第59話 再び五年後
「パパ、ママが呼んでいるよ。なんか来たみたいよ」
僕は美咲との回想を、生きる糧とその証である華によって解かれた。
再び、秋晴れの庭に。
「華、ママにすぐ行くって言って」
僕は華の背中を見ながら、椅子を畳んだ。
華はママに抱っこをねだった。
「パパ、これ見て。今年も届いたわ」
美咲が指差して言った。
それは大きな木箱だった。
毎年この時期になると、はるばる太平洋を渡ってやってくる。
これが届くと、アネットとのハグを思い出す。
そして、永井が元気でやっているのだと安心する。
これと同じものが、片桐家にも届く。
片桐も結婚はしないと言っていたが、秋帆と結婚し、華と同い年の男の子がいる。
「今日、さっそくこのワインを頂きましょう!」
そう言って美咲は、ワインクーラーに仕舞った。
「ママ、華も飲みたい」
華は美咲に似て、何にでも興味を持った。その中でも今の華の興味は、もっぱら英語と水泳だった。水泳は美咲が教えている。どちらにしても、僕をそのうち追い越すだろう。
僕の遺伝子も華の中に存在しているはずだが、それを証明できる具体例は、なかなか挙げられない。強いて言えば、足の長いところだろうか。
「華にはまだ早いよ。ママみたいに、お酒に酔って歩けなくなるから」
僕は美咲が酔った時の千鳥足を真似た。
「華もそれできるよ」
華は美咲の真似が上手い。美咲の幼い姿が、手に取るように想像できた。
「二人ともやめなさい。そろそろ秀君たちが来るわよ。パパも手伝って」
今日は、片桐家とランチを一緒に取る約束になっている。
『バー、バー』
クラクションの音が、秋の風に乗ってやってきた。
「あっ、秀君たちだ」
華は玄関へと走った。
「華ちゃん、元気にしていた?」
秋帆の声が聞こえた。片桐とは、数ヶ月ぶりに会う。
「華ちゃんは、美咲さんに似てべっぴんさんだね」
片桐は華を抱いて言った。
「秀君だってハンサムよ」
料理を盛りつけながら、美咲が言った。
僕には、密かな楽しみがある。
「美咲さん、何か手伝うわ」
腕まくりをしながら、秋帆が台所に向かった。
秋帆は意外と料理ができると、片桐が言っていた。
「今日、永井君からワインが届いた」
と僕が言うと、片桐が、
「うちにも届いた」
「早いよな。あれから五年になるな」
「そう言えば、ドイツでは何も無かったって言っていたよな」
「そんなこと言ったか」
と言いながら、僕は今しがた、あの想い出と昼寝をしていた。
「秀が華ちゃんと結婚するって言い出したら、どうする」
片桐はそう言って笑った。
「その時は、結納金をがっぽり頂く」
「秋帆、許可がおりた」
「二人とも、気が早いわね」
美咲がカウンター越しに言った。
一つの約束を残して、僕らは、あのことについては話さなくなった。
「さあ、準備できたわよ。パパ、永井さんから頂いたワインを開けてちょうだい」
「はいよ」
日曜の穏やかな一日だった。




