9.完全帰国
ノーザンへの留学をやめてディアマスに帰ることにした。
ノーザン軍の医療班のアルバイトをしていても意味がない。
オルフェ様の推し活動をしたくても、ほとんど会えない。
それを考えると、ディアマスにいてゲームの知識を活かしながらオルフェ様の役に立つ方法を探したほうがいいのではないかと思った。
「留学を終了にします。ディアマスに帰国します」
そう伝えると、王宮の人も医療班の人も推し仲間も残念がってくれた。
「どうして?」
「仕事をさせてもらえなくても、留学できるのよね?」
「生活だって面倒をみてもらえるじゃない」
「困っているわけじゃないのに、どうして留学をやめるの?」
「いろいろ考えた結果よ」
確かに留学を続けようと思えばできるけれど、自立しているわけじゃない。
アルード様、ノーザン王家、コランダム公爵家の慈悲にすがっているだけの状態が嫌だった。
それは楽で得な方法に思えるけれど、他人に強制帰国の決定権を握られているのと同じ。
すがった慈悲が大きいほど、帰国後に支払う代償も大きくなると思った。
「魔法学院を卒業したら、自立したいって思っていたしね」
自費留学であれば、自分が望む限りずっとノーザンにいることができそう。
アルード様の婚約者候補ではなくなったので、就職してお金を稼ぎたい。
ノーザンで就職先を探しても固定給が低くて貧乏暮らしになるのは目に見えているため、まずはディアマスで就職して貯金を作ろうと思った。
「オルフェ様にも大変お世話になりました。本当にありがとうございました!」
最初はアルード様の婚約者候補だったのに、留学を受け入れてくれた。
オルフェ様の口添えがなければ、ディアマス国王は絶対に許可してくれなかったと思う。
「ノーザンに来たくなったらまた来なさい。氷竜討伐の協力者はいつでも歓迎です」
オルフェ様がにっこり笑った。
変わらない……ノーザンに行きたいと言った時と。
オルフェ様は私の気持ちを知っている。
笑顔を浮かべ、ノーザンに来るための支援をしてくれた。
だけど、それは私のためじゃない。
婚約者候補を減らしたいアルード様に恩を売るため。
人手が足りない氷竜討伐の協力者として王宮に下宿させるだけならいいというだけだった。
結局、オルフェ様は私のことをノーザンのために利用できる者として見ているだけ。
いずれ恋人や結婚相手になりそうな女性として見てくれているわけでも、特別な好意を持ってくれているわけではないのだと思った。
仕方ないじゃない……役に立ってないし。
医療班のアルバイトをしていた時の私が、ノーザンから見た評価をあらわしている。
唯一喜んでくれたのは、ヴァリアス様とアルード様が魔法武器の試し切りの場所としてノーザンに来るための助力をしただけ。
魔法武器を作ったのはルクレシア。
オルフェ様はルクレシアに何度も求婚するほどだったので、本当に好きだったのだと思う。
試し切りのことだって、私よりもルクレシアの好感度が上がっているに違いない。
闇落ちルートもあるから気を付けないとね……。
きっかけになりやすいのは嫉妬や憎悪。
ルクレシアへの思慕が強すぎると、オルフェ様が闇落ちしてしまうかもしれない。
アルード様からルクレシアを奪おうとするシナリオになってしまうかもしれないので、絶対にそれは阻止したかった。
だから、オルフェ様にルクレシアを近づけたくない。
ルクレシアだってオルフェ様に求婚されるのは困るし、ルクレシアを心底愛しているアルード様も私と同じように思っているはず。
私には親友カップルを守ると同時にディアマスとノーザンの友好を守る使命もあるってわけよ!
「本当にお世話になりました。ノーザンは寒いですけれど、温かい心を持つ人々がたくさんいます。私にとっては第二の故郷なので、いつかまた来たいと思います! ありがとうございました!」
ノーザン国王陛下や王太子殿下などのお偉方にも挨拶をして、私は一人国境へ向かった。
移動方法は一般のそれ。
普通の乗り合い馬車と列車を使って国境に向かい、駅からは乗り合い馬車で国境に向かう。
国境を越えるとディアマス。
乗り合い馬車で駅に向かい、列車で王都を目指す。
「オルフェ様の配慮で国境まで飛行馬車で送り迎えしてもらっていたのって、ものすごく贅沢なことだったのね……」
ノーザンには浮遊魔法や飛行魔法の使い手がほとんどいないのもあって、飛行馬車は普及していない。
今になって、どれほど自分が恵まれていたのかに気づいた。
車窓から見える景色は北方のディアマス。
やはり寒い地方ではあるけれど、ノーザンとは全然違う。
祖国に帰って来たというのに寂しい気持ちでいっぱいだった。
「オルフェ様……」
やっぱり好き。オルフェ様のことが。
今度は就職して、お金を溜めて、自費でノーザンへ行くことを決心した。




