14.思わぬ誘い
「どうだ? ハイランドの凄さがわかったか?」
クルセード様に呼び出されて現状を聞かれた。
アイン様の助言通り何でも依頼をこなしたことでギルドからの心象は良くなったけれど、なかなかランクが上がらない。
このままでは家の解体依頼を受け続けて小銭を稼ぐことになりそうだと言うと、大笑いされた。
「殴りまくるということについては有言実行しています!」
「そうだな。それについては評価する」
やっぱり有言実行は大事!
「だが、魔物相手のはずだろう?」
「それは……受けられる依頼の種類をまだまだ選べないというか、受付の人の賛成がいるというか」
「魔物討伐に行きたいか?」
連れて行ってくれそうな予感。
「ぜひ!」
「アイン、どこかにねじ込んでやれ。光魔法の使い手だけに喜ばれる」
「わかりました」
アイン様が行く魔物討伐に同行することになった。
「ここに生息する魔物を殲滅します」
貯水池に魔物が棲みついて増えてしまったので、全部倒してしまうらしい。
「あの……アイン様は水使いですよね?」
「そうです」
「水系の魔物を倒せるのですか?」
水魔法で水系の魔物は倒せないというのが常識。
でも、今回の魔物討伐は私とアイン様だけだった。
「愚問です。倒せないのに来るわけがありません」
「すみません」
よく考えたらアイン様は浮遊魔法、移動魔法、飛行魔法を使える。
ゲームでは水属性だけだった気がしたけれど、この世界では風も使える複属性使いなのかもしれない。
「始めます」
「はい」
アイン様は貯水池に近づくと、手のひらの上に水球を作っていく。
濁った水だった。
「あっ、毒で倒すのですか?」
水球が貯水池に投げ込まれた。
濁った水がどんどん広がっていく。
どう見ても毒を広げつつ水への支配権を拡大していた。
まもなく、貯水池全体の水が毒々しい色に染まった。
「このまま放置します。毒が効いて魔物が死滅するのを待ちます」
怖いわ……。
だけど、この方法なら水使いのアイン様でも水系の魔物を倒せる。
「一時間ほどしたら戻ります。アヤナは貯水池に解毒魔法と浄化魔法をかけてください」
「わかりました」
びっくりするほど単純かつ簡単な方法だけど、二人でも貯水池にいる無数の魔物を殲滅できる。
「でも、魔物の死骸が残りませんか?」
「毒で溶けるので大丈夫です」
怖い! 絶対に怖い!
アイン様を敵にしてはいけないと心底思った。
「待ち時間があるので、お茶を飲みに行きます」
「はい……」
水使いの恐ろしさを実感したせいか、お茶を飲みたい気分じゃない。
でも、アイン様の決めた予定に逆らう気力は全くなかった。
「私は水使いなので、お茶にもこだわります」
アイン様の口に合う美味しいお茶が飲めるのは間違いなかった。
他の貯水池も何カ所か回り、同じようにした。
たった二人で貯水池の魔物を殲滅できるなんてすごい。
非常に効率的でもあった。
一つ間違えば自然環境と生態系の破壊になってしまうけれど、貯水を目的とした人工的な場所なので、安全基準内の水があればいい。
魔物も通常生物もいらない。そういう場所だからこそ問題ない。
「あの……殴っていないのですが、大丈夫でしょうか?」
魔物を殴るというフラグを回収できていない。
「クルセード様が聞いたのは、魔物討伐に行きたいかどうかです」
「そうですね!」
アイン様の報告を聞いたクルセード様は喜んだ。
「便利だな?」
「そうですね」
アイン様の毒は強すぎて解毒するのが大変。
貯水池の魔物を殲滅するにはいいけれど、そのあとに解毒や浄化の作業をしても安全な水に戻しにくい。
魔物が溶けるほどの毒だと極めて難しく、水や光の使い手が必死に魔法を駆使して頑張るしかない。
でも、私だけですぐに安全基準内の水質に戻したので、これは使えると思ったらしい。
本当は一カ所の予定だったけれど、時間に余裕があるので近場を数カ所回ったことがわかった。
「アヤナ、ハイランドに移住しませんか? 私の屋敷に下宿すれば、召使い以上の待遇になります」
アイン様の好感度が上がってしまった予感。
でも、アイン様は冷徹な上司系。完全に部下扱いされるのがわかっていた。
自分の猛毒を安全基準に解毒できる使い手が欲しいだけ。
アイン様狙いではないので、もちろんお断りの一択しかない。
「私はオルフェ様の役に立ちたいのです。そのためにいろいろな経験を積んで修行しようと思ってハイランドに来ただけなので無理です」
「フラれたな?」
クルセード様がにやりとすると、アイン様が冷たく睨んでくる。
怖い! 怖過ぎるわ!
「アイン様を慕われている女性がたくさんいるはず。下宿して目の敵にされたら大変です」
「ハイランドにおける女性の嫉妬はディアマスのそれよりもはるかに強いからな。アヤナはハイランドのことをわかってきているようだ」
ハイランドは嫉妬もすごいのね……。
とにかくハイランドは怖い攻略対象者が多くてバッドエンドにつながりやすい。
長居は無用だと感じた。




