43.本音の答え
ノーザンの王都に戻った。
全員、オルフェ様の招待で王城に泊まることになった。
私とホルンは話し合い、魔物討伐のペアを解消することで合意した。
でも、条件がある。
それは友人になること。
「友人なら大歓迎よ! いつでもディアマスに遊びに来て! ハイランドかノーザンにいるかもしれないけれどね」
「嬉しい。珍しいものを手に入れたらアヤナに見せに行くよ」
レアアイテムとかレアカードとかよね!
もちろん、この世界はゲームと同じようで違う。
でも、きっとホルンなら素敵なものを見せに来てくれる。
欲しいと言えばくれるかも……?
大いに期待したいというのが本音だった。
「素敵な恋人を手に入れて自慢しに来てもいいのよ?」
「アヤナこそ素敵な恋人を手に入れないと」
ホルンが微笑む。
「オルフェ様がアヤナのことを本気で考えてくれることを願っている。そのために俺も本気を出した。吟遊詩人は恋のキューピッド役もしないとだから」
まさか……!!!
「じゃあ、私を無理やり遺跡に連れて行ったのって……」
「アヤナを探しもしないようなら問題外だ。俺に貸してくれた身代わりのペンダントには方角を把握できる術式が描かれている。ノーザンの兵士が行方不明になっても捜索できるようになっている備品だ。自分の周囲をうろついているだけの邪魔な女性だと思っていたら、ペンダントのことは気づかないふりをするよ」
そんな術式があのペンダントに!
「俺は本音を伝えた。だから、オルフェ様もきっと本音で答えてくれる。それを聞いてアヤナも決めてほしい。オルフェ様のファンとして一生応援するのは問題ない。でも、結婚できないなら、他の人と結婚して幸せになったほうがいいよ。オルフェ様のために一生尽くすだけの人生を選ぶ必要なんてない!」
「ホルンの考えはわかったわ。友人として心から心配してくれているってことがね。でも、私の人生だから私に決めさせて!」
「わかっている。友人だからアヤナの意見を尊重する」
ホルンは本当に良い人だった。
なぜあんな無謀なことをしたのかもわかった。
全部、私のためだったなんて……!!!
確かに泣けるほど尽くしてくれるキャラ。間違いないと思った。
「絶対にホルンの国には行かないけれど、ホルンとは一生友人でいたいわ!」
抑えられない感情が溢れた。
涙が勝手に落ちてしまう。
「俺もアヤナと一生友人でいたい。大好きだし、励ましたい。力になりたいよ」
ホルンが私を抱きしめた。
「大丈夫。アヤナの願いは叶うよ」
「ごめんね……ホルンのことを誤解していたわ。相棒なのにちゃんとわかっていなかった」
「謝るのは俺のほうだ。勝手なことをしてごめん。でも、これも思い出になる。俺とアヤナが一生の友人になったきっかけとして」
「そうね」
ゲームの知識もシナリオも関係ない。
これは私とホルンの大事な思い出。
さすがホルンね。一生ものの宝物をもらっちゃったわ!!!
間違いなく最高に尽くしてくれる友人だった。
夜。
夕食会が終わったあと、オルフェ様に話があると言われた。
「今夜は猛吹雪です」
午後から天気が崩れていった。
「外の様子を見ながら話しませんか?」
「わかりました」
連れていかれたのは豪華な部屋。
窓からは王都の夜景、強い風と雪がよくわかる様子が見えた。
「ノーザンは北国。その寒さは他国を圧倒しています。永久凍土の極寒地には魔力を多く含む大気が集まり、その大気が南下することで季節に関係なく猛吹雪になってしまいます」
「そうですね」
「他の国の者にとって、ノーザンの気候はあまりにも厳しい。命を凍らせようとする寒さを嫌がるのは当然です。ですが、珍しくもあります。暖かい国に住む人々から見ると、ノーザンはおとぎ話に出て来るような雪と氷に包まれた国。猛吹雪を恐ろしいとは感じません。すごいと驚き、自然の力に感動する者が多くいます」
ジュリアもそう。猛吹雪に感動していた。
ノーザンで一番の思い出が猛吹雪だと言うぐらいに。
「一日だけならそんな日もあるというだけです。安全で快適な建物内で過ごせばいいでしょう。ですが、冬はほとんどの日が猛吹雪です。外には出にくいので、人々は知恵を巡らせ工夫をこらし、自然と共存してきました」
「そうですね」
「アヤナは猛吹雪の日をどう思いますか?」
「大好きです」
私の気持ちは同じ。変わっていない。
「以前もそう言いました」
「そうですね。覚えています」
オルフェ様は窓の外を見つめたまま。
「嬉しかったです。ノーザンの気候や人々を受け入れていると感じました。私が王城にいるので嬉しいと言ったことも覚えています」
ドキッとした。
それはオルフェ様が好きだということをあらわすことでもあったから。
「私も猛吹雪の日が好きです。ですが、アヤナとは理由が違います。猛吹雪の日は魔物の被害が最も出ない日だからです」
猛吹雪の日は誰も出歩かない。だからこそ、魔物と遭遇するような機会がない。
魔物も猛吹雪の日は大人しい。
氷竜も猛烈な吹雪の中を飛ぼうとはしない。風や雪が収まるまで待っている。
「安心できます。今日は魔物の被害が出ないだろうと。そして、魔物を討伐するために出かけなくてもいいと。私の務めは魔物討伐に行くことですが、魔物討伐が好きではありません」
オルフェ様は生まれた時から魔力が多く、そのせいで体調を崩しやすかった。
魔力を操る訓練がストレスになり、そのせいでも体調を崩していた。
魔力もある。才能もある。でも、体が弱い。
第二王子としての務めが果たしていけるのかと不安に思われていた。
でも、氷魔法を使えるようになると、魔力を消費することで体調が崩れにくくなった。
だったら魔法を使うほうがいいとなり、子どものうちから魔物討伐に行かされたことを教えてくれた。
「ノーザンには強くて危険な魔物が多くいます。第二王子であれば魔物と戦わなければならないと教えられ、強制的に魔物討伐へ連れて行かれました」
魔法は好き。でも、魔物討伐は嫌い。怖い。死にたくない。
だけど、自分がどう思うかは関係ない。
ひたすら魔物と戦うことだけを強要されるだけの日々が続き、それ以外の選択は許されなかった。
「多くの兵が魔物と戦って死ぬ光景を見続けてきました。私を庇って命を失った者の姿も。残酷な現実と第二王子の役目は私を絶望させました。自分は死ぬために生きている。兄上のように死なないように王城にいることはできないのだと。あまりにも苦しくて、考えることをやめました」
人々はそれを王子としての務めを受け入れ、覚悟を決めたと讃えた。
でも、オルフェ様から見れば違う。
あまりにも冷たい世界のせいで感覚が麻痺した。心が凍りついただけだった。
「ひたすら槍を手にして氷竜に向かい、倒してきました。ノーザン国民が一人でも多く生き延びることを願って。だというのに、氷竜は減るどころか増えています。竜は長命だけに子どもができにくい種族のはずだというのに。おかしいではありませんか」
「そうですね」
「調べたところ、ノーザンの氷竜は変化していました。飛竜の系統が混じった氷竜になっています。そのせいで卵の数が増えてしまい、多くの子どもが早く成長するようになっていました」
永久凍土の極寒地にいる氷竜については調査できていないためにわからない。
でも、ノーザンに住む氷竜は飛竜の系統が混じったタイプ。
生息数が増えるほど討伐率が下がってしまい、ノーザン中に生息地ができてしまった。
ノーザンにいるすべての氷竜を倒すことができたとしても、終わりとは限らない。
永久凍土の極寒地に住む氷竜がいる。その氷竜がノーザンに飛んで来て移り住むかもしれない。
「ノーザンは氷竜の呪いにかかっています」
オルフェ様はようやく私のほうを見た。
「アヤナはディアマスの者。氷竜の呪いに苦しむ必要はありません。これまでずっと助けてくれていたことに心から感謝します。ですが、アヤナを心から愛する者たちは、アヤナが危険な地にいることを望みません。私のために貴重な人生の時間を使ってしまうことも。ディアマスに帰りなさい。それが私の答えです」
オルフェ様は本音の答えを出してくれた。




