32.地方の村
氷竜の大規模生息地の近くに人が住んでいるわけもなく、最も近い村でもかなりの距離。
村の人にお金を払って、空き部屋に泊めてくれるよう交渉した。
ホルンは夕食を食べると魔力を回復するために寝てしまった。
「私も吟遊詩人だったらいいのに……」
氷竜を空中で眠らせて墜落して倒せる。
これをずっと繰り返し続ければ、ノーザンの氷竜を全て倒すことができそう。
だけど、私は主人公。光魔法しか使えない。
光魔法を使えるのはすごいことだけど、魔物を倒す力が足りない。
「ヴァリアス様が危機感を持つのもわかるわ」
魔物を倒せない国王は国民に支持されない。
ハイランドやノーザンだったら強者による王位簒奪が起きてしまいそうな気がした。
「アルード様の気持ちもわかるわね」
光魔法の攻撃魔法は少ない。威力も弱い。
大切なもの、守りたいものがあっても、光魔法だけでは何もできないように感じてしまう。
それを解決する手段としてアルード様は魔法剣を習得した。
身体強化の魔法、浮遊魔法、移動魔法、飛行魔法を駆使すればより強くなれる。
光の国だったディアマスにはアルード様みたいに魔法剣を使える人がたくさんいて、魔物から人々を守っていた。
離れた場所から魔法だけで戦う方法ではなく武器で魔物と戦う方法だからこそ、防御魔法や回復魔法の重要性が高まり、避難場所を確保するための結界魔法が尊ばれた。
「私も魔法剣を習ったら……できるかも?」
武器を持って魔法武器化をするだけ。
簡単そうに見えるけれど、誰でもできるわけではない。才能が必要だと聞いた。
もちろん、魔法剣に対応できる武器もないとダメ。通常武器では壊れてしまう。
「まあ、私の武器は最高のものではないしね」
ぶつぶつ言いながら村を一人で散策。
氷竜の生息地が大規模になった影響で、村の周辺にいる魔物がどんどんいなくなっているらしく、夜でも安全になった。
氷竜は怖いけれど他の魔物が村を襲ってこないのは嬉しい。一長一短ね。
「確かに安全そうだけど……違う意味で危ないかもしれないわ」
氷竜が獲物を求めてこの村を襲う可能性がある。
村もそのことを懸念していて、村全体で移住することを検討中だと聞いた。
だけど、全てを捨てて移住するのは覚悟がいるし、そもそもお金がない。
ノーザン国王に直訴状を出しているけれど、返事がないらしい。
ノーザン中で氷竜の被害が増えているので、襲撃された村や町への対応のほうが優先。まだ襲われていない村や町への対応は後回しになる。
わかってはいるけれど、襲撃前になんとかしたい村の人たちの不安と苛立ちは募るばかり。
ノーザン国王や氷竜対策をしているオルフェ様に対する不満の声を何度も聞いた。
「そういう意味では正しいわね。王太子が書類仕事なのは」
国王の補佐業務をしているだけなら憎まれない。
何かあっても責任を追及されるのは国王と魔物関連の担当をしているオルフェ様。
オルフェ様が憎まれ役になることで、王太子とノーザン王家を守っているという見方もできる。
「オルフェ様はノーザンのために頑張っているのに……」
ノーザンの現状として氷竜討伐は不十分。
国民が強く応援しているのがオルフェ様なら、もっと討伐してくれと強い怒りをぶつけるのもオルフェ様。
王都にはオルフェ様を支持する人がたくさんいるし、応援もしている。
だけど、地方も同じとは言えない。
特に氷竜の生息地に近い場所では全然違うというのをこの村に来て実感した。
「私に氷竜をたくさん倒すだけの力があればいいのに」
ノーザンに来ると私は自分の無力さを感じる。
ディアマスやハイランドでは全然感じなかったことを感じてしまう。
「ノーザンと私の相性は良くないみたいね。だけど、好きなの。オルフェ様が」
麗しい姿で常に微笑んでいるけれど、本当のオルフェ様は不安で、つらくて、それでも必死で王子の務めを果たそうとしている。
祖国ノーザンと国民のために。
応援せずにいられないわよ!
そのために古代の紋章を探す。それを武器に刻む。氷属性の魔法武器になって槍がパワーアップする。
ゲームに登場するすごい魔法武器を贈ることでオルフェ様が喜ぶ。
間接的な方法だけど、氷竜を倒すために役立てる。
「それでいいのよ! オルフェ様の好感度がたくさん上がるはず!」
明日も頑張ろうと決めた。




