第五話 「ソロンにて、一歩」
投稿が遅れがちだと申すか。ふっ、しかしそれは私の責任ではない。怨むなら模擬試験を怨むんだな。OTL すいません、ふざけましたね。というわけでようやく第五話。そしてPV6000突破ヤッッッッッッッッッッッッホイ!!!!!!!!!!!大感謝ッス!感激ッス!獅子竹はあと三年は戦えるッス! それと、初めて感想いただきました!ありがとう!それではご賞味あれ^^
――――城塞都市「ソロン」――――
ノイシュバンシュタイン王国南端部、テレネ半島の中心に位置するこの街は、建国当初より北部との中間地点にあり、以来要衝として栄えてきた。半島の港町で降ろされた荷の多くはここに集められ、適正な税をかけられた後、北部へと送り出される。また、他国との戦争が勃発した際には最前戦基地となるために、軍需物資の補給も頻繁である。そのような背景か街全体が商人気質で、したたかな者が多いらしい。ジャンヌはそこを特に強調して説明してくれた。
ジャンヌ「いいかい、十分気を付けるんだよ。全員が全員ずるい奴ってわけじゃないけど、よそ者には手加減しないからね。骨までしゃぶられちまうよ」
リィゲル「ありがとう、ジャンヌ。ですがこの通り私たちはお金なんて持っていませんし、だれかれ構わず信用したりはしません」
ジャンヌ「そう言うけどね、リィゲル。あんたが一番心配なんだよ。アタイは」
石畳の整備された大通りを行く人ゴミを避けつつ、ジャンヌは一つため息。無事ソロン入りを果たした私たちは、ジャンヌの好意で彼女の借家へと向かっているところである。さすがは栄えている都市なだけあり、市は活気にあふれ、通行人の数も多かった。生活水準は思ったより高く、白い石造りの建物が多く見られる。が、元の世界で言う西洋なデザインと南国のものが合わさっていささか珍妙でもあった。
リィゲル「工芸品も目立ちますね」
ジャンヌ「ああ、ここにはハンターズギルドがあるからハンターたちに素材の収集を依頼する職人も集まるんだ。それに、よその国から珍しいものが流れてきたりするからね」
リィゲル「他国の文化に触れるのならば港町に行くのではないですか?」
ジャンヌ「商人の街でやっていける奴はそう多くはないんだよ。ここも大概商人ばっかだけど、それでもまだ幾分やっていき易いんだ。安全だしね」
リィゲル「なるほど、確かに職人は総じて金勘定は得意ではありませんからね」
ジャンヌ「そういうこった。お、あれは――――」
と、左の屋台に目を止めるジャンヌ。
リィゲル「何かあったのですか?」
ジャンヌ「歩いてたら小腹がすいてきただろ。だからちょいと軽食でも買ってこようかと思ってね」
リィゲル「なるほど、そうですね。お願いします」
ジャンヌ「あいよ」
勇んで屋台に向かうジャンヌを見届け、改めて周囲を見渡す。
リィゲル「それにしても、本当に私は異世界に来たんですね。いまさら実感が湧いてきましたよ」
こちらに来てからというもの、わずか三日と経っていないにも関わらずいろいろなことが立て続けにあった。
ヒルダ「私もそんな気がします。今はちょうど小休止と言ったところでしょうか」
レイア「退屈はしなかったであろう?」
リィゲル「ははっ、そう言われてみればそうですね」
あの日――――地獄と化したベルリンで死んだはずなのだが、まさに言葉通り、死んでも死にきれなかった私であった。気が付けば私は魂の選定によってヴァルハラに導かれ、ヒルダと出会った後、共にこの世界へと舞い降りた。自らに課せられた使命というものが一体何なのか? それはまだ分からないが、このまま安穏と生きるつもりはない。ヒルダのあの指輪を斬った時、改めてそう誓ったのである。そう言えばレイアを初めて目の当たりにした時、これは私自身不可解なのだが、恐怖や畏れといった感情は全くなく、かえって憧憬の念をもって彼女を見据えていた気がする。けれどもそれは少年時代のおとぎ話への憧れからではなく、純粋に空への――――まだ見ぬ明日への希望を重ねていたからなのかもしれない。少なくとも、レイアとあいまみえたその瞬間から、彼女は「敵」ではなかった。守護の契約の際、実は私はレイアから流れてくる力にあと少しで押し潰されるところだったりする。ヒルダの加護がなければどうなっていたことか……。彼女にはしかるべき時に何かしらの礼をしようと思う。(決してタイミングを逃してしまったからではない。決して……)それから、ジャンヌと出会えたのは幸運だった。おかげで出発の日まで、テントとは言え雨風が防げる場所で夜を過ごすことが出来たし、何よりこの世界の人物が進んで仲間になってくれたのはとてもありがたかった。レイアに驚くこともなく(もとはと言えばジャンヌはレイアを討伐にきていた)、我々の素性も聞かなかったこともある。別に私は話しても構わないのだが、話さなくていいと言われてしまっては話すわけにもいかない。それから守護の契約が完了してからのジャンヌとの手合わせ。余談ではあるが、日本刀を用いる戦闘で注意しなければならないのは、刃を合わせてはならないという点である。相手の剣筋を読み、紙一重でかわす。そう、紙一重で。間合いは近すぎてもいけないが遠すぎても話にならない。全ての手を寸前で避け、相手の隙を窺う。そして、ただ一刀のもとに斬り捨てる一撃必殺の戦法。これが私の流派である。されどそれ故に、相手の隙を見つけても確信がなければ容易には攻めに出られない。だからこそ、ジャンヌの剣は手強かった。元いた世界が世界なだけに、私はそうそう武術に秀でた者とめぐり会う機会がなかったため、二刀流と剣を交えたのは初めてのことだった。今でこそ言えるが、あの手数の多さには正直舌を巻いた。普通攻撃と攻撃の間に生まれるはずの隙が全くと言っていいほどなかったし、攻撃そのものも無駄がなかった。あくまで私見だが、ジャンヌの剣は流派として確立したものではなく、己の思うまま、流れのまま自由に動く我流ではないかと推測する。繊細でありながら強引に。優美でありながら狡猾に。そういった両極端さ、言いかえれば奔放さがジャンヌの剣の強みなのではないだろうか。ただし、私が言うのも大変厚かましいものがあるのだが、ジャンヌはまだ未熟である。絶対的集中力と客観的冷静さである。戦闘において、常に意識をフィールドの上に、俯瞰的に状況を処理するだけの力量が、ジャンヌには足りないのである。彼女はまだ伸びる。むしろ今がスタートだと言ってもいい。わずかではあるが、いずれは私をも凌駕するだけの才能の一端を確かに垣間見た。とにかく、私自身も学ぶことの多かった手合わせだったと思う。その後のジャンヌの電撃的求婚はあぜんとしたと言うか予想だにもしなかったことで――――。
(――――ん? 全部女性絡みじゃないか……)
レイア「ふっ、このすき者め(笑」
とレイア。
リィゲル「人聞きが悪いことを口にしないでください(汗」
と私。そうは言ってもやはり、誰が見ても十中八九美人と答えるような彼女たちと出会い、行動を共にする運びになったことに対し、やぶさかではない自分もいるのである。私とて、一介の男なのだ。
レイア「まあいい。からかってみただけだ。それより、聞きたいことがあるんだろう?」
唐突な質問である。いきなり前触れもなく聞きたいことなどと言われても色々とありすぎて何から聞けばいいのか分からない。だが、強いて聞くならば――――。
レイア「スリーサイズか?」
リィゲル「聞いてどうするんですか」
ジャンヌ「上から順に――――」
リィゲル「魔法について教えて下さい」
レイア「ククク、反応が、素直な奴だな。ハハハハハハハ」
リィゲル「…………………………」
ため息も出ない。
レイア「――ハハハ、ハァハァ……。で、魔法についてだったな」
ひとしきり笑って満足したのか、レイアは目の端の涙をぬぐいながらこちらに向き直った。
リィゲル「ええ。何しろ私はこちらの世界のことを何一つ知りません。ですが、見聞を広めようにも何かあったときに私にあるのはわずかばかりの前世の知識とこの剣術。そしてヒルダ、レイア、ジャンヌ。貴女たちだけです。ですが、私は貴女たちに頼り続けるわけにはいきません――――」
ヒルダ「リィゲル……」
レイア「あるじよ……」
リィゲル「――――だから、私には力がいる。貴女たちを守るため、これから出会うべく人をも守れるだけの力がいる。傲慢かもしれません。欲張りかもしれません。ですが、それでも私は欲しい。それだけの力が――――」
ベルリン市民や負傷兵たちが無事脱出できたのかどうか、私は知らない。あの日部下たちが――戦友たちがどうなったのか、またはどのように散っていったのか、私は知らない。けれども、これだけは分かる。私は、守るべき者たちを前にして、共に戦おうと誓った戦友たちを置き去りにして、たった一発の弾丸に倒れた。先に、逝ってしまった。私はその最後の誓いを全うすることなく死んでしまったのである。だからこそ、今度こそは守り通したい。そう、ただ守るだけでなく、守り通したいのである。そのためならば私はどんな苦労も苦痛も甘んじて受ける。剣折れ矢尽きようとも、守るべきものがあるかぎり、私はどのような災厄をも退いてみせる。
リィゲル「――――もしそれを業だと言うのならそれでもいい。どこまでも、貪欲であろうと思う。だから、まずはその第一歩として魔法を教えてほしい。聞きたいこと、というよりはお願いです。そして、改めてこれから共に歩む者として、よろしくお願いします。後ろにいるジャンヌもですよ」
ジャンヌ「おっと、気付いてたのかい? 気配は消したんだけどね」
リィゲル「その両手に携えているものはとても香ばしい匂いがしていたものですから」
ジャンヌ「ありゃ、これは一本取られたね。確かに、分かりやすかったね」
リィゲル「まあ、冗談はさておき、レイア。教えてくれますか?」
レイア「ああ、構わない。だが、一つだけ条件がある。その条件を呑むのなら、我も改めてこの身を捧げる決意を誓う」
条件、と。
レイア「よいか?」
リィゲル「もとより承知の上です。なんなりと」
レイア「分かった。まあ、そう構えずともよい。何も無理難題を押し付けようなどとは考えておらん。我の出す条件、それはただおぬしのしゃべり方を普通にしてほしい。と言うだけなのだからな」
はて、普通とは?
ヒルダ「そうですね。確かに私もずっと気になっていました。名案ですね」
ヒルダは手を合わせて微笑む。
ジャンヌ「言われてみりゃなんか不自然だったんだよな。丁寧語なんて使うもんじゃないよ。堅苦しいじゃないさ」
ジャンヌはニッカと笑う。
リィゲル「ええと、そう言われても、癖と言いますか」
レイア「だから、それだけが条件だ」
そしてレイアはニヒルに笑う。
現状:賛成 3票 反対? 1票
リィゲル「私としてはこれがノーマルなのですが……」
ヒルダ「いきなりはさすがに無理でも、少しずつ変えていけばいいんですよ。私は、リィゲルに変に気を遣わせるわけのは、なんだか嫌ですから」
ジャンヌ「そうさ、否定するようで悪いけど、やっぱりなれなれしくしてほしいんだよアタイたちはさ」
レイア「その通りだ、我があるじよ。あるじにはやはりびしっとしてもらわなければ、我も同胞たちに申し訳がたたん」
気を使って欲しくない。なれなれしくしてほしい。びしっとしてほしい。
なるほど、確かに私はどこか彼女たちに気を使っていたかもしれない。仲間のつもりで一歩引いていたかもしれない。しゃんとして見えなかったのかもしれない。
リィゲル「――――わかりまし、いえ、分かった。これでいいか?」
彼女たちは再び微笑んだ。半分は苦笑いかもしれないが。
リィゲル「これからはなるべく気をつけるようにし――――しよう。改めてよろしく」
ヒルダ「ええ」
レイア「ああ」
ジャンヌ「アタイもね」
そして私は自分の右手を――――握りこぶしを突き出した。
リィゲル「戦友に――――」
その意図にいち早く気付いたジャンヌも、買ってきていた食べ物をポーチにしまってこぶしを突き出す。
ジャンヌ「戦友に――――」
続いてヒルダとレイアもこぶしをまっすぐ突き出した。
ヒルダ&レイア「「戦友に――」」
四人のこぶしが繋がる。
リィゲル「いつの日も、いつまでも」
ジャンヌ「何処にいても、何処までも」
ヒルダ「何があっても、変わることなく」
レイア「慈しみ、助け合う」
出発点。ここが私たちのスタートとなる。
終着点。それはまだ見えない。けれど――――。
一同「「「「事切れんその時まで」」」」
――――けれど、必ず辿り着いてみせる。
ふっふっふ、これでやっとリィゲルの口調を普通に書けるぜ。グエッヘッヘッヘw
次回も乞うご期待!!