル&ヒルダ「「………………」」
軍資金の半分以上を使ってしまうのは我ながらどうかと思う。
(買わないのですか?リィゲル……)
(あれだけの業物を、みすみす手放すのは非常に惜しい。だが、さすがに金貨1枚は大出費だろう)
(私は、買った方がいいと思います)
(何故だ?)
(何となく、ですが、あの槍がリィゲルを選んだ気がするのです)
(槍が、私を?)
(はい、そうです)
(あいつが私をか……。そう言われればそんな気がしないでもないな)
(あの槍も、もしくは運命に引き寄せられて来たのではないでしょうか?)
(運命、ね。そうだな、確かに今日まで無駄な出会いはなかった。ここは一つ、大博打といこうか)
フリッツ「あの、リィゲルさん。何を話していらっしゃるんですか?」
リィゲル「いや、なんでもない。買わせてもらうよ」
フリッツ「ほんとですか? あ、ありがとうございます!」
リィゲル「こちらこそ、このハルバートと引き合わせてもらって感謝してるよ。それじゃあ今度はヒルダの装備を選ぼうか」
フリッツ「はい!かしこまりました!ではこちらにどうぞ!」
リィゲル「行こうか、ヒルダ」
ヒルダ「はい、そうですね。私も早く選ばないと、外ではレイアも待っていますしね」
リィゲル「さて、掘り出し物があるといいんだがな」
そうしてフリッツに連れられて移動してきたのが細剣の販売スペース、しかし隣には都合よく弓の販売スペースもあった。
フリッツ「弓だけでは心もとないと、護身用に細剣を買われる冒険者が意外と多かったので、こうして販売スペースを隣り合わせにしたらしいです」
とフリッツ談。
ヒルダ「改めて思いますが、本当に品物がそろってるんですね」
フリッツ「は、はい。貧乏冒険者から王宮騎士までいらっしゃいませっていうのが、うちの店長の掲げるコンセプトなんです。で、ですから、きっとヒルダさんも気に入って下さる品物があるはずです」
ヒルダ「ふふっ、そう緊張しないでください。それで、あなたの見立てではどれくらいかしら」
フリッツ「しょ、少々お待ちを。ただいま見繕ってまいりますのでっ」
慌てて店内を駆けずり回るフリッツを見守りつつ、思わず苦笑する私とヒルダ。そして、何本もの細剣と弓を両手に抱えた純粋な青年にまたもや苦笑しつつ、ヒルダの得物選びが始まるのだった。
フリッツ「――――これなんてどうでしょう?――――」
リィゲル「――――でもこっちのヒルトが――――」
ヒルダ「――――すると、この幅だと――――」
フリッツ「――――この際ここの長さは――――」
ヒルダ「――――ガードがこの一本では――――」
「――――――――」
「――――」
――――――――。
――――。
……小一時間は経っただろうか。選定は意外にも長引き、ようやく弓と細剣を決めたころにはもう日が沈みかけていた。最終的にヒルダが選んだのは長さ70㎝くらいの鋼製のスウェプト・ヒルトのついた形は一般的なレイピアと、強化弓とも呼ばれるコンポジット・ボウの二つ。なるべく上等のものを買ったので、計銀判貨7枚と銀貨が1枚がさらになくなり――――。
レイア「――――で、あっという間に銀貨が1枚残っただけか。実にあっけないものだな」
と、若干呆れた目でこちらを見てくるレイア。随分と待たされた挙句、折角作った軍資金がほぼなくなったのだから当然の態度だろう。
そしてジャンヌの貸家へと帰宅途中に、レイアの機嫌を直すために残りの銀貨1枚も味見と称するレイアの屋台での暴食に次ぐ暴食で、見事胃袋に収まってしまってたりする。
あと、ジャンヌが用意すると言っていた夕食は予想に反して大変美味かった。
ああ、出す予定なかったのに新キャラ二人出てきたし。おかげで出てくる予定のやつ一人消えたしw ま、これもなにかの運命なのでしょう。そういえば新しい武器についてですが参考資料として 「新紀元社 市川定春先生 著 武器辞典」の内容を一部引用させていただきました。
さて、こんな駄文を読んで下さる皆様方には感謝のしようもありません。前書きにも書いたとおり、不定期更新なのでやきもきされる方もいらっしゃるかと思いますが、そこは末永くお付き合いくださいませ^^ ご意見・ご感想待っております。誤字・脱字の通報にもご協力くださいw それでは、次回乞うご期待><