20.普通のこと
「私の魔力が減っているので、釣り役を二人にします」
騎士の一人が氷竜を釣った。
もう一人がサポートとして氷竜の口元を凍らせると、すぐに氷竜が飛んだ。
口元が白く光る。ブレスをするつもりだった。
「今日は運が悪いようです」
オルフェ様はもう一度護符を使うと氷竜に向かい、飛んでいる氷竜の翼の付け根に氷で作った槍を何本も突き刺した。
氷竜が落ちると、その足元が急激に凍っていく。
すでに口元は凍っている。釣り役二人で口を担当しているらしかった。
オルフェ様はしっぽ攻撃をさらりと避け、もう片方の翼の方にも氷で作った槍を何本も突き刺す。
かっこいい!
完全に飛べないようにしたので、戻って来た。
「上級魔法で頭か胸を狙ってください。足の修復が大変なので巻き込まないように」
「前足だけは入ってもいいかしら?」
「両方の前足はダメです。範囲をずらして片方だけにしてください」
「わかったわ」
ジュリアは上級魔法を使った。
範囲を調整しながら四回。
でも、倒せない。
ルクレシアは上級魔法四回で氷竜を倒していた。
氷竜の個体差や範囲調整による魔法の効力差があるとしても、ジュリアの上級魔法はルクレシアの魔法よりも効果が弱そうな気がした。
「上級を四回撃っても倒せないなんて……きついわ」
ジュリアはぐったりしていた。
上級魔法を使えるだけですごい。
しかも四回。それだけ多くの魔力がある。
普通であればジュリアはとても優秀な魔法使いだと思う。
でも、倒せない。
氷竜はそれほど強くて危険な魔物だってこと。
「弱ってはいます」
「そうね」
「オルフェ様、結界で倒せるか試してみてもいいですか?」
ジュリアもオルフェ様も魔力を消費している。
勉強と修行の成果を見せるためにも、私がなんとかしたかった。
「もちろんです」
心臓は狙わない。首元を狙うための円錐結界をスペースに合わせて大きく作った。
以前は下から大きくしながら伸ばしたけれど、結界の横幅を縮める代わりに縦幅を伸ばす形状変更にした。
一気に結界のサイズを大きくするより、一気に形を変えるほうが楽だと気づいたから。
斜めに鋭く伸ばすよう調整することで喉元を狙えば、ブレス対策にもなる。
少し待つと氷竜の動きが完全に止まったので、倒せたみたい。
「よくできました。前よりも改善できています」
「対応を素早く、それでいて魔力を節約できるように考えました!」
「アヤナ、すごいわ! あんな倒し方ができるなんて!」
「緊急時だけよ。いつもは使わないの。大きい結界を遠方に張るのは大変だから」
オルフェ様、ジュリア、釣り役をしてくれた騎士たちに回復魔法をかけた。
「ご配慮いただき本当にありがとうございました。自分の魔法がどの程度氷竜に通用するのかを試す貴重な機会をいただけました。このあとはノーザンのやり方を見学します」
「そうしてください。今日来ている者は訓練中の者ばかりなので、うまくいかない部分もあります。ですが、全員が能力を向上させようと頑張っています」
そのあとは訓練している人のほうを見学。
ジュリアは疲れているので、大人しく見学していた。
「氷竜を倒すのは大変ね」
「そうよ。氷竜はとっても強いから」
「飛竜ぐらいだと思ったけれど、それ以上のように思うわ。相当固いの?」
「飛竜がどのぐらいかわからないけれど、氷竜はとても固いわよ。魔法が効きにくいしね」
「竜は全部魔法が効きにくいわ」
「ジュリアの上級魔法で飛竜を倒せるの?」
「わからないわ」
「どうして? 最高ランクよね?」
「そうね。でも、火魔法は使えないのよ。鱗を売るために、焼くことはできないの」
「じゃあ、どうやって倒すのよ?」
「風魔法で囲むようにして疲れさせたり弱らせたりする感じね。武器を使う人もいるわ」
「時間がかかりそう」
「逃げないように風魔法で邪魔をしながら、頭を水魔法で覆って溺れさせる方法もあるわ」
「えー! すごい方法だわ!」
「クルセード様の側近のアイン様が考えた方法よ。それで一気にその戦法が広がったの。鱗を傷つけずに倒せるから」
「さすがアイン様!」
攻略対象者だけあって出来の良さが違う。
「アイン様以上の水使いはいないわ! 初めてあの倒し方を見た時はあまりにも早く倒してしまうからびっくりしてしまったわ!」
アイン様はジュリアの兄の友人。
水の使い手は多くいるけれど、アイン様は極めて優秀。しかも大伯爵。
ジュリアの兄とアイン様は一緒に魔物討伐のランク上げをしていたので、それに参加させてもらったジュリアのランクも上がった。
アイン様はハイランド貴族において最高の独身男性だけど、ジュリアは反属性なので結婚は無理ということまで教えてくれた。
「風魔法が一番得意なら良かったのに……」
とってもつらそう。それはつまり。
「好きなの?」
ジュリアの表情がさっと変わった。
「な、何を言っているの! そんなこと、言っていないわ!」
「風魔法が一番得意なら反属性じゃないってことで、アイン様と結婚できるかもって思っているわよね?」
ジュリアは黙り込む。
「アイン様は強くて容姿も良いわ。ジュリアは容姿の優れている男性が好きよね?」
「ハイランドでは強い人が尊ばれるわ! 強い人を好きなのは普通のことなの!」
「兄のつてでアイン様とデートをしたことはあるの?」
ジュリアはまたしても黙り込む。
「なさそうね」
「うるさいわね! 忙しい方なの!」
「ああ、断られたのね」
「ダメ元でも聞くのがハイランド人なの! それが普通なの!」
ジュリアの弱点を見つけた。
オルフェ様に無理をさせた報いとして、つついてあげてもいいわよねえ?
とりあえず、ニヤニヤしておく。
それがハイランド式であり、ハイランドで学んだ普通だった。




