3.一時帰国
久しぶりにディアマス王国に帰国した。
すでに成人したし、アルード様の婚約者候補ではなくなったけれど、コランダム公爵家は私のことをルクレシアの妹のような存在として思っていてくれて、部屋をそのままにしてくれている。
なので、ディアマスに戻った時にはコランダム公爵邸に帰ることになっていた。
「おかえりなさい」
コランダム公爵夫人の言葉を聞いた瞬間、あまりの嬉しさに瞳が潤んでしまった。
「ただいま帰りました!」
帰る場所があり、家族のように自分を受け入れてくれる人がいる。
そのすごさ、素晴らしさ、大切さに感動した。
「どうしたの? ノーザンで何かあったの?」
「いいえ。普通に頑張っています」
「普通ですって?」
コランダム公爵夫人の目つきが変わる。
「コランダムが後見をしているのよ? 普通で許されると思っているの?」
出た! いかにも悪役令嬢の母親らしい圧が!
でも、それがコランダム公爵夫人らしくて、余計に嬉しくなってしまう。
「申し訳ありません。私のように能力の強化に励む者もオルフェ様の目に留まりたい者も大勢います。なかなか目立つことができないという意味で普通というか……」
主人公の私にはちょっとしょんぼりするだけでとても可哀そうに見えてしまうという特殊効果がある。
「見た目は可愛いと思うのよ。それでもダメなの?」
言い過ぎたと思ったのか、コランダム公爵夫人の圧がなくなった。
恋愛ゲームアプリの主人公らしい容姿ではあるのよね……。
でも。
「ダメみたいです」
実を言うと、ノーザンの男性にはまあまあ人気。口説かれることもある。
だけど、私が結婚したいのはオルフェ様だけ!
他の人は眼中にない。
「アヤナ、オルフェ様が好む女性はどんなタイプかわかっているわね?」
「え?」
ポカンとしてしまった。
「その顔だと知らないようね」
「申し訳ありません」
「教えてあげるわ。ルクレシアのような女性よ!」
ああ……そうかも。この世界では。
「つまり、わがままで高慢で高飛車な女性よ!」
それは違うと思う。
ゲームのルクレシアは確かにわがままで高慢で高飛車だけど、この世界のルクレシアは優しくて親切。
昔はともかく今は。
「火魔法が使えるといいけれど、アヤナには無理でしょう?」
「そうですね」
「だったら、強気なところだけでも真似しなさい。きっとオルフェ様は強気な女性が好きなはずよ! そうでなければ、ルクレシアに何度も迫ってくるわけがないわ!」
オルフェ様がルクレシアにしつこく求婚していたのは有名らしく、母親であるコランダム公爵夫人も当然のごとく知っていた。
「相手はノーザンの王子。自分にとって役立つ者かどうかを吟味して選ぶはずよ。氷竜討伐を担っているなら余計だわ」
絶対そう。
「頑張ります」
ちょっとでも振り向いてもらえるように。
「結婚できるかどうかはわからないけれど、役立ちそうと思われる程度にはアピールしなさい。そうすれば、別の好条件者が釣れるかもしれないでしょう?」
「そうですね……」
他の人が釣れても困るのが本音だけど、コランダム公爵夫人には言えない。
「オルフェ様を狙うのはいいけれど、何年経っても無理なら妥協しなさい。アヤナならいくらでも相手がいるわ。優秀な光の魔法使いだもの!」
「ありがとうございます! では、部屋のほうを見てきます!」
別人との縁談の話題にならないうちに退却した。
「やっぱりここが私の居場所だわ……」
私のために用意された部屋はそのまま。
ノーザンに向けて出発した時と何も変わっていない様子を見て心から安堵した。
「だけど、本当は就職して出て行かないとダメよね」
スピネール男爵家で虐げられていた私を救うため、後見を申し出てくれたコランダム公爵家に甘え続けてしまっている。
成人した以上、いつかはここを出ていく時が来る。
寂しいけれど、それは仕方がない。
だから、オルフェ様と結婚するためにこの家を出たい。
「目標も野望も大きくないとね!」
なにせ私は主人公。
諦めない。絶対に。
必ずオルフェ様を攻略して見せると思った。




