36.援軍
村の現状を確認したオルフェ様は帰っていった。
村で移住するかどうかの意見が分かれているため、どちらかに決めてほしい。移住する場合、国のほうで指定した移住場所であれば、軍が引っ越しを手伝ってくれるということだった。
「今の状況は悪くないが、アヤナ様とホルン様のおかげだからな」
「長期的には難しい」
「鱗を売った資金を移住先での再出発に使える」
「移住するなら今しかない」
飛竜の生息地が広がるにつれ、付近の村はなくなった。
私とホルンが作ったチャンスを無駄にしたくない、ということで村の意見がまとまった。
「では、全員で移住しよう」
「そのための準備を始めよう」
「そうだな」
移住に向けての準備が始まり、村長はもう一度全員で移住する決意をしたという内容の手紙を王城へ送った。
そして、五日後。
オルフェ様が来た。
ルクレシア、アルード様、ネイサン、カーライト様、ベルサス様、レアン様も一緒。
「援軍を連れてきました」
「アヤナ!」
ルクレシアが満面の笑みを浮かべて私を抱きしめた。
「会いたかったわ! ずっと連絡がないから心配していたのよ!」
「それで来てくれたの?」
「そうよ。氷竜ならストレス解消に火魔法を撃つにもいいでしょう? アルード様にお願いしたら、他にも魔物討伐に参加したがりそうな人を連れていくって」
それでこのメンバーなのね。
「氷竜の大規模生息地を攻略中なのよね? 全員で潰すわよ!」
遺跡の調査に来たのに、ルクレシアは忘れていそう。
「ルクレシア、第一の目的は遺跡の調査なのよ?」
「知っているわ。よく考えたらアヤナって魔法文字が酷いでしょう? メモを見せられても心配だから、私がメモをしたほうがいいと思ったのよ」
大正解! 言われるまで忘れていたわ!
「オルフェ様のおかげで遺跡の場所もわかったわ。王家で保管している古い地図にあったのよ」
「ありがとうございます!」
「個人のためではありません。ディアマスへの配慮です」
わかっている。でも、嬉しい。
「今日は移動日で魔力が減っているから、明日行きましょう?」
「わかったわ」
「王家所有の豪華な飛行馬車を見せてあげる。びっくりするわよ!」
確かにびっくりだった。
二階建ての長方形の家がそのまま飛ぶって感じ。
玄関室、居間、ベッドルーム、バスルーム、トイレ、キッチン、大型の収納室まで完備。
普通に住めちゃうわ!
「飛ばすには相当な魔力が必要なのよ。だから滅多に使われないの」
アルード様が友人たちを一緒させたのは、飛行馬車に必要な魔力を供給するためでもあることがわかった。
「ディアマスの偉大さを感じるわ……」
「そうでしょう? アルード様のおかげよ」
「大規模生息地の付近に宿泊するような場所がないと思った」
野営するとしても、ルクレシアのために快適な飛行馬車を使うことにしたわけね。
「愛されているわねえ」
「そうね。作戦会議をしましょう!」
遺跡の位置はわかっているので、遭遇する飛竜はとにかく倒す。
そのほうがノーザンのためになり、ディアマスのためにもなる。
「作戦は単純だ」
ソリを使って全員で移動。魔力を節約する。
遭遇した飛竜は各自好きに倒す。
私は必要に応じて支援系の魔法をかける。
「一応は基本のチームを考えている。私とルクレシア、オルフェとネイサン、ベルサスとカーライト、レアンとアヤナとホルンだ」
「私のところは三人チームなのね」
「そうだ。医療班兼ソリを守るチームだ」
「了解よ!」
翌日の天気は問題なし。
重量制限でレアンの負担がかからないように、浮遊魔法も活用することになった。
「レアン、頑張って!」
「大丈夫。大学の友人たちで一緒に出掛ける時と一緒だから」
それもあってソリの飛行管理はレアンになった。
「その時は馬なしの荷馬車だけどね。ソリは車輪がないだけだから」
「わかりやすいわ」
忘れ物がないかをチェックすることになった。
「アヤナに私とアルード様からの贈り物よ。アヤナのものにしていいわ」
ルクレシアはオルフェ様に渡す槍を持ってきていた。
「現地で刻めばいいでしょう?」
「そうね」
「でも、その前にオルフェ様に贈るか貸しつけて。そうすれば持たずに済むわ」
「えー!」
そんな急に言われても!
「実はこれと同じように伸縮する槍を全員に渡してあるの。氷竜を倒すのに便利そうでしょう? だから、皆が使う前に渡してほしいの!」
そんなー!と思ったけれど、確かにこの槍は便利だし、氷竜を槍で倒すのに丁度良い。
これがきっかけでノーザン軍の配備品になるかもしれないと思った。
「オルフェ様!」
アルード様と話しているオルフェ様に声をかけた。
「どうかしましたか?」
「実はその……贈り物があります」
私は警棒のように縮んでいる槍を差し出した。
「オルフェ様のために考えた特別な槍を贈ります。受け取ってください!」
「私のために?」
オルフェ様は槍を見てハッとした。
「アルード、これは」
「ルクレシアと相談してアヤナに与えた。アヤナはオルフェのために改良案を考え、ルクレシアに制作を依頼した」
「使い方を説明します!」
ちょっとだけ離れて、魔力を込めた。
ジャキン、ジャキン、ジャキンと槍が伸び、最後に穂先が出た。
「魔力で伸縮できます。持ち運びやすいようになっていて、安全性を高めるために穂先も最後に出す感じにしました」
魔力を引く感じにして短く戻すことも説明した。
「どうでしょうか? 氷竜に突き刺す槍が必要な時に使っていただけたらと思って。普段は護身用の警棒として腰に下げられます。剣より短いので邪魔になりにくいです」
「そうですね。ですが……いいのですか?」
オルフェ様が見たのはアルード様だった。
「これはアルードとルクレシアに贈ったものです」
「アヤナがオルフェに贈るための槍を探してほしいとルクレシアに頼んだ。ルクレシアが私に頼み、これならオルフェに贈る槍としてふさわしいと思った。王族用の品だ」
「そうですね」
オルフェ様が苦笑する。
「ディアマスの王族用だったのですが」
「ノーザン王族用でもいい」
「そうですね」
オルフェ様が槍を受け取った。
「ありがとうございます。アヤナとディアマスに感謝を」
「無理して使わなくていいです。腰に下げるだけでもいいですし、いざという時のお守りみたいなものです」
「わかります。ですが、使ってみたくなりました」
「ネイサンと組んでいるから使えるだろう。ネイサンも使う気だ。アヤナのアイディアは素晴らしい。全員に同じように伸縮する槍を装備させることにした」
「そうなのですね」
「世界に一本ではないかもしれない。だが、アヤナが最初に作らせた世界で初めての槍であるのは間違いない。氷竜用に良さそうであれば、ノーザン軍で配備すればいい」
「そうですね。ぜひ、試しに使ってみたいです」
出発時間になった。
「本当に全員が装備しているのね」
剣以外にも短くした状態の槍を装備していた。
「使って見たい」
ネイサンは使う気満々だった。
「段々と伸びるのがかっこいい! アヤナのアイディアだと聞いた。さすがだな!」
「まあね!」
「これがあれば私でも倒せそうです」
そう言ったのはベルサス様。
「口を氷で塞いで接近戦をすればいいだけです。人間は小さいので氷竜は危険を感じずに飛ぶ確率が低くなりそうです」
「踏まれないように気を付ける必要があります」
「先に口を封じ、足を凍らせながら近づきます。カーライトは飛ばないように囮をしてください」
「わかっている。任せろ!」
幼い頃から一緒している二人だけに連携は問題ない気がした。
「アルード様とルクレシアのペアはどうするの? アルード様だけで倒してしまいそうじゃない?」
「状況次第でアルード様とうまくやるわ」
この二人のペアについては魔法学院時代からだし問題なさそう。
「どのペアが一番多くの氷竜を倒せるかしらね?」
「それはやっぱりアルード様じゃない?」
「氷竜が多くいるかどうかだ」
「一体ずつしか来ない場合は順番にしましょうか」
オルフェ様とネイサンのペアが一番、ベルサス様とカーライト様のペアが二番、ルクレシアとアルード様のペアが三番。
四番は私、ホルン、レアン。
つまり、四体までは各チームで引き取って撃破。
それ以上来た場合はご自由にとなった。
「氷竜はとても強い危険な魔物なのに、このメンバーだと安心しちゃうわ」
「そうよね。でも、遺跡に行くのが目的でしょう? 倒すのが遅いペアは置いて行くわよ!」
強気なルクレシアは頼りになる。
良い方の悪役令嬢らしかった。




