31.チートだわ
次の日、一番近場の遺跡に行ってみた。
そこは観光地になっているので安全だった。
「確かに遺跡だけど、観光地として綺麗に整備されているわね」
「あまり古くないかな。新しいから遺跡として残っている」
「そうかも」
「俺の祖国には相当古い遺跡が多く残っている。それで古代の紋章も多くある。属性以外の紋章もある」
「なるほどね」
でも、行かない。
ホルンの国に行ったら完全にホルンのルートだけになる。
そのせいで絶対に戻って来ることができないのを知っているから。
「紋章は知りたいけれど、わざわざ遠い国まで行きたくはないわ」
「なぜ遠い国だと思うのかな?」
「ディアマスの隣はハイランドとノーザン。それ以外は遠い国に決まっているわ!」
「なるほど」
ホルンが笑う。
「正解かな」
「やっぱり」
世界地図のようなものを見たことがないのでわからないけれど。
「ヴァリウス様とアルード様とクルセード様がいれば、大規模生息地の中にある遺跡だって簡単に行けそうなのに」
「そうなんだ?」
「めちゃくちゃ強いから。三人で誰が一番氷竜を倒せるかを競争してほしいわ」
「誰が一番強そう?」
「氷竜を倒した記録だとヴァリウス様ね。一日で八十八頭だって」
「すごいね」
「すごいのよ」
「そんなに倒してどうするのかな?」
「ノーランドの領土内に氷竜の生息地が増えて困っているのよ。氷竜の被害が増えるでしょう?」
「わかる。でも、ヴァリウス様はディアマスの王太子だ。アルード様もディアマスの王子。クルセード様はハイランドの王子。他国の王子がノーザンの氷竜を倒す理由がわからない」
「魔剣の試し切りよ」
正直に答えた。
「でも、ノーザンを助けるためでもあるわ。ノーザンを見捨てると、ノーザンは領土放棄をするしかないわ。氷竜の討伐ができないし、管理責任を問われるし、賠償金問題になるような氷竜の被害が他国で出たら困るから」
「政治的に難しい話になるわけか」
「そういうこと。だから、ノーザンとしては氷竜を減らすことが重要なのよ。永久凍土の極寒地だけに住んでいればいい魔物だけど、人間の都合なんて魔物は考えないじゃない? 極寒地の氷竜が増えればノーザンに来て棲みつくし、それがまたディアマスやハイランドに飛んでいくきっかけになるのよ。実際、ディアマスには何頭か来て討伐されているから」
「大変そうだね」
「大変なのよ。だから、魔剣の試し切りって理由をつけてノーザンを助けておくのはいいことなのよ」
「討伐した対価を要求しないのかな?」
「ノーザンからお金とかの対価を要求したら、今以上に討伐する力なくなってしまうわ。ディアマスの氷竜被害が多くなるからかえって損なの!」
「そういうことか」
「オルフェ様の力になりたいわ。ノーザンの人たちのためにもね。留学中に親切にしてくれた人がたくさんいたの。ここは北国で寒いけれど、人々の心は温かくて優しいのよ。ハイランドのほうが暖かい気候だけど、心に関してはよっぽど冷たいわ」
「なるほどね」
ホルンが頷く。
でも、なんだか違う気がした。
「ごめんなさい。訂正するわ。ハイランドにも良い人はたくさんいるわ! 一部の人だけで全部を同じように見てはいけないわよね」
「そうだね」
「ハイランドの良いところは出会いが多くあることよ。ホルンにも会えたしね。ホルンだって私に会えて良かったでしょう?」
「そうだね。良かった」
ホルンはにっこり微笑んだ。
これでよし。
「別の場所に行きましょう。国立博物館よ!」
遺跡関連の品を展示していそうな場所へ行くことにした。
「うーん。やっぱりあの遺跡に行くしかないかも」
古代の紋章がない。
王都やその近郊で見つかるご都合主義は発動しなかった。
「行こうか?」
ホルンがあまりにも普通に言うのがおかしい。
「ホルン、ここは氷竜の大規模生息地よ。魔物園に行ったでしょう? あそこで見た氷竜が百匹以上いるのよ? どれだけ危険かわかっている?」
「わかっているよ」
「じゃあ、どうして行こうかなんて簡単に言えるの?」
「アヤナが行きたいなら行くだけだよ」
「危険な場所なのに?」
「そうだよ」
素直過ぎるというか、言いなり過ぎるというか。
「本当は嫌でしょう? 死ぬかもしれないわよ?」
「死なないよ」
「ホルン、本当はめちゃくちゃ強いの?」
「弱い」
「だったらどうしてよ? 弱いのに危険な魔物がたくさんいる場所に行くなんておかしいでしょうに」
「眠らせればいい」
「氷竜を眠らせることができるの?」
「できる。それでいつも危ない魔物や人から逃げているから」
そういうこと!
「じゃあ、氷竜に見つかっても眠らせてどんどん進める感じ?」
「そうだね。でも、絶対ではないかな。効きにくい場合もある。俺の演奏を聴くことができないような対象は完全にダメかな」
「なるほど」
「氷竜は眠るよ」
「じゃあ……偵察してもいい? どのぐらい氷竜がいそうか見るとか」
「わかった」
私とホルンは古代の遺跡がある氷竜の大規模生息地を見に向かった。
「やば……」
遠く離れた空中から見ているけれど、相当いる。
「さすがにあれを全部眠らせるのはきつくない?」
「そうだね。全部は無理かな。少しずつ倒して減らすとか」
わかる。だけど。
「どうやって倒すの?」
ホルンの能力は中途半端。
強い魔法をガンガン撃って倒すようなことはできない。
短剣だけで氷竜を倒せるわけもない。
「いくつか方法があるけれど、一番楽そうなのを試して来てもいいかな?」
「大丈夫? 危険じゃない?」
「一人なら平気かな。もし俺がこっちとは逆のほうに逃げたら、アヤナは地上に降りてほしい。浮遊魔法や飛行魔法の効果が切れると困る」
「了解」
「結界を張って待っていてくれれば、必ず戻るよ」
「わかったわ」
効果時間をできるだけ長くするため、再度互いに防御魔法や支援魔法をかけ直した。
「行ってくる」
ホルンは氷竜の生息地に向かって飛行していった。
すると、それに気づいた氷竜が何匹もホルンに向かっていった。
「何匹も来ちゃった!」
でも、ホルンはより氷竜のいるほうへ飛んでいく。
「何やっているのよ!」
氷竜の数が増えた。六匹の氷竜に追われながら、ホルンは急上昇。
氷竜は翼で飛んでいるので、ホルンと全く同じような小回りの飛行はできない。
氷竜との距離に差をつけたホルンは、ブレスをうまく避けていた。
「あ……」
突然、六匹の氷竜が全部落ちた。
ホルンが戻ってきた。
「うまくいったかも。あんな感じで少しずつ倒す」
「落とすってこと?」
「空中で眠らせて墜落させる。氷竜は寝ながら飛ぶことはできないから」
あったまいいーーーーーーー!!!
「すごいわ! ホルン天才! やっぱり世界で唯一無二の吟遊詩人だわ!」
「そうかな? 普通の方法だけど」
「いやいやいや、全然普通じゃないわ! ものすごいわ!」
意外だった。
まさか空中で眠らせるなんて。
空中無双だわ!!!
「竜族は強い。だから、落ちただけでは倒せない場合もある。だけど、あの高度から無防備で落ちたわけだし、大怪我をしていると思うよ」
「そうね!」
「さすがに近づいて様子を見に行くことは無理だから、またあんな感じで少しずつ落として様子を見る感じかな」
いけそう……。
頑張ればホルン一人で大規模生息地の氷竜を全滅させることができそうな気がした。
「魔力、大丈夫?」
「まだ平気かな」
「でも、ここに来るまでも飛行魔法だったし、帰りの分も必要だわ。魔力の使い過ぎは禁物よ?」
「わかっている。もう一回試して来てもいいかな?」
「わかったわ。ここで待っていればいいのね?」
「そうだね」
ホルンは行ってしまった。
また、氷竜が飛んでくる。ブレスも吐いている。
でも、ホルンは器用に飛び回って急上昇。
追って来た数匹の氷竜を空中で眠らせ、墜落させた。
「余裕で寝るかな」
戻ってきたホルンが微笑んだ。
「竜族は魔法耐性があるけれど、俺の演奏で寝る。やっぱりあの高度から落ちると死ぬか重症だ。何度も繰り返せば、遺跡に行くまでに遭遇する氷竜を倒せる気がする」
攻略対象者の吟遊詩人は強かった。
全然中途半端じゃない。
チートだわ!!!
「ホルンのすごさを知ってしまったわ! でも、とりあえずは帰るわよ。魔力が減っているはずだから」
「そうだね」
私はホルンに回復魔法をかけた。
「お疲れ様。試してくれてありがとう」
「どういたしまして」
ホルンが嬉しそうに微笑むのを見て、私も嬉しくなった。




