35.新しい試み
新しい試みが始まった。
村の男性たちがホルンの倒した氷竜から鱗を取る。
途中で来るような氷竜はいないけれど、比較的近い場所にいるのはホルンが墜落させて倒した。
私も浄化魔法で回収作業を手伝う。
いざという時は私のところに集まって結界を張り、ホルンが戻って来るのを待てばいいことになっていたけれど、ずっと安全だった。
「ホルン様とアヤナ様のおかげで安全だ」
「氷竜をこんなに倒してくれた」
「しかも鱗まで手に入る」
「油も大量だ。おかげで、燃料切れの心配がなくなった」
「移住費用にしようと言っていたが、むしろこのまま住めそうな気もする」
「ホルン様とアヤナ様には村にずっといてほしい」
「そうだな」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。でも、こっちも目的があって来ているから」
私とホルンが村に来た理由を説明した。
氷竜の生息地内にある古代の遺跡に行って調べものをするためだと。
それまでここにいるかどうかはわからないけれど、当分は村に滞在しながら生息地の様子を見ることを伝えると、村中の人々が喜んでくれた。
「遺跡があるのは聞いたことがある」
「どの辺にあるのか知らないが」
「なくなってしまった村の人なら知っていたかもしれないが」
「生息地が広くなってしまったことを考えると、遠そうだ」
「探すとしても大変だ」
「そうなのよ。だから、ホルンが氷竜を倒しながら遺跡を探したり様子を見たりしているわけよ」
「ホルン様は本当にすごい。一流の狩人だ!」
「だが、吟遊詩人だ」
「世界で唯一無二の吟遊詩人だな!」
ホルンの評判は最高にいい。だから、ホルンも喜んでいる。
場末の酒場にいる売れない吟遊詩人の立場を脱したのは言わずもがな。
人々に慕われ、歓迎され、笑顔を与えている。
歌や音楽を通して愛、勇気、希望を感じさせることができる。
それが本当の吟遊詩人だとわかってくれたらいいなと思った。
「おい!」
「なんか来るぞ!」
全員が緊張して、空を見上げた。
「人だ!」
「飛行馬車のようだ!」
ぐんぐん近づいて来て、地上に降りた。
「我々はノーザン軍だ!」
「危害は加えない!」
「氷竜生息地の現状確認に来た!」
なるほどと思った。
「アヤナ!」
びっくりした。その声の主に。
「オルフェ様!」
最愛の人に会えちゃった!
「どうしてここに?」
「それは……事情がありまして」
オルフェ様への贈り物に必要な紋章を探すためとは言えない。
「オルフェ様こそどうして?」
「この生息地に最も近い村から移住の直訴状が出ていました」
現状確認をする順番になって村に行くと、吟遊人と聖女のおかげで今だけはなんとかなっている。
でも、吟遊詩人と聖女がいつまで滞在するかはわからない。
移住すべきかどうか村でも意見が分かれているという話を村長がオルフェ様にしたことがわかった。
「生息地のほうで氷竜を倒したり鱗などを回収していると聞いたので見にきました」
「そうでしたか」
「聖女というのはアヤナのことでしたか」
「すみません。ガラじゃないですよね」
「そんなことはありません。村中の病人と怪我人を無償で治療したと聞きました。村の人々にとって間違いなくアヤナは聖女です」
「ありがとうございます!」
オルフェ様にそう言ってもらえるのが何よりも嬉しい。
ニヤニヤしちゃう……。
「ところで、吟遊詩人は?」
「あー、遺跡探しです」
私とホルンは生息地の中にある遺跡に用事がある。
この辺の氷竜は倒してしまったので、見回りと同時に遺跡がどの辺にあるのか探しにいっていることを話した。
「その吟遊詩人とはどのような関係ですか? もしかして、恋人ですか?」
やっぱり聞かれると思った。
「違います! 私が好きなのはオルフェ様です! ホルンとは魔物討伐のペアを組んでいるだけです!」
ホルンは魔法を使えるけれど、強力な魔法は使えない。
魔物を倒す時に盾役が必要で、私が盾役をしたことから知り合ったことを話した。
「アヤナが盾役を?」
「魔法の盾を出しているだけで良かったので」
「なるほど」
「アヤナ!」
ホルンが戻って来た。
「馬車が見えてびっくりしたよ。オルフェ様がいるなんて思わなかった」
「紹介します。ホルンです。世界で唯一無二の吟遊詩人です!」
「ノーザン王国第二王子オルフェ・ノーザンです。世界で唯一無二の吟遊詩人に会えて嬉しく思います」
オルフェ様は正式な挨拶をした。
すると、すぐにホルンは片膝をついた。
「お目にかかれて光栄です。ホルンと申します」
さっと対応できてしまうのがかっこいい。
「確かに吟遊詩人のように見えます。どうやって氷竜を倒しているのですか?」
「空中で眠らせ、墜落死させます」
単純。でも、効果は抜群。
「空中で眠らす? 氷竜を?」
「はい」
「実際に見せてもらうことは可能ですか? いざという時は私が氷竜を倒します」
「わかりました」
失敗した時に備えて私も一緒に行くことになった。
「すごい方法です」
ホルンの方法を見たオルフェ様は驚いていた。
「確かにこれなら氷竜を倒せます」
「そうですよね」
だけど、欠点もある。
自分中心の範囲で魔法効果が発動。相手の耐性次第で効果時間が変わる。
あくまでも睡眠導入の効果で、完全に熟睡させる魔法ではない。
本当は緊急時に逃げる用であることを説明した。
「ホルンは吟遊詩人なので旅をしています。犯罪者や魔物に遭遇した場合は眠らせて逃げるらしいです。二、三分の間に逃げればいいので」
「なるほど。時間稼ぎ用ですか」
氷竜が落ちている途中で目を覚ますこともある。
だけど、落ちている体勢をうまく直せなくて墜落する。
落ちながらブレスを吐く時があるので注意だと話した。
「アヤナのおかげで素晴らしい人物と出会えました。このままずっとここにいて生息地を潰してほしいぐらいです」
「ですよね」
「ですが、アヤナが一緒ということであれば別です。危険なことをしています。どうしても遺跡に行かなくてはならないのですか?」
不味い。そっちに話が変わるとは思わなかった。
「そのために頑張っているので……」
「そうですか」
ホルンが戻って来た。
「そろそろ帰らないと」
村から来ている人は犬ゾリなので、村に戻るのに時間がかかる。
「オルフェ様、村人たちは犬ゾリで来ています。戻るのに時間がかかるので帰ります」
「わかりました」
「撤収するわよ!」
「わかった」
ホルンが大音量で曲を演奏し始める。
「あの曲が撤収の合図です。曲が終わるまでにソリに乗って集まることになっています」
「便利ですね。楽器が演奏できると」
「そうなのです!」
それがホルンの長所であり、吟遊詩人の長所だった。




