41.ララバイ
村に帰ると、その夜はディアマスから来た客人を歓迎する宴が開かれた。
「九十九頭?」
「一人で?」
「たった一日で?」
「惜しい! あと一頭だった!」
「大台目前だったな!」
村人たちはアルード様の記録に驚き、すごい勇者だと褒め称えた。
アルード様としては八十九頭でよかったけれど、見つけた氷竜の周囲には何頭もいたので全部片づけたらそうなった。
「帰りに遭遇するかもしれないと思ったが、安全だった」
「手前の方には氷竜がいません。ですが、奥の方にはまだいます。鱗や脂を取りに行くかどうかは任意ですが、気をつけるように」
目的を達したので、私とホルンは村を去ることも話した。
なので、今夜の宴はお別れ会でもある。
「聖女様、本当にありがとうございました!」
「聖女様のおかげで何もかも助かりました!」
「アヤナが聖女?」
「いつの間に」
「ノーザンで大出世したらしい」
「アヤナらしいです」
友人たちがニヤニヤしているので、私もニヤニヤで返す。
「これでも結構評判が良いってことよ!」
「みたいだな」
「光魔法は愛の魔法だからな」
「そうだね」
「アヤナが光魔法の本質をわかってきた証拠です」
「愛なんかありまくりよ! オルフェ様への愛がね!」
私がオルフェ様を好きなのは誰もが知っているので隠さない。
「でも、オルフェ様がノーザンを愛する気持ちには負けているわ。もっと頑張らないとね!」
「アヤナはとても頑張っています。心から感謝しています」
オルフェ様がそう言ってほほ笑んでくれる。
嬉しい。好感度をもっともっと上げたい。
「まだまだです! 上限突破しますから!」
「なんだかアヤナ、元気だね?」
「そうね」
「もしかして……飲んだ?」
「お酒?」
「ジュースしか飲んでいないわよ? 楽しんでいるだけよ!」
ホルンが村人に配っていたジュースを一つもらっただけ。
他は飲んでいない。
「本当?」
「大丈夫?」
ルクレシアも心配してくれたけれど、本当にお酒は飲んでいない。
「そんなに言うなら、お水にするから平気」
「そうしたほうがいいわね」
「ここでは雪水だけどね!」
「ノーザンはどこに行っても氷と雪だよね」
「水には困らないな」
「ホルン、何か演奏してよ! 吟遊詩人でしょう? 盛り上げてよ!」
「わかった」
ホルンが楽しい曲を演奏してくれる。
村の人たちも楽器を持ってきた。
手拍子をしたり、それに合わせて村の踊りを披露してくれたり。
楽しい。こうやって過ごせることが。
氷竜のせいで不安な毎日を送っていた人々が笑顔になっていることが嬉しくて仕方がない。
私の目的は遺跡に行くためだったけれど、それ以上の意味があった。
ここへ来て良かったわ……。
心からそう思える夜になった。
「そろそろ寝るわ」
明日は王都に帰らないといけないので、あまり夜更かしはできない。
「魔力を回復しないとだから。みんなもそうでしょう?」
「そうですね」
「飛行馬車が特大サイズだからな」
「特大どころじゃないよ」
「巨大サイズです」
お開きになった。
村人の一部が残って、後片付けをすることになったけれど、私は村長の家の客間に戻った。
持ち物と言えるようなものはほぼない。自分専用の杖とちょっとしたものを入れる肩掛けかばんだけ。
「長いようであっという間だったわ」
ベッドに乗ると、そのまま眠りについた。
「へっくしょん!」
寒くて目が覚めた。
「やば……風邪をひいちゃう」
防御魔法が切れたのだと思った。
でも、違う。
私はベッドの上にいたはずなのに、見えるのは外の景色だった。
「えっ!」
慌てて起き上がるとソリの上。
操縦席を見ると、楽器を奏でるホルンがいた。
風の音で聞こえにくいけれど、詠唱中ということ。
「おやすみ」
何が起きたのかわかった。
私は眠っている間にホルンに連れ出された。
でも、逃げ出せない。
なぜなら、ホルンは私を眠らせることができるから。
「ダメ……」
抗えない。
まぶたが閉じていく。
私は強い眠気に負けてしまった。
目が覚めた。
空はすっかり明るくなっていた。
「どういうつもり?」
睨む相手はホルン。
「まさか私をホルンの国まで連れて行くつもり?」
「そうだとしたらどうする?」
「逃げるわ!」
きっぱり。
「どんなにホルンの国が遠いところでも、絶対にディアマスに戻るわ!」
「ディアマス? ノーザンではなくて?」
「私の祖国はディアマスよ!」
「そうだけど……オルフェ様が好きだよね?」
「だから?」
わかっていないと思った。
「私とオルフェ様は赤の他人なのよ? 私の後見をしてくれているのはディアマスのコランダム公爵家! ルクレシアの実家ってことよ! 私の部屋があるんだから、そこに戻るに決まっているでしょう!」
「そうか、そうだね」
「ホルンは本当にわかっていないわ! こんなことして、大変なことになるわよ?」
「どうして?」
「魔物討伐のペアを解消したのに、私とホルンだけいなかったらおかしいわ! 何かあったと思って探すわよ!」
「そうかもしれない。でも、見つけることができるかな?」
「ルクレシアたちを甘く見ないで! 絶対に見つけてくれるわ!」
「検討違いの場所を探しているかもしれない」
そんな気はする。
なぜなら、私とホルンがいるのは昨日行った古代の遺跡だった。
氷竜の生息地の中にある古代の遺跡、しかも昨日行った場所にまた行くわけがないと普通は思う。
「だから、アヤナも諦めて無抵抗なんだよね? 魔力がもったいないから」
「諦めてはいないわよ? いつ逃げようか考えているだけ」
「俺がいないと逃げられない。途中で死ぬだけだ」
深いため息をついた。
「そうかもね。でも、安全かもしれないわよ? 昨日たくさん氷竜を倒したわ」
「その可能性はある。でも、相当な距離だ。アヤナは浮遊魔法も移動魔法も飛行魔法も使えない。村に着くまでに歩き疲れて倒れてしまう。それがわかっているから俺と一緒にいる。村とか町とか、もっと逃げやすいところで逃げようと考えている」
ホルンはちゃんと考えていた。
「でも、俺はアヤナを眠らせることができる。だから、逃げられない。俺から離れたら死んでしまいそうな場所で休めばいいだけだ。アヤナは俺から離れたくても離れることができない」
ホルンは攻略キャラのはずなのに、今は私のほうが攻略されてしまっていた。




