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第三話 「契約と決意」

なんというか、やっちゃった感がぬぐえません>< どうか、見捨てないでね……。

と言う事で、どうぞご賞味あれw



挿絵(By みてみん)





 ヒルダ「そこの者よ! 隠れてないで出てきなさい!」


 茂みの中の者にそう呼びかけ、私はしかしながら、レイアに忠告を受けるまで気付かなかったという事実に、いかに自分が冷静さを欠いていたかを思い知らされました。リィゲルと運命を共にすると誓ったのに、このようなことでは私は自分が情けなくなります。決意を新たに、気を引き締め直した私はきっと茂みの方を見つめ、相手の応答を待ちます。が、相手が応答するよりも前に、私は緊張を解いてしまいました。なぜなら茂みの中にいるものから感じられたのは敵意などではなく、むしろ好意だったからです。


 女ハンター「ははっ。あんた、面食らったって顔してるね。気付いてると思うけど、アタイは敵じゃないよ。まだ味方でもないけどね」


 赤い、燃えるような竜の甲冑を纏った、若い快活な女性でした。快活というよりは豪胆なのかもしれません。彼女は私の傍らのレイアに臆することなくこちらに近付いてきました。

 

 ヒルダ「何者ですか?」


 ごく当たり前な質問が、思わず口をついて出てしまいました。けれども女性は気にすることなく答えます。


 ジャンヌ「隠れて覗いたりして悪かったね。アタイの名前はジャンヌ。ジャンヌ・アントホープ。ハンター兼傭兵みたいなことをやってる、しがない女戦士さね。あんたたちは?」


 ヒルダ「申し遅れました。私の名前はブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。こちらがリィーゲルト・フォン・ハインリッヒで、この火竜はレイアと申します。いきなりのこととは言え、無粋にも怒鳴ったりして申し訳ありませんでした」


 ジャンヌ「気にしないでおくれよ。怪しいのはお互い様だったろ? ところでさ、あんた、素人かと思ってたけど違うみたいだね。よくアタイの気配に気付いたね。っま、よろしく」


 ヒルダ「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 ジャンヌ「そっちのデカイのもよろしくな、レイア」


 レイア『気安く我が名を呼ぶな』


 ジャンヌ「まあまあそうかっかしなさんな。さっきは怯んじまったけど、馴れちまえばあんたの殺気なんて大したことないよ。それに、今のは全然本気じゃなかったじゃないか」


 レイア『ハッハッハ、口の達者な小娘だな。気に入った』


 ジャンヌ「ありがと、よく言われるよ。で、あんたたちこれからどうするんだい? アタイの見立て通りだと、わけありなんだろ?」


 ヒルダ「わけありと言えばわけありですが、確かに今の私たちに行く当てはありませんし、ここが何処なのかもわかりません」


 ジャンヌ「驚いた。迷い込んできたってのかい? にしては服が綺麗だけど。まあいいや、ついてきな。ベースキャンプに案内してやるよ」


 この申し出は現在の私たちにとっては願ってもない事でしたが、やはり戸惑いました。


 「よろしいのですか? 会って間もないというのに……」


 ジャンヌ「いいんだよ。自分で言うのもなんだけど、アタイは困ってるやつがいると見て見ぬ振りなんてできない性分でね。それに、アタイは一度認めた奴らはなにがあっても見捨てない。困った時はお互い様、なんてね」


 ヒルダ「……あなたのお心づかい、感謝しますね、ジャンヌ。ここはお言葉に甘えさせていただきます」


 ジャンヌ「素直なのはいい事さ。じゃあ行くよ。ああそれと、リィーゲルトって言ったけ? そいつはレイアに担がせな。テントまではそう遠くないけど、大の男を担いでいける距離じゃないからね」


 ヒルダ「分かりました。レイア、お願いできますか?」


 レイア『無論だ。このものは我が主となった男だ。むしろ我から望む』


 ヒルダ「ありがとう。お任せしますね」

 

 そうして私はリィゲルをレイアの背中に乗せ、先を行くジャンヌの後に続きました。希望の道しるべは、彼女のことだったんですね。




 二時間ほど歩いたでしょうか。ほどなくして私たちはジャンヌの言うベースキャンプに無事辿り着きました。個人が持ち運べるよな小さいテントではなく、どうやら固定式の大型テントのようです。なかにはベッドや簡易キッチンなどが配してありました。そして早速リィゲルをレイアの背中から降ろし、運びいれます。息は整っていましたが、依然として熱は引いていませんでした。


 ジャンヌ「そっちのベッドに寝かせるといいよ。上着を脱がせて仰向けにね。タオルはあそこの棚で、テントの外に町から運んできた水の樽があるから適当に使っておくれ」


 ヒルダ「何から何までありがとうございます、ジャンヌ」


 ジャンヌ「もともとここに一週間くらい滞在する予定だったからね。でも、桜火竜の討伐に来たのに逆に仲間になっちまうなんて、どういう風の吹きまわしかねえ?」


 ヒルダ「レイアを殺すつもりだったんですか?」


 ジャンヌ「そんな目で見ないでおくれよ。だったって言っただろうだったって。過去形だよ。それに出来れば殺さずに撃退で留めようと思ってたんだよ?」


 ヒルダ「す、すみません。つい早計になってしまいました」


 ジャンヌ「気にしてないよ。むしろ、あんたたちに出会えてよかったさ。でなきゃアタイは危うくレイアに挑んで何もできずにおっぬとこだったんだから。アタイは知らないうちに傲慢になってた。そのことに気付けただけ、今回は儲けもんさ」

 

 そう言って屈託なく笑うジャンヌ。私もつられてくすっと笑ってしまいました。本当に素晴らしい出会いをしました。


 リィゲル「――――んんッ、ヒ、ヒルダ……」


 うれしいことに、リィゲルが意識を取り戻しました。私はベッドの端へ駆け寄り、リィゲルの手をそっと握ります。


 ヒルダ「っ! リィゲル、気付いたのですね。具合はどうですか?」


 リィゲル「……ヒルダ、ここはどこですか? レイアは? それにこの方はどなたです?」


 ヒルダ「レイアは今このテントの外にいます。あの方は私たちをここに案内して下さった方です」


 ジャンヌ「ジャンヌ・アントホープだよ、よろしく。ジャンヌって呼び捨てにして構わないからね」


 リィゲル「これは大変ご苦労をかけたようです。私の名は――――」


 ジャンヌ「ああ、それならヒルダから聞いてるよ」


 リィゲル「そうでしたか、では私のことはリィゲルと呼んでください」


 ジャンヌ「分かった。リィゲルでいいんだね」


 リィゲル「はい、よろしくお願いします。ジャンヌ」

 

 握手を交わす二人。打ち解けられてよかったです。


 ジャンヌ「リィゲル、あんた起きてて大丈夫なのかい?」


 リィゲル「正直きついですが、話をするくらいなら問題ありません。それに、素性も明かさずにお世話になることはできません」 


 ジャンヌ「なるほど、律儀なんだね、あんた。思った通りだよ。ますます気に入った」


 ジャンヌは笑顔を崩さず続けます。


 ジャンヌ「ますます気に入ったから、アタイはあんたの素性を聞かない」


 ヒルダ「どういうことですか?」


 呆気にとられるリィゲル。私も首をかしげました。


 ジャンヌ「アタイらハンターや傭兵には共通してることがあってね、それはみんなわけありってことさ。例外もいないわけじゃないけど、好きでこんな仕事を始めた奴なんてほとんどいない。私だってそうさ。だからね、アタイらはお互いの過去は詮索しない、関わらないってのが暗黙の了解なのさ。それに、聞いたからって過去は変えられるもんじゃないだろ? アタイらが見てるのはいつも未来なのさ」


 リィゲル「なるほど、そういう事でしたか」


 ジャンヌ「ああ。だから聞かない。あんたはあんただろ?」


 リィゲル「そうですね、ではいつか十分時が満ちてからお話しいたしましょう」


 ジャンヌ「ゆっくり休むといいよ」


 リィゲル「では、お言葉に甘えて……」


 再び横になったリィゲルは、すぐに寝息を立てて眠り始めました。熱も若干下がり、非常に穏やかな表情をしています。私も、転生初日から色々ありすぎたので眠気が移ってしまったようです。疲れを感じた最初の日でした。お休みとジャンヌが言った気がします。




 翌日になると、リィゲルの熱はだいぶ下がり、食事が喉を通るようになりました。流石に運動は出来ないらしく、面目ないと苦笑していました。レイアの話によると、今日中には契約が完了して、心臓とリィゲルが完全に融合するそうです。ひとまずは安心というところでしょう。


 リィゲル「ジャンヌ、一つお願いされてもいいですか?」


 朝食のあと、おもむろにリィゲルがそのように切り出しました。愛剣の手入れをしていたジャンヌは、「なんだい、改まって」と顔をあげました。


 リィゲル「私たちにこの世界の事を教えてくれないだろうか。わけあって、私たちはこの世界のことを何から何まで、子供でも知っているようなことさえ知らないんだ。だから、簡単にでも教えてくれないだろうか?」


 ジャンヌ「なるほど、わけあって、ね。いいよ、どうせすることもないから教えてやるよ。何から聞きたい?」


 ジャンヌ「そうだな、じゃ、まずは――――」


 こうして、ジャンヌの講義が始まりました。


 


 この世界には主に西と東の大陸があって、西の大陸には「レーヴェンノヴァ帝国」、「ノイシュバンシュタイン王国」、「倭国」が。東の大陸には「アルヴィダ連邦」、「マリアタ群集国連合」などが広く知れ渡っている国々で、それ以外にも小国がいくつもあるそうです。現在地はノイシュバンシュタイン王国のカレドニア地方の、テレネ半島にある密林地帯らしいです。そして、レーヴェンノヴァ帝国とアルヴィダ連邦は今現在休戦状態で、いつ再び戦端が開かれるか分からず、戦々恐々とした生活をしているそうです。大陸間の移動もままならないのは言わずもがなですね。

 ですが、ギルドなどの職業斡旋施設や、商人たちを束ねる商会などは国境を越え、全世界に幅広く展開しているらしく、各国の情勢を知りたいならそいつらに聞けと言わしめるほどだとか。

 国力ではレーヴェンノヴァ帝国と、アルヴィダ連邦がずば抜けて高く、他の追随を許さないらしいです。ですが最近ではマリアタ群集国連合あたりが若干きな臭いとか。

 そしてこの世界には魔法や竜、魔物、魔族、亜人種などのリィゲルのいた世界では物語の中のものが存在しているのです。


 ジャンヌ「特に知っとくべきことはこのくらいかな。あとは追々説明するよ」


 リィゲル「ありがとう、ジャンヌ。助かりました。これで路頭に迷う事はなくなるでしょう」


 ヒルダ「私からもお礼を申し上げます。ありがとうございました」


 ジャンヌ「やめとくれよ、二人して。大したこともしてないのに恥ずかしいじゃないか」


 頭を下げるリィゲルと私に、ジャンヌは本当に恥ずかしいのか珍しく慌てていました。すると、ちょうど見計らったかのようにリィゲルの体に変化が起きました。首の後ろに、竜をかたどった紋章が浮き上がってきたのです。


 ジャンヌ「こりゃ驚いた! もしかして、守護の契約かい!」


 リィゲル「知っているのですか?」


 ジャンヌ「子供だって知ってるよ! ほとんど伝説だけど、おとぎ話によく出てきてたからね。アタイもガキの頃はあこがれたもんさね」


 リィゲル「レイアの話は本当だったのですね。改めて事の重大さが身に染みて分かりましたよ」


 ヒルダ「どこか異常なところはありませんか、リィゲル」


 リィゲル「ええ、ついさっきまであった身体の疲れもありません。むしろ、身体が以前よりだいぶ軽く感じます」


 レイア『それが守護の契約によってもたらされる恩恵だ。改めてよろしく頼むぞ、我が主よ』


 リィゲル「未熟者ですが、こちらこそ」


 ジャンヌ「寝たきりだったのが嘘みたいだね、まったく……。ま、アタイとしては早い方が良かったからね」


 リィゲル「?」

 

 ジャンヌはそう言うと、リィゲルに「宵闇」を投げ渡しました。


 ジャンヌ「ちょっくらアタイに付き合っておくれよ。確かめたいことがあるんだ」


 リィゲル「……わかりました。付き合いましょう」


 外に出ると、ジャンヌは自らの愛剣である双剣を構えていました。纏う雰囲気は戦士のそれであり、隙がまったく見当たりません。

 

 リィゲル「これはつまり、そういうことですか?」


 と、苦笑するリィゲル。


 ジャンヌ「ああ、そうだ。アタイはあんたとひと勝負したい。あんたの剣を見た瞬間からずっと思ってた。さあ、抜け!」


 ジャンヌの言葉に裏はなく、真剣そのものでした。リィゲルはそれをすぐに悟り、こう告げます。


 リィゲル「この『宵闇』は、俗にいう妖刀――呪われた刀です。心の弱い者や、邪な者がこの宵闇の刃をひと目でも見れば、たちまちに惹き付けられ、狂わせてしまう悪しき存在。そして、武器として何千何万という魂を喰らったこれは、間違いなく生きた災いです。ジャンヌ、貴女はそれに屈しない覚悟がありますか?」


 ジャンヌ「もちろんだよ。だからこそ、リィゲル――アタイはあんたと戦ってみたいんだ」


 リィゲル「分かりました。では、参りましょう」


 リィゲルの周囲の気温が下がったように感じました。黒い災いが、静かに鞘から解き放たれます。リィゲルは宵闇を下段に構え、瞑目しました。

 

 ジャンヌ「いつでもいいんだね。じゃあ、行くよ!」


 深い踏み込みと共に前に突き出された双剣を、リィゲルは受けることなく身体を右に滑らせてよけました。そこへ追撃の横薙ぎの一閃。これもまた紙一重で身体をのけ反って交わします。続く右手の縦斬り、左手の返し手、そこからの左右挟み込み、剣戟と見せかけたハイキック……。全て、洗練された完璧な連撃。しかしながらどれもリィゲルにはかすりもしません。


 ジャンヌ「避けてばかりかい!」


 両手振り下ろし、からの回転斬り。連続突き。それら全てを一度も受けることなく避け、流していくリィゲル。ついに、ジャンヌは痺れを切らしました。剣を交差させ、鋏のように構えます。

 

 ジャンヌ「奥義! 鎌鼬かまいたち!!!」


 リィゲルの目が、開かれました。


 リィゲル「秘奥、峰返し」


 カキィィィィィィィンンンンン!!!!!!!――――――


 ジャンヌの双剣が、彼女の手を離れ、宙を舞いました。


 ――――ザシュッッッ!!!


 同時に聞こえる着地音。ジャンヌの喉元に突き付けられた宵闇。勝負は、一刀のもとに決しました。


 リィゲル「――――――勝負、ありですね」


 ジャンヌ「だな、見事だったよ」


 リィゲルは宵闇をさっと払い、漆塗りの鞘に収めました。そして、ジャンヌを助け起こします。


 ジャンヌ「ありがとう、リィゲル。すまなかったな無理させて」


 リィゲル「いえ、いいですよ。私も鍛錬になりました」


 ジャンヌ「本当にありがとう」


 リィゲル「迷いは晴れましたか?」


 ジャンヌ「ああ、決めた。リィゲル、アタイは――――――」


 ブラウンのジャンヌの瞳が、リィゲルを見据えます。彼女の眼もまた、リィゲルのように決意にあふれたものへと変貌を遂げていました。言葉の続きを待つリィゲル。しかし、その言葉とはまったく予想だにしないものだったのです。


 ジャンヌ「――――アタイは、リィーゲルト・フォン・ハインリッヒに、正式に結婚を申し出る!」


 異世界に来てからというもの、毎日が驚きの連続でしたが、今日ほど唖然とするような出来事はありませんでした。







なんとか出来た二話連続投稿、もう死にそうです;;

あ、やめて、さげすんだ目で私を見ないで!!


次回も、よろしく……バタッ

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