幕間その壱 「ラブストーリーは突然に?」
本当は第三話の予定でしたが、幕間ということで短く区切りました><
<追信>お気に入り登録の方々に深い感謝を^^
『桜火竜の討伐、もしくは撃退』
それが、今回アタイが受けることになったハンターズギルドからの依頼だった。聞く話によると実質的な被害はないらしいけど、いつ襲われるか分からないし、家畜が怯えて仕方がないからと、早々にアタイに回ってきたってわけさ。恨みはないけど、こっちも仕事だからね、ゴメンよ。
なんて思ってたのがついさっきまで。
一体どうなってんだい? 確かこのエリア一帯はクエストのために人払いがされてるんじゃなかったっけ。ギルドの奴ら、こんなとこまで職務怠慢かよ。ったく、世も末さね。
女ハンター「――――けど、なんでよりによって貴族サマがいらっしゃるのかね……」
アタイは好奇と侮蔑をもって呟いた。見た感じあの黒い礼服は軍服のようだけど、遠目でもあの繊維の精緻さを見れば嫌でもあの男が貴族だってわかる。よく梳かれた金髪に、碧眼。それによく整った顔立ち。ああ、だめだね。イライラしてきた。
そしてなによりむかつくことが二つ!
まず一つ目に武装した女を侍らせていること。これだから貴族ってのは腹に据えかねるんだよ。あんな美人さんにいかにも高級そうな鎧なんか着せちゃってさ。さぞ優越感に浸ってご満悦ってとこかい? 男の風上にも置けないね。
次に二つ目。持ってる剣が業物ってこと。これは、なんつーか惜しいっていうか武器が可哀そうっていうか……。なんであんな見事な業物を貴族なんかが持ってるんだい? あれを作った職人が見たら泣くよ?
と、色々なことを考え、出るタイミングを計る。だって、ねぇ。普通貴族でも男と女が仲良くお話なんてしてたら茂みに隠れちゃうじゃない。え、そんなことないって? うっさいわね。文句ある?
で、観察。ややあって甲冑の女が指輪みたいなのを放り上げる。何やって――――
女ハンター「――――っっっ!」
自分の目を疑うようなことって、いつ以来だっけ。貴族の男が剣を抜刀しようとしたとこまでは確かに見えたのにそれから後。
剣閃が全ッ然見えなかった!
しかも放り上げられた指輪は綺麗に真っ二つに切れてる。あえて言うけど、割れたんじゃなくて、切れたんだよ、あれは。なんて綺麗で、禍々しい剣だろうね。浅い反りに黒く光る刀身。波紋のない片刃の真剣。アタイが知る限りでは、形からして多分『倭国』のカタナって武器だ。鋳物の武器と違ってすごく切れ味がいいんだけど、扱いが難しいもんだから持ち手を選ぶって話さ。なのにあの貴族の男は指輪っつう小さい的を正確にいとも簡単に断ち切ってみせた。一朝一夕でできるもんじゃないよ。
茂みの先の貴族の男に対するアタイの評価が一気に跳ね上がった。と同時にある考えが頭をよぎる。
(まさか、あんなペラッペラの服で桜火竜に挑もうってかい?)
だとしたら余程の者かただのバカだよ。少なくともアタイはそんな向こう見ずな奴は知らないし聞いたこともない。火竜族の牙は平気で鎧を噛み切るし、ブレスなんて喰らおうもんならあっという間に黒こげだ。それでも鎧があるのとないのとでは幾分違う。アタイだって大枚はたいてこの防具を買いそろえたってのに……。
(もしかして、桜火竜のことをしらないのか?)
よくよく考えてみりゃそっちの方が分かる話だ。はんぱ者ならともかく、あれほどの腕の持ち主なら相手に奢ることはないはず。歴戦のハンターや戦士を何人も見てきたアタイが言うんだか間違いない。そうと決まれば今すぐにでも桜火竜のことを教えてやらなきゃ――――
ギャオオオオオオオォォォォォォォォ!!!…………――――――――――――――。
背筋が、凍った。体中が、心が得も言われぬ感覚に縛られる。純粋な殺意の塊にアタイの本能と理性が悲鳴を上げた。
(――――っっっっ…………)
声が出ない。足も手も動かない。ただただ圧倒的な存在に身も心も竦む。
(あれは、そこいらの火竜種じゃない!!!)
たかが希少種などと、侮っていたのはアタイの方だった。今までの経験が、知らず知らず己を傲慢にしていた。桜火竜が発する殺意が自分に向けられたものではないと悟った瞬間、己が未熟さに歯噛みし、悶えた。そんなアタイに比べてあの男はどうだろう。アイツの顔には恐れも酔狂もなく、決意があるのみだった。静かにカタナを正眼に構え、蒼穹より舞い降りた『存在』と対峙する男。
アタイは、見ていることしか出来なかった。静寂と衝動の境界線のただなかに相対する様は、いかなる手出しも許されないような気がしたのだ。だからアタイは金縛りから解けてからも静観を決めた。おとぎ話だけにある、神聖な決闘をアタイは目にしていた。
しかし、両者はなかなか動かない。いや、違う。桜火竜が動かないのだと気付いた。
(男の気迫が、桜火竜の殺気を受け止めきってなお圧倒しているのか!?)
そう、動けないのは桜火竜の方だったのだ。今、この場を制しているのは男だったのだ。血沸き肉躍る。果たしてこのようなべらぼうな男が二人といようか、いやいるはずがない。紛れもなく、疑いようもない最強の存在。アタイの目の前にいる男こそ、アタイが探し続けてきた男に違いない。
ギャオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!
痺れを切らした桜火竜の咆声が、拮抗状態を破って轟く。桜火竜は先ほどとは比べ物にならないくらいの殺気をまき散らしながら男に殺到する。それでもなお動かず、まるで水のように殺気を受け流し、目を瞑り心を解き放つ。かつて出会った『倭国』の戦士が語った、明鏡止水の心をアタイは男に見た。
両者が交錯する瞬間、わずかに見えた剣筋は、優美で、滑らかで、しなやかで、かつ……、アタイを一撃で惚れさせるだけの威力があった。
この女ハンターの名前は次話で明らかに!? 小田和正さん、すいません<(_ _)>