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私の推しは北方の白銀王子  作者: 美雪


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21.猛吹雪



 全ての訓練が終わると、私は参加者全員に回復魔法をかけた。


 感謝されるのはこれまでの経験でわかっている。


 騎士団まで送ってもらったあとはお別れ。


 オルフェ様がかなりお疲れの様子で心配だったけれど、魔力の使い過ぎは寝れば治る。


 私とジュリアがいると気を遣わせてしまうのがわかっているので、さっさと最高級ホテルに帰った。


「明日の予定だけど、魔物園に行く?」

「竜と虎と熊がいるのよね?」

「そうみたい。氷竜は生でみたし、強さもわかったでしょう?」

「そうね。でも、基本的には火魔法をたくさん撃ったらいいだけだから簡単に倒せそう」

「上級四回で倒せなかったくせに」

「ハイランドでは火魔法の使い手で溢れているわ! 三十人集めて一人一回撃てばいいだけでしょう!」


 そのような方法もあるのは確か。


 だけど、ノーザンでは非常に難しい方法でもある。


「ノーザンには火の使い手が少ないのよ。上級を使えるほど優秀となると余計にね」

「ハイランドでは氷の使い手が少ないのと逆ってことね」

「そうなのよ。それに火を使うと何度も氷を張り直しになってしまうわ。足止めできなければ飛んでしまう可能性があるし、死傷者が出てしまうでしょうね」

「足止めしたあと、タイミングを合わせて一気に火の上級魔法を使えば倒せるわよ」

「ハイランドらしい方法だけど、鱗は素材になるの。焼いたら鱗が取れなくなるわ」

「ああ、素材が欲しいならダメね」

「まあ、今のノーザンはともかく氷竜を倒せればいいって感じだけどね」

「鱗は高いの?」

「今の相場は少し下がっているわ」


 ヴァリウス様とアルード様とクルセード様が大量に倒してしまったので、その情報を察知した市場が価格を下げた。


 何も考えずに大量の鱗を放出すると価格があまりにも下がり過ぎてしまうため、王家のほうで全部の鱗を保管して市場に流すのを調整していると聞いた。


「他に何かある?」

「スキーとかスケート、買物も手軽に楽しめるわ。夜にオーロラを見に行く手もあるけれど、天気と運次第」

「魔物討伐ギルドはないの?」

「ないわ。ノーザンの魔物討伐は国がしているの。一般人はしないわ」

「魔法使いもしないの?」

「しないわ。白剣虎や北方熊も強いわよ。魔法が使える程度では倒せないわ。実力者でないと格好の獲物になるだけね。危険度ランクがかなり高いのよ」

「そうなのね」


 ノーザンの三日目は魔物園とスケート、四日目はスキーを楽しんだ。





 五日目。


 ついに最もノーザンらしい天気になった。


 猛吹雪。


 永久凍土の極寒地に近いノーザンは一年中雪が降る可能性がある。


 魔力を含んだ大気の影響で、真夏であっても猛吹雪になってしまうこともあるほど。


 こんな日はホテル内でゆっくり過ごすのがいい。


 ハイランドは暖かい方の国なので猛吹雪はない。


 人生で初めての猛吹雪にジュリアは喜んでいた。


「すごいわね! こんなに強い風と雪が一緒になっているなんて!」


 バルコニーに出ては猛吹雪を楽しんで戻って来る。


 ジュリアは火魔法の使い手。体温調整魔法が使えるので寒くない。


 何度も何度も外に出ては戻るのを繰り返していた。


「なんでずっと外にいないの?」

「寒くはないけれど、風が凄いでしょう? 髪の毛がボサボサだわ!」

「だから何?」

「アヤナはわかっていないわ! 私は公爵令嬢なのよ? ボサボサの髪なんてみっともないでしょうに。誰かに見られたら大変よ!」

「私しかいないから平気よ」

「そういう油断が命取りなのよ! ハイランドの社交界を甘く見てはいけないわ。何かあると、叩きに叩かれるわ!」


 ハイランドは社交界での叩きもすごいのね。


「バルコニーに出たら結界を張ってあげましょうか?」

「それじゃ部屋の窓から見ているのと一緒だわ! 自分の体で冷たい風を感じたいの!」

「ジュリアは風魔法も使えるし、こだわりがありそうね」


 そんなやり取りをしていると、来客が来た。


 オルフェ様の部下だった。


「オルフェ様がお忍びで外出されています。アヤナ様だけにお会いされたいそうです」

「オルフェ様が!」


 しかも私だけに会いたいなんて……。


 ニヤニヤしてしまうのを必死に抑える。


「ジュリア、下の階に行って来るわ。部屋にいてくれる?」

「わかったわ!」


 一緒に行きたいと言われるかと思いきや、ジュリアはすぐに了承。


「アヤナだけで良かったわ! こんなボサボサの髪でノーザンの王子に会えるわけがないわ!」


 納得。


「じゃあ、行って来るわ!」


 オルフェ様がいるレストランに向かった。






 オルフェ様はレストランの個室にいた。


「オルフェ様! お会いできて光栄です。どうされたのですか?」

「氷竜のことです。あまり楽しめなかったのではないかと思い、気になって来ました」

「それなら大丈夫です。とても貴重な経験ができたことをしっかりと話しました。私もジュリアも自分の魔法の有用性について知る機会にできたので、個人的には大満足です!」


 ジュリアの好きな男性もわかったしね!


 この世界は恋愛ゲームアプリと同じ。だから、攻略したい相手が誰なのかを知っておくのはとても有効のはず。


 アイン様狙いであれば、オルフェ様を狙わないという意味でも安心した。


「あの者はジュリア・メルファイアですね?」

「そうです。ご存じですか?」

「メルファイアはハイランドの名家です」

「そうですか」

「顔に酷い火傷を負ったと聞きましたが、治ったのですね」


 びっくりした。


「そのこともご存じだとは思いませんでした」

「父が私にふさわしい縁談相手を探しているせいです。ハイランド貴族の候補者が一人脱落したと聞きました」


 ジュリアはオルフェ様の縁談候補の一人だったらしい。


「アヤナ治療したのですか?」

「そうです」

「だと思いました。その縁で知り合い、一緒にノーザンに来たのですね?」

「そうです。でも、火傷のことは言わないでくれませんか? ジュリアは言葉にできないほどのつらい経験をしました。二度と思い出したくないはずです」

「わかりました。その代わり、アヤナだけに話したいことがあります」

「どんなお話でしょうか?」

「あの者がハイランドでノーザンの悪口を広めないようにしてくれませんか? 顔のことで傷ついたのであれば、ノーザンの悪口によっていかにノーザンの人々が傷つくかも想像できると思うのです」


 やっぱりオルフェ様だわ……。


 オルフェ様はノーザンを守りたい気持ちがとても強い。


 たぶん、ジュリアに魔法を使わせることで氷竜が倒しにくいということを実感してもらい、ノーザンが大変だということを知ってもらいたかった。


 でも、的当てができなくてつまらないというジュリアの言動は、ノーザンが魔物被害で苦しんでいることを全く考えていない発言だった。


 そのまま帰せばハイランドでノーザンに対する悪い評価が広がってしまうかもしれない。


 だからこそ、オルフェ様は無理をしてジュリアに魔法を撃たせた。


 でも、それで本人が満足したかどうかはわからないため、確認に来た。


 わかってしまう。ゲームの知識があるせいで余計に。


 いかにオルフェ様がつらい気持ちを抱えながら私に会いに来たのかを感じて、胸が苦しくなった。


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