40.みんなのおかげ
ホルンは良い人。素直にそう思う。
だけど、私の選択はとっくに決まっていた。
「私はオルフェ様が好き。だから、オルフェ様が守るノーザンを私も守りたいの。オルフェ様に万が一のことがあれば、私がオルフェ様の意志を継ぐつもりよ。だから、ホルンとは一緒に行けない。そもそも音楽を奏でるなんてできないしね!」
私はにやりとした。
猫かぶりはお互い様。私は聖女でもなければ礼儀正しい光の魔法使いでもない。
生意気で図々しい一般庶民の女性というのが本当の姿。
「吟遊詩人は一人でないとダメよ。女性連れじゃただのペアかカップルじゃない! 本物の吟遊詩人になれないわ!」
「本物になれなくてもいい。俺は吟遊詩人じゃない。本当は」
「ストップ!」
大声で叫んだ。
「聞きたくないわ。ホルンのことは魔物討伐のペア、相棒だと思っているけれど、それ以上の感情は一切ないの。でも、ホルンはそれ以上を求めていそうだから別れるわ。村に帰ったらペアは解消よ。新しい相手を探して」
「そんな……酷いよ。アヤナのためにノーザンまで来たのに」
「勝手について来ただけでしょう? 私が頼んだわけではないわ! 恩着せがましく言わないでよね!」
私は結界を消すとルクレシアのところへ向かった。
ここにいるキャラの中で最も安全。
他の攻略対象者を頼って迷惑をかけたくない。
「勉強したいのはわかるけれど、トラブルはごめんだわ。ほどほどにね。特にイケメンは要注意。アルード様を心配させないで。そんなアルード様を見たらヴァリウス様だって心配してしまうわよ?」
「わかったわ」
ルクレシアは手帳を閉じた。
「実はかなり怒っているの?」
「そうね」
「ホルンにも?」
「そうよ。村に戻ったらペアを解消するわ」
「ホルンはそれでいいって?」
「酷いって。でも、仕方がないでしょう? ホルンの国へは行きたくないからはっきり断ったわ。当たり前でしょう?」
「そうね。アヤナにとっては当然だわ。ずっとオルフェ様一筋だもの」
わかってくれて嬉しい。
ゲームのことを知っているルクレシアだけが、いかに私が本気の本気であるかを一番理解してくれている。
「皆のところへ戻りましょう」
「そうね」
遺跡の用件は終わり。村に戻ることを伝えた。
「もう終わりなのか?」
アルード様は驚いたようだった。
「じっくり見ていけばいい。時間はある」
「大事なのは書き写したから。もしかして、ヴァリウス様の記録に届いていないの?」
「八十五だ」
「この近くにいるのを四頭倒してくればいいじゃない」
「そうだな」
アルード様は魔法をかけると行ってしまった。
「なんだかんだいって、記録を抜かしたかったのねえ」
「当然です」
ベルサス様が言った。
「アルード様の剣は特別な剣になりました」
「ルクレシアが鍛えてくれた剣だからな」
「すぐに記録を破る者がいるとしても、一度は一位になりたいだろう」
「愛の証明だよね」
さすが友人たち。
アルード様の気持ちをわかっていた。
「羨ましいわ。私もオルフェ様の恋人になりたいのに」
「恋人? 結婚したいでしょう?」
「身分が低いし」
「コランダムの養女になればいいじゃない」
「コランダム公爵夫妻次第ね。まあ、とりあえずはもっとオルフェ様の役に立てるようにならないと認めてもらえないわ。オルフェ様にも、ノーザン国王にも、ノーザン国民にもね!」
「あっ! オルフェ様、槍をください!」
ルクレシアが思い出した。
「アヤナがくれた槍ですか?」
「そうです。ちょっと刻んでみたいものがあって」
オルフェ様の槍にルクレシアは古代の紋章を刻んだ。
「アヤナ、どう?」
ルクレシアに見せられたものは私の記憶にあるものと似ているけれど、ちょっと違う。
私は移動して槍を伸ばそうとした。でも、伸びない。
「紋章のせいで伸びなくなってしまったわ! 氷属性の武器になっているからかも」
「私が伸ばします」
オルフェ様が全部伸ばしてくれた。
「ルクレシア、あとから出る部分にも刻んだ方がいいと思うわ。じゃないと最初のところだけが氷になりそう」
「ああ、そうかもね!」
でも、これだけじゃダメ。紋章と紋章の間をつなぐ魔法文字があった気がする。
「紋章と紋章をつなげるためにさっきの文章を刻んでみてよ。氷の神を称えるやつ。そうすれば魔力が流れていくわ」
「直線でもいい?」
「ダメ。魔法文字にして」
「ええ……これ、刻むのすごく大変なのに」
文句を言いつつ、ルクレシアは古代紋章をつなぐために古代魔法文字の文章を刻んでくれた。
「疲れた……」
ルクレシアは魔法をたくさん使った時のようにぐったりしていた。
「魔法文字を刻むのって疲れるの?」
「この槍が特殊なのよ。すごく刻みにくいの。刻む道具がないから魔力を一点集中するようにして強引に削ったのよ」
「刻む道具を使わずに刻めることが驚きです」
オルフェ様が言った。
「普通の者は刻めません。この槍は氷竜の鱗を使っているので、魔法耐性が高いのです」
「そうだったのですね。通りできつかったはずだわ!」
ルクレシアに睨まれた。
「もう終わりよ! これ以上は無理!」
「紋章や魔法文字が光らなかったら使えないわ」
「ここまで苦労したのにやり直しになったら最悪だわ!」
「祈るしかないわね。一緒に祈りましょう」
オルフェ様に槍を渡し、氷属性の魔法槍にできるかどうかを試してもらった。
「氷属性にできます。魔法槍として使用できそうです」
「やったわ!」
「大成功ね!」
「ですが、武器としての強度が足りるかわかりません」
たぶん、大丈夫。
ご都合主義でそう思いたい。
「魔法剣にするのは本当に必要な時だけにすればいい気がします。ここに来るまでは普通の槍でしたが大丈夫そうでした」
「そうですね」
「魔法槍だから、ルクレシア」
「わかったわ。でも、細かいことは勘弁して。疲れてしまったわ」
「心から感謝します。素晴らしい槍をもらいました。氷竜を倒す時に使います」
オルフェ様が私のほうを見た。
「アヤナのおかげです」
報われた。
心の中に広がるのは幸せな気持ち。
「オルフェ様にそう言っていただけて嬉しいです!」
私自身が役に立ちたいけれど、他の事でもいい。
オルフェ様の役に立てるなら。
そうやって好感度を積み上げる。コツコツと。
いつか夢が叶うように。
今はまだ希望を感じていられると思った。
「アヤナ、古代の魔法文字や紋章のためにここへ来たのですか?」
「実はそうです」
隠しても仕方がない。
「無理かなって思ったんですけれど、ここにいる全員の協力で来ることができました。だから、全員にありがとう!!!」
心を込めて頭を下げた。
「いいのよ。友人でしょう? 力になれて良かったわ」
ルクレシアが微笑んだ。
「友人ではない人もいるけれど。オルフェ様とか」
「オルフェ様、ありがとうございました!」
「感謝するのは私のほうです」
「それから、ホルンも」
私は少し離れた場所でポツンとしているホルンを見つめた。
「正直、ハイランドの魔物討伐ギルドでちょっと知り合っただけだったのに、ここまで一緒してくれるとは思わなかったわ。本当にありがとう」
「……アヤナとはペアだから。魔物討伐の。だからだよ」
「そうね。組めて良かったわ。きっといい思い出になるわ。だから、他の国に行っても元気でね!」
今回の目的を達成したことで、村に戻ったらホルンとのペアは解消することを話した。
「ホルンは世界中を旅する吟遊詩人だから。足止めしちゃって悪かったわね。でも、助かったわ。本当にありがとう」
「本当の吟遊詩人について教えてくれたのはアヤナだ。そのお礼だよ」
「そうね!」
これでいい。
ホルンのルートは消滅だと思った。




