第1話
とある伯爵令嬢は知ってしまった。自分を蔑ろにして幼馴染と戯れる婚約者が、有りもしない罪をでっち上げて婚約破棄しようと目論んでいることを。
「……そんなの許せない!」
彼女の中で激しい怒りが燃え上がる。婚約者をほったらかして無理やり仕事を押し付けるというパワハラをした挙げ句、他の女と仲良くしておいて、そこまでの仕打ちはもう許容できなかった。
「……絶対に失敗させてやる!」
この時を持って、内気で甘い伯爵令嬢は豹変する。彼女を知る者すべてが驚くほどに。
◇
とあるパーティーにて、断罪という名の茶番が始まった。
「ユミー・グレード! 伯爵令嬢の身でありながらノウヴァ・ゾディアーリ侯爵令嬢に対する数々の嫌がらせは目に余る! 今この場を持って婚約を破棄する! そして、ここにいるノウヴァ・ゾディアーリ侯爵令嬢と婚約する!」
黒髪に黄色の瞳の底意地の悪そうな顔の青年ガソマ・ドパント公爵令息が叫ぶように発言した。そんな彼に寄り添うのは彼の幼馴染であり侯爵令嬢のノウヴァ・ゾディアーリ。ウェーブのかかった青色に赤い瞳の小柄で童顔美人な少女はピッタリとガソマにくっついている。
そして、ガソマの視線の先には――美しく整えられていた深紅の髪とドレス、赤紫の瞳の大人びた美しい顔のユミー・グレード伯爵令嬢がいた。
「はあ……婚約破棄ですか。なにゆえそのような話を、いまここで? このパーティーのあとではいけませんの?」
「なっ!? 聞こえなかったのか!? お前が彼女に嫌がらせをするから婚約破棄だってことだ!」
呆れ果てた様子で質問するユミーの態度に、ガソマは苛立った。普段見せないような余裕な態度が気に入らなかったために声を荒げた。
「ああ、その話でしたらガソマ様の有責で婚約破棄ということでお願いします。勿論、慰謝料はたっぷりもらいますからね」
「はぁっ!? 何を言ってるんだ!?」
「ガソマ様と浮気相手の女性の証言では何も証明されません。逆に、私の方からガソマ様を非難する理由はたくさんありますし」
「何だと!? お前ごときがこの僕に逆らうというのか!?」
「ええ勿論。貴方には責められるだけの理由がありますから」
呆れ果てた様子でユミーは反論する。それからガソマ・ドパントとユミー・グレードの問答が始まったのだが、ガソマが圧倒的に不利になっていく状況になるのだった。
婚約者をエスコートしないでほったらかす有り様。
公爵令息でありながら自分の仕事を無理やり押し付ける。
仕事をしている婚約者に対してパワハラ三昧。
家の金を当主に無断で勝手に使って散財。
必要のない無断外泊、しかも遊ぶのが目的。
……………………。
明らかにガソマの方に問題がある第三者の証言と証拠を提示することによって、ユミーの証言は証明された。勿論、侯爵令嬢に対する虐めもないことも含めて。そもそも、格上の侯爵令嬢への虐めなど無理があることも。
「……言いたいことはそれだけですか?」
「「…………っ」」
ユミーは水の流れるように反論を返し続けるとガソマは顔を青褪めて顔を下に向けて俯いた。ここまで反論された挙げ句に窮地に立たされるとは思わなかったのだ。
「…………さっき言った婚約破棄はなしだ。わ、悪かった、言いすぎた。こ、これからは、もっと仲良くしていこうじゃないか…………」
先ほどと違ってあまりにも情けなくて惨めな言葉だった。ガソマにはもう勝ち目がないことに気付いたからだ。
「が、ガソマ様ぁ…………」
さっきまでガソマに縋るように抱き着いていたノウヴァはいつの間にかへたり込んでいて、ガソマと同じように顔を青褪めていた。
「はぁ、もういいみたいですね」
それに対してユミーは笑顔でやり返した。
「では、今度は私から婚約破棄させていただきますわ」
「なっ!? ちょ、ちょっとまってくれ!」
ガソマは慌てて引き留めようとするがもう遅い。
「理由はもちろん、貴方の浮気と人のお金を勝手に使い続けた罪が原因ですよ。お隣の可愛く可憐なご令嬢も逃れられると思わないでくださいね」
「そ、そんな!?」
「い、いくらなんでもあんまりだわ!」
「今更、もう遅い………ということですよ」
「「う、うわあああああぁぁぁぁぁ!」」
この後、ガソマとノウヴァの絶望が響いたという。




