42.対決
「何でこんなことをしたのよ?」
「アヤナが好きだから」
「こんなことをしたら嫌われちゃうって思わないわけ?」
「今はそうかもしれない。でも、俺の国に来てくれたら一生をかけて償う。許してくれなくてもいい。大事にする。アヤナが望まないことかもしれないけれど、諦めてくれるかもしれない。その可能性にかけるのもいい」
「間違っているわ! そもそもホルンは何か事情があって国を出たはずでしょう? 戻ってもいいの?」
実を言うと、ホルンルートは途中からわからない。
ホルンの国に行ってしまうと絶対に戻れないと聞き、戻れないところから進むのを避けていた。
だから、ホルンルートに入ったあとの詳しいシナリオは知らなかった。
「花嫁を探すためだった」
ホルンの祖国は女性の出生率が少ない。
祖国にいる女性は長男と結婚したがるため、次男以降は自分の花嫁を他の国へ行って探す風習がある。
ホルンは特殊な複数属性使いということもあって、相性の良い属性の女性を見つけるのがとても難しい。
そこで祖国から遠く離れ、あちこちの国を転々としていることを話した。
「俺の祖国は外から連れて来た人をとても大事にする。だから、最初は短期滞在のつもりだった者もすぐに気持ちが変わる。一生この国にいたいと思うようになる。そうやってずっと俺の祖国は続いている。アヤナも最初はつらいかもしれない。でも、時間が経てば幸せだと思えるようになる」
「絶対に絶対に絶対に嫌! 幸せになれるわけがないわ!」
「試してみればいいよ。一年間、アヤナの気持ちが変わらなかったらディアマスに帰してあげてもいい」
絶対に信用しない。
ジ・エンドになっちゃうわ!
「騙されないわ! さすがに食料もないし、どこかで必要品を調達するはず。その時に逃げるわ!」
「それも試してみるといい。俺は世界中を旅する吟遊詩人だ。アヤナよりも世界を知っている」
「私だってディアマスで生まれたけれど、ノーザンやハイランドの知識があるわ! 絶対にホルンを出し抜いてやるから!」
ゲームの知識もあるしね!
「アヤナはとても賢い。俺の知らないことをたくさん知っている。それだけじゃない。俺に特別な魔法をかけてくれた」
「特別な魔法?」
「本当の吟遊詩人になる魔法」
なるほど。
「もう効果は切れたわ。だって、今のホルンは吟遊詩人じゃない。私を無理やり連れ出した酷い人だわ!」
「来た」
ホルンが見据える方向を見ると、ソリが見えた。
ぐんぐん近づいている。
「オルフェ様!」
それとネイサン。
どうやら、昨日のペアで私を捜索してくれたらしい。
「ここよ!」
「聞こえない。アヤナの声だけ遮音にしている」
最悪。
「でも、絶対にわかっているわ! こっちに向かって来るし!」
オルフェ様とネイサンが遺跡まで来た。
だけど、近づいて来るのはオルフェ様だけ。
ホルンは相手を眠らせることができる。
それを警戒しているからだと思った。
「ホルン、アヤナを解放してください」
オルフェ様が言った。
「もっと一緒にいたいと思うのはわかります。ですが、アヤナはディアマスに帰りたいと思っています」
「俺はアヤナのためにここに来ただけだ」
「それは違います。アヤナは自分専用の杖を持って行きませんでした。このような場所に来るとわかっていれば、絶対に持って行くはずです。置いていったのはホルンがアヤナを無理やり連れ出したからです」
「オルフェ様は赤の他人だ。俺とアヤナは大事な話をしないといけない。放っておいてほしい」
「できません」
オルフェ様はきっぱりと答えた。
「どうしてもアヤナを解放しないと言うのであれば、手段を選びません。ホルンを氷漬けにしてでもアヤナを解放してもらいます」
「オルフェ様は狡い!」
ホルンはオルフェ様を見つめた。
「なぜなら、アヤナの好意を利用しているからだ! 皆、アヤナがオルフェ様を好きだと知っている。オルフェ様に認められたくて、ノーザンのためにできることを探して頑張っていることも。アヤナの人生だ。どうするかは自由だと思うかもしれない。でも、このままではアヤナはオルフェ様に利用されるだけで終わってしまう!」
ホルンの表情は険しく、その瞳は真剣。
オルフェ様を憎んでいるかのように見えた。
「俺は見過ごせない! アヤナは冷静じゃない。恋は盲目状態だ。だから、目を覚まさないといけない。望みのない相手に尽くす必要もなければ、そのために一生を使い果たしてはいけない。そう教えたいだけだ!」
「それはホルンのエゴです」
オルフェ様の口調は冷たかった。
「ホルンの考えを正しいと思う者もいるでしょう。ですが、アヤナの意志ではありません。二人で話し合うのは構いません。ですが、このような場所に連れ出して話し合うべきではありません。脅すようなものではありませんか。一緒に戻りなさい。アヤナも、ホルンも。村や王都で話し合えばいいだけです」
「やっぱりオルフェ様は狡い」
ホルンは表情を歪ませた。
「普通の場所だったらアヤナは拒否する。逃げる。説得なんかできない。だから、ここに連れて来た。それをわかっていて戻れというのは、オルフェ様に都合がいいからだ!」
「では、私と一対一の勝負を。魔法武器は使用してもいいことにしますが、魔法はなしです。勝った方がアヤナを保護します。どうですか?」
「わかった」
ホルンが私を見つめる。
「アヤナは何も言わないでいい。遮音しているから意味がない。黙って見ていればいいよ。オルフェ様がアヤナのために戦ってくれるみたいだから」
どうしてこんなことに……。
オルフェ様とホルンが戦い始めた。
オルフェ様が持つのは私が贈った槍。
だけど、伸ばしていない。短いまま。
その理由はすぐにわかった。
オルフェ様は魔力によって伸縮することを活用してホルンを攻撃していた。
ホルンの武器は短剣。
近くに寄らないといけないのに、近づけない。
槍は長いので攻撃の届く範囲が遠くまであるけれど、その攻撃をかわして間合いを詰められると攻撃しにくくなる。
だけど、オルフェ様の槍は伸縮させることができるので、ホルンの位置に合わせて攻撃しやすい長さに調整できる。
そのせいでホルンは短剣による攻撃が届く範囲まで近づけない。
仕方がないとばかりにホルンが距離を取った。
オルフェ様が槍を最も長く伸ばす。
それをホルンが交わした瞬間だった。
オルフェ様の動きが不自然に止まった。
「楽器だわ!」
魔法は禁止。でも、楽器は禁止になっていない。
抜け道の方法だった。
「オルフェ様!」
固まったかのように動かないオルフェ様にホルンが近づく。
もうすぐ短剣が届きそうだと思った瞬間、ホルンは短剣を投げた。
それはオルフェ様が動けるようになっているのを悟ったから。
このまま近づいたら短くした槍の反撃を食らう。
それから逃げるためには自分以外に槍を使わせる必要があるため、短剣を投げて攻撃対象を二つにした。
オルフェ様は縮めた槍で短剣を弾き飛ばし、再度ホルンにめがけて槍を伸ばした。
ホルンは下がるけれど、槍は素早く伸びていく。逃げきれない。
「ダメ!」
刺されてしまう!
そう思ったけれど、穂先は出なかった。
「俺の負けだ」
ホルンが言った。
「穂先を出されていたら刺さっていた」
「アヤナにとってホルンは魔物討伐のペアを組んだ大切な相手です。傷つけたくはありません。話し合ってください」
「わかった。でも、オルフェ様もアヤナと話し合ってほしい。このままアヤナを利用するのは卑怯だ。ノーザンの王子としてふさわしい誠実さで答えを出すべきだ」
「わかりました。私もアヤナと話し合います」
そのあと、全員がソリに乗って戻ることになった。
操縦はネイサン。
「スピードを出し過ぎよ!」
風使いでもあるネイサンはスピード狂だった。
「早く戻ったほうが安心するだろう? ルクレシアが心配で泣きそうな顔をしていた。アルード様に怒られるのを覚悟しろ!」
「なんで私が怒られるのよ! ホルンが悪いだけじゃないの!」
「結界を張って寝なかった。そうすればこんなことにはならなかった」
悔しいけれど、反論できない。
「でもまあ、アヤナには良い経験になっただろう? 女性一人は危ない。何かと気をつけないとダメだ」
「ネイサンが私を女性だと認識してくれていたのもわかったわ」
「当たり前だろう!」
軽口をたたき合う。
「アヤナはネイサンとかなり親しいみたいだね?」
ホルンが尋ねた。
「魔法学院で対戦用のペアを組んでいたのよ! チームも一緒だったしね!」
「最高に楽しかった! アヤナは俺の戦友だ!」
一生色褪せない思い出。
戦友という言葉に私は大満足の笑みを浮かべた。




