22.絶対好き
「ジュリアは人生で初めての猛吹雪を体験中です。魔物園もスケートもスキーも楽しんでいました。絶対に大丈夫です。ノーザンでの素晴らしい思い出を私が作りますから!」
ノーザンの悪評をハイランドで広めるようなことは絶対にさせない。
どんなことをしてでもね!
「アヤナにこのようなことを言う自分を情けなく思っています」
困ったような表情、肩を落としたかのような様子は多くの人々が知るオルフェ様の姿ではなかった。
「オルフェ様が誰よりもノーザンのことを心配しているのはわかっています。どうか考えすぎないでください。ところで、体調はいかがですか? 討伐の時、とても具合が悪いのに平気そうに振舞っていましたよね? 心配でした」
「大丈夫です。あれは魔力が急激に減ってしまっただけなので、休めば治ります。あの時も情けない姿を見せてしまいましたね」
「私のほうこそジュリアの我儘でオルフェ様に負担をかけてしまいました。大反省しています。本当にすみません!」
「アヤナ」
オルフェ様がじっと見つめてくる。
「ノーザンは北国。ディアマスやハイランドのように栄えていません。魅力を感じにくい国だということはわかっていますが、また来てくれて嬉しく思っています」
その言葉はオルフェ様の本音よね?
そう思いたい。
だから、私も本音を伝えたい。
「ノーザンは素敵なところです。確かに寒いし雪は多いし強い魔物もいます。でも、厳しい自然に負けずに生きている強い人々がいます。その心は温かくて優しくて……私は大好きです! ディアマスに帰国したことでノーザンの魅力をより強く感じました。ハイランドにいる今もそうです!」
ハイランドはすごい。
過ごしやすいし、人も多くてにぎやかで、何もかもがダイナミックな感じがする。
短期間の滞在であっても、多くの人々にとって魅力的な国だとわかる。
ディアマスで生まれ育ったし、ずっとディアマスが一番素晴らしい国だと思っていた。
でも、イアンのようにハイランドで生きるほうが自由で楽しいと思う人もいる。
自分の人生をやり直せる。実力さえあれば楽しく有利に生きていける。
それがハイランド。
だけど、実力がない者にはとても厳しい国でもある。
今の立場から抜け出せない。底辺に落ちてしまうと這い上がりにくい。
雑多で騒々しい。享楽的。疲れやすくもある。
競争ばかりで張り合うのも当然の毎日。そのせいで心がホッとするような日々が少ないという側面も併せ持っていた。
「私は猛吹雪の日が好きです」
私はオルフェ様を見つめた。
まさにノーザンの王子らしい白銀の髪と水色の瞳を持つ美しい姿を。
「外を見ると全然落ち着けるような天気じゃないです。でも、安全な家の中にいることで安心できます。自分の好きなことをしたり、親しい人々と過ごしたり、ゆったりした時間を過ごすことができます」
まだある。
猛吹雪の日が好きな理由が。
「オルフェ様も出かけません。王城にいます。それが嬉しくて……」
会えなくてもいい。
王城にオルフェ様がいると思うと幸せになれた。
その時のことを思い出して、なんとなく瞳が潤んでしまった。
「すみません。感傷的になっちゃいました。留学中の私は何もお役に立てなくて、医療班でも全然仕事をもらえなくて……結局無力なのがつらくて帰っちゃったんですよね、ディアマスに」
えへへと笑うと、オルフェ様は優しく微笑んだ。
「アヤナは頑張っていました。結界の練習を見た者が氷竜を倒すために練習しているのではないかと知らせに来ました」
「そうでしたか」
「驚きました。結界は身を守るための魔法です。それを攻撃に使うとは……さすがディアマス、光の国の者だと思いました」
「結界を攻撃に利用するなんてディアマスでも考えません。アルード様に教えて貰ったり、ノーザンで見聞きしたことを参考にしただけというか……円錐にしたのだって、ルクレシアのやり方を結界でできないかと思っただけです」
「試してみようと思っただけでもすごいことです。女性は魔物討伐に同行するのを嫌がります。男性でも、若くて優秀な魔法使いであっても同じ。危険だとわかっているので嫌がります。それがノーザンの現状です」
どんどん魔物は増えているのに、魔物を倒しに行く人がいない。
魔物がいない場所に逃げようと思う人が多くなり、結果として魔物の脅威が増えてしまうという悪循環に陥っている。
「魔法学院のテストでノーザンに来ましたね?」
「そうですね」
「ネイサンがかなりの評判になっていました。ゼイスレードの名声にふさわしく、一人で氷竜に対峙していました。魔物討伐が好きそうなので勧誘したらどうかという話も出ていました。跡継ぎではないので、来てくれるのではないかという期待があったのです」
「わかります」
「アヤナも評判になっていました。女性で囮役を任されるのは普通ではありません。ですが、クルセードが決めた役割をこなしました。後方にいるだけでは役立たない。釣り役ぐらいしろということが理解できても、実際にそれができるかどうかは別です」
「そうだと思います」
「あの時も非常に頑張っていました。巨大な魔物が三頭来てもすぐに結界を張ることができました。優秀な証拠です」
「結界は一番得意です。どんな時もすぐに張れるように一生懸命練習しました。だからほぼ失敗しません。それで氷竜にも工夫すれば使えそうだと思って」
「アヤナには勇気があります」
その通り!
「皆、アヤナが好きでした。帰国したあと、誰もが寂しいと言っていました」
「残念だって言われました。このまま留学していればいいって。でも、あのままじゃいけないって思いました。もっとできることがある。それが何かを探しに行きたいって」
ノーザンに行けば役立てる、活躍できると思っていた。
でも、そうじゃなかった。
頑張りたくても結果が出せない。時間だけが過ぎることに焦っていた。
だから、仕切り直したかった。
オルフェ様に会えなくなるとしても。
「まだまだこれからです! 結界を改良したことはお見せできました。これからも頑張ります。もっとできることがあるはずだと思うので、ハイランドで勉強してきます!」
「そうですか」
オルフェ様は頷いた。
「アヤナは偉いですね。これからがますます楽しみです」
「そうです。楽しみにしてください!」
「そうします。またノーザンに来てください。皆、待っています。アヤナのことを。私もその一人です」
オルフェ様が私を待っていてくれる……?
心の中に強い喜びが一気に溢れ出した。
「はい! 必ず! 絶対にまた来ますから!」
「約束です。では、私は帰ります。猛吹雪の日は王城で執務をしなければなりません。普段は外にいるので、なかなかできないことがあるのです」
「そうですよね! わかります!」
討伐する魔物は氷竜だけではない。他にも危険な魔物がいる。
王城で国王と王太子が執務をして、第二王子のオルフェ様が魔物と戦いに行く。
それがノーザン王家のやり方。
「討伐関係の書類が溜まっているのに外出してしまいました。ですが、アヤナに会えて良かったです。ではこれで」
オルフェ様がドアから出て行くのを静かに見送った。
ホテルの出入り口までついていきたくても堪えた。
お忍びなのに目立ってしまうかもしれないし、女性といたって評判になってしまうかもしれないから。
ただでさえノーザンや氷竜討伐に誘っていることが誤解され、次々と女性を誘う軽い男性だと勘違いしている人々もいる。
私はちゃんとオルフェ様を理解していますから!
強くて、優しくて、責任感がある。王子として、ノーザンを守るために頑張っている。
好き……絶対好き! この気持ちは一生変わらない!
だから、もっともっとオルフェ様の役に立ちたい。その方法を探したかった。
「待っていてください! 絶対にノーザンに来て、オルフェ様に認めてもらいますから!」
私は主人公。
それでもオルフェ様を攻略するのが難しいとわかっている。
だけど、諦めない。信じたい。
オルフェ様とハッピーエンドになれるって。
アヤナ・スピネールの全人生をかけてオルフェ様を攻略するわ!
私の決意はずっと変わらない。
正直、通算で何度目の決意かわからないほどだった。




