33.まさかの提案
翌日。
「お留守番?」
ホルンからまさかの提案があった。
「アヤナが一緒だと支援魔法で魔力が減るし、逃げにくくなる。だから、俺だけで氷竜の生息地に行ったほうがいいかなって」
「でも、何かあったらどうするのよ?」
「逃げるから大丈夫だよ」
「逃げ切れなかったらどうするのよ!」
「アヤナに俺を助ける力はないよ」
「回復魔法をかけるとか、結界で耐えるとかすればいいでしょう?」
「苦しい時間が長引くだけかな。ブレスが当たったら即死だしね」
「私の防御魔法ならギリギリ耐えられるかもしれないわ!」
一回ぐらいは……。
結界魔法ほどの効果は期待できない。なので、自信はないのよね。
「動きが悪くなった瞬間、パクっと食べられるだけだよ。氷竜のブレスは獲物を動けなくして食べるためにあるわけだから」
その通りだけど……。
「今日はここで待っていてくれたらいいよ。村の人から話を聞くとか。俺だけでどのぐらい倒せるかやってみたい。さすがに八十八頭は無理だと思うけれど」
ヴァリアス様を意識している。
攻略対象者なので当然かもしれないけれど、さすがに強さが違い過ぎる。
「昨日の俺を見たはず。大丈夫だよ」
「本当に?」
「約束する。魔力切れにならないよう余裕があるうちに帰る。午後には戻るよ。夜になっても帰らなければ死んだと思ってくれればいいから」
「最悪。一緒に行くわ!」
「ダメだよ。今日は俺の方法を試したいから」
ホルンが飛んで行ってしまった。
それを止めることさえできないのが私。
浮遊魔法や飛行魔法を使えないのがつらい。
「置き去りね」
私とホルンのことをじっと見ていた女性がそう言った。
「でも、仕方がないわよ。恋人の言う通りよ」
「恋人じゃないわ!」
きちんと否定しておく。
「そうなの? 兄妹?」
「魔物討伐のペアよ! 前衛と後衛なの!」
「ああ、なるほどね」
女性は納得した。
「だったらいいじゃない。安全な拠点で待機することだって後衛の役目よ。前衛の負担にならないようにするのが重要だわ」
わかっているわよ!
でも、その程度のことは誰でもできる。
私には光魔法もあるし、別のことでホルンの負担を減らしたい。
「自分にできることをすればいいだけよ。美味しい食事を用意しておくとか」
「ここってレストランはあるの?」
「ないわね。酒場ならあるわよ。お酒を用意しておくのもありかもね?」
そういって立ち去ろうとする女性に声をかけた。
「待って! 病院もあるかどうか知りたいわ。医者はいるの?」
「病院もないし医者もいないわ。何かあったら村長のところで保管している薬をもらうの。ある意味、村長の家が病院で、手当の仕方を知っている年寄りたちが医者みたいなものね」
「そうなのね」
だったら、私にもできることがある。
女性に聞いて村長の家に行った。
「私はアヤナ。光の魔法使いよ。第二王子のオルフェ様のために、気が向いた時だけ困っている人を助ける活動をしているの」
「オルフェ様のため、しかも気が向いた時だけなのか」
村長は呆れたような表情になった。
「全然しないよりはいいわよね?」
「まあそうだな」
「今日は魔物討伐のペアを組んでいる相棒がいないから暇なの。この村で病気や怪我の人はいない? 魔法で治してあげるわ!」
「ありがたい申し出ではある。だが、この村は貧しい。治療代は払えない」
「無料でいいわ。だから、病人や怪我人を集めてくれない? 動けないのであればその人の家へ行くから案内して!」
「本当に無料なのか? あとから何かを要求されても困る」
「無料だって言っているでしょう? でも、気が向いた時だけだから、私の気が変わらないうちにさっさと案内したほうが得よ! 一人だけでも治ったほうがいいでしょう?」
「わかった。案内する」
村長はすぐに口伝で村中に無償の魔法治療師が来たことを通達。
私は村中にいる病人と怪我人を治療してあげた。
夕方。ホルンが帰ってきた。
「ホルン!」
「遅くて……ごめん」
すぐに凍傷治療と回復魔法をかけた。
「ブレスを食らったのね」
「油断した」
「でしょうね」
でも、耐えられた。
「帰ろうと思ったら、落ちる氷竜のブレスに当たった」
「直撃?」
「全部は避けきれなかった。不意打ちだったから」
「なるほどね」
「そのせいもあってあまり倒せなかった。飛行速度も出なくて……途中で死ぬかもと思いながら飛んできた」
「やっぱり私が一緒に行かないとダメね」
そうすればすぐに治せた。凍傷状態で無理に飛行しなくて済んだ。
「アヤナが必要だってわかった」
「そうでしょう? でも、頑張ったわ。ありがとう、生きて帰って来てくれて!」
心身ともに弱っているホルンの肩を労うように軽く叩く。
ここでギュッとしたら好感度が爆上がりなので、戦友的な方法に留める。
そういうのが有効ってことはネイサンとペアを組んだ時に検証済み。
「今夜はご馳走を食べるわよ。一緒に楽しみましょう!」
「ご馳走か。楽しいのはいいね」
「村長の家に行くわよ!」
「村長の家?」
「私とホルンの歓迎会をしてくれるって!」
村中の病人と怪我人を治したので、村長が歓迎会として夕食をご馳走してくれることをホルンに説明した。
「さすがアヤナだね。村の人と話しているだけじゃなかった」
「ふっふっふ。これが私の実力よ!」
そして、夜。
「本当に助かった!」
「病気だと移住できない」
「怪我も同じく」
「これで何かあった時も逃げやすい!」
氷竜がいつ来るかもしれない。来ても倒せない。逃げるしかない。
でも、病人や怪我人は難しい。本人たちはもちろん家族も不安だった。
私の魔法でそんな人々に少しでも安心を与えることができたこと、笑顔にすることができたのは本当に良かった。
「にーちゃんはかっこいいなあ」
「魔物討伐者に見えない」
「氷竜を本当に倒せるのか?」
「魔法使いか?」
ホルンも人気。ちょっと戸惑っていた。
「ホルン様って言いいなさいよ! 世界で唯一無二の吟遊詩人なのよ?」
本人だけではうまく対応できなさそうなので、助力することにした。
「見てよ、この整った顔を! ハープの演奏も歌も踊りもできて、ナイフも使えて、氷竜を一人で倒せちゃうすごい吟遊詩人なんだから!」
「確かに氷竜を一人で倒せるのはすごい!」
「普通の吟遊詩人じゃないな!」
「世界で唯一無二の吟遊詩人だな!」
「じゃあ、歌ってくれよ!」
「ハープ演奏も!」
「踊っていいぞ!」
村中の人たちが集まっていて、お酒も入っているので言いたい放題。
「ホルン、演奏しながら歌ってあげてよ。踊りは免除してあげるから」
「じゃあ……この村に捧げる曲を」
ホルンは演奏と歌声に、村人たちは大感動。
女性たちの顔がまるでオルフェ様を推す人たちのような表情になった。
「良かった!」
「最高だ!」
「素晴らしい!」
絶賛の嵐。大拍手。
「嬉しいな」
ホルンは照れながら喜んでいた。
「明日も氷竜を倒してくる。一頭でも多く倒せば、この村の安全度が高まるはずだから」
「頼む!」
「ありがたい!」
「勇者だ!」
「吟遊詩人だろう?」
「世界で唯一無二の吟遊詩人だ!」
村人たちにとって氷竜を倒してくれるホルンは救世主のような吟遊詩人。
自然とホルン様と呼ばれるようになっていた。
「良かったわ。皆が喜んでくれて」
「アヤナ様のおかげです!」
「美しい容姿だけでなく美しい心をお持ちです!」
「まるで聖女様です!」
聖女なんて持ち上げすぎだって思うけれど、オルフェ様の妻のイメージとしては悪くない。
嬉しくてニヤニヤしてしまうのを抑え、できるだけ上品に微笑んでみた。
「アヤナ、いつも通りでいいと思うよ? 無理はよくない」
ホルンに速攻で見破られた。




