29.ご都合主義
「始めまして。ルクレシア・コランダムよ」
ディアマスを経由してノーザンに行くので、ルクレシアに会わせることにした。
「ホルンです。未来の王子妃殿下にお会いすることができて光栄です」
「今日は魔法武器職人としての面会だから」
ルクレシアが笑った。
「今のところ、こんな感じ」
制作中の槍を見せてくれた。
「アヤナの言う通り、もっと短くできるようにしたわ」
短縮する魔法陣の数を増やすことで四分の一の長さになる。
一番短い状態で携帯して、必要に応じて魔法陣を発動させて長くする。
ジャキン、ジャキン、ジャキンと段階的に伸びて、最後に槍の穂先が出るようにもしてくれた。
「これって私でも使える?」
「魔力を流せば誰でも。でも、最後に穂先が出る時は注意してね?」
試してみる。
ジャキン、ジャキン、ジャキンで止まった。
「穂先が出ないわよ?」
「最後は気合を入れて魔力を流さないとダメ。なんとなく触って穂先が出たら危ないでしょう? 溜めてぐっと出す感じにしたの。魔物討伐の時だけ穂先を出すためにね」
「ルクレシアは細かいわねえ」
「安全第一よ!」
でも、確かにそれでいい気がした。
「いい感じ。これって魔力を消せば短くなるの?」
「普段から使っていると、完全に消すのは無理よ。だから、コツがあるの。魔力を引く感じね。物を取る時に魔力を伸ばしたり縮めたりする時と同じような感じ」
「なるほどね」
すぐにできた。簡単。
「ちなみに刺突アップの術式をつなげることはできないの。今は伸縮機能しかついていないわ」
「みたいね。他のもダメ?」
「どうしてもつながらないのよ。伸縮機能の魔法陣はやっぱり特殊みたいね」
「そうなのね」
でも、ゲームでは強化できる。
現実だからこその工夫が必要なのだと思った。
「これはアヤナが考えたもの?」
ホルンがしげしげと魔法武器の槍を見つめた。
「そうよ。長いと持ち運びにくいから、普段は短くしておくわけ」
「すごくいい気がする。俺もほしいな」
「ダメ! これはオルフェ様のだから!」
「ルクレシア様に頼めばいい気がする」
「別の槍を持ってきてくれればいいわよ」
「やった!」
「ちょっと、そんなに簡単に約束しちゃっていいの?」
「練習になるから。失敗しても文句は言わないでね」
「もちろん」
これでルクレシアに対するホルンの好感度も上がった気がする。
「ホルンはナイフ使いでしょうに。ナイフを鍛えてもらいなさいよ」
「一理あるね?」
「斬撃アップをつければいいの?」
「刺突で」
ルクレシアは首をかしげた。
「ナイフって切る時に使うわよね?」
「ホルンはナイフを投げるから。刺さった時の威力が大きいほうがいいじゃない?」
「さすがアヤナだ。吟遊詩人についてわかっているね」
「当然よ!」
ゲームの選択では刺突アップが正解なのよね、ホルンは。
「このナイフに刻めそう?」
ホルンがナイフを取り出した。
「安物ね。もっといいものに刻まないともったいないわ」
「こういうのがいいわ」
手帳を取り出すと、くないを描いた。
「めちゃくちゃシンプルなナイフ」
「手に入るかしら?」
「異国で見た気がする」
ホルンが考え込んだ。
「忍者が使う武器だったかな」
「そうそう。これを使えば回収できなかった時に忍者の仕業って思われるわ。吟遊詩人の仕業って思われずに済むわけよ」
「アヤナは賢いね」
「すごいわ……そこまで考えているなんて!」
ゲーム通りにしているだけよ!
「さすがに特注かも」
「珍しい古道具を扱う店で手に入る可能性もあるよ」
「そうよね。久しぶりにあの店に行ってみるわ」
「あの店?」
「ゾーイの館」
「館? そんなところで買えるの?」
「占いの店よ!」
「あ、ああ……あそこね!」
ルクレシアは忘れていた。
まあ、仕方がないけれど。
「槍の強化については術式以外にも考えているわ。オルフェ様に槍を贈りたいってホルンに相談したら、古代の紋章のことを教えてくれたのよね」
「古代の紋章? 知りたいわ!」
ルクレシアが飛びついた。
「俺の祖国に行けば全部の属性の紋章がわかるよ」
「全部の属性? 凄いわ!」
「絶対にダメ!」
それだけは絶対に阻止しないといけない。
「アルード様が許さないわ! ルクレシアはディアマスにいてディアマスの平和を守るのよ!」
「ちょっと旅行するぐらいいいじゃない?」
「絶対に絶対にダメ! 私も断ったわ。たぶんだけど、ホルンの国は遠い気がするのよね。何かあって帰れなくなったら困るでしょう? だからダメよ」
「残念だわ」
「ノーザンに行けば氷の古代紋章についてはわかるかもって。だから、ノーザンに行って来るわ」
「気をつけて行ってきてね」
「大丈夫。ホルンが護衛みたいなものだから」
「そうなのね」
ルクレシアはじっとホルンを見つめた。
「友人なのよね?」
「魔物討伐ギルドで魔物を倒す時のペアよ。魔法学院でもペアを組んだじゃない? あんな感じ」
闇属性の魔石になる魔物のみ。
しかも、私が盾役だけどね!
「ああ、そういうことね! だったらわかるわ!」
ルクレシアはすぐに理解してくれた。
「ところで、ホルンの属性は?」
「特にはないかな」
ホルン自身の属性は風、土、水、火の四属性だけど、楽器を奏でた場合は全属性になる。
つまり、複属性使いで反属性使いだけど、そのせいで強い魔法が使えない。
器用貧乏。中途半端ともいう。
「ちょっとだけ魔法が使えるみたいな感じだから、どれか一つが得意ってことではないみたいよ」
「そうなのね」
とりあえず、ゾーイの館に三人で行くことにした。
ゲームのご都合主義が発動。
くないが売っていたので購入。ルクレシアに刺突アップを頼んだ。
すぐに刻んでくれたので、ホルンが喜ぶ。
ルクレシアの好感度がまた上がってしまったのがちょっと心配。
だけど、アルード様と結婚するので大丈夫だろうと思った。
アルード様のぞっこんぶりには誰も勝てないと思うのよね!
「じゃあ、ノーザンに行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
私とホルンは古代の紋章を見つけるためにノーザンに向かったのだった。




