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余命を知ったその日から  作者: 村上は


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第55話 親友

 会見から、数週間が過ぎた。

僕たちは葬儀以来、集まることになった。


話すことは山ほどある。


 三年ぶりに会う時とは全く異なる感情の中で仕事をしていた。あの時に時間を戻したいとは思わない。たとえ戻れたとしても、佐久間の死をもう経験できないし、もう肝臓を必要としていない。


あの占いの日から、ここまでの選択に後悔はない。そして、これから進む道にも迷わないだろう。ゴルフの前夜にもうドキドキしないかもしれない。


待ち合わせの時間が迫り、僕は退社の準備を始めた。今回の幹事は日高がやると言って一歩も引かなかった。連絡が来た時、彼の心の傷も回復に向かっているのだと思えた。


日高は同じ店を予約していた。ただ、現地集合だった。


僕は早めに店に行こうと思っていた。

最上は見舞いに行っていないが、僕には電話で様子を聞いてきた。

いずれにしても、この役目は片桐に期待できないし、重村も遅れてくるかもしれない。


色んな思いが複雑に絡みながら店に入った。

個室の前で中から笑い声が聞こえて来た。声の主はすぐに分かった。

最上と日高である。その笑いは三年ぶりに会った時と何も変わっていなかった。

重村に音声分析を頼んでも、『違いなし』と結果になるだろう。


「よう。話題はなんだ」

障子は簡単に開いた。

「やっぱり。沢村か」

最上が言った。

日高も笑っていた。


二人にとっては予定調和なのだろう。そうなんだ。僕らは、最初の二人が集まればそこから予想できる。これだけでも再認識できただけで、集まった意義はあったのだ。


「で、何の話をしていたんだ」

僕は気になっていた。

「なんだっけかな」

最上は本当に忘れたのか、日高を見た。

「ただの世間話」

日高はあっさり言いのけた。世間話であんなに笑うものなのか。

最近のニュースに笑うネタは思いつかない。

「まあ、雪解けはしたんだな」

僕はとりあえず懐中時計をテーブルにセットした。

「雪は降っていないのに、どうやって除雪するんだ」

「そうだぜ。ここは常夏だ」

最上がテーブルを気にしながら言った。

「雨が降ったことは認めようじゃないか。俺が降らせたと。だが、こいつが雪にしやがった」

日高が言って、傷を見せようとした。

僕は懐中時計を指差した。そして、誰からともなくカウントダウンを始めた。

『十、九、八、七、六、五、四、(だんだん声が大きくなった)三、二、一、ゼロ』

「うるさいんだよ、お前らは。五のところで入れたんだが、ゼロまで待った。俺の五秒を返せ」

重村はそう言って入ってきた。そして、

「沢村、時計直したんだな」

「登場するだけで笑いを取れるのは、お前とロッジの山岡くらいだ」

最上は屈託のない笑いを見せた。

「外に丸聞こえだぞ!」

片桐が笑いの収まる前に登場した。

「片桐、早過ぎだろ。順番を待て」

と、僕は言った。

「今日くらいは、らしさを貫いて欲しかった」

と、日高も続いた。

「片桐には悪いが、俺もみんなに同意する」

重村までもが言い放った。そして、最後に最上が言った。

「今日が最後かもしれんのに!」


みんなが固まった。立ったままだった片桐が席に着きながら言った。

「なんだよ。黙りやがって。なんで、時間通りに来て文句言われるんだ」

「重村、説明してやってくれよ」

「片桐、お前にしてはセンスが悪くなったな。それは、何かの意思表示か」

惚けた顔で片桐は言った。

「さすが重村。相変わらず勘がいい」

突然、襖が開いたので、片桐以外驚いた。

「皆さま、お揃いですか」

きょとんとした顔で若い女性店員が言った。

「ええ、思ったより早く始められそうです」

と言って最上は片桐を見ながら続けた。

「ビール以外いるか」


ビールが届き、いつものように最上が立ち上がった。

「みんな、準備はいいか。佐久間に!」

言い終わった瞬間のスタートダッシュには日高が成功したが、最上が圧勝した。コツを掴んでも今後の人生に役立たないだろう。今回に限って最上は勝利の雄叫びを上げず、じっと上を向いていた。僕はしばらくその理由わけに気付かなかった。

「そんなに俺に勝って嬉しいのか」

日高は真面目な顔で、そしてジョッキを持っていない手でお腹のあたりを摩っていた。最上の目から光るものが頬を伝わった。涙を拭うことは最後までしなかった。

「バカを言え。ゲップのせいに決まっているだろう」

「最上、座れよ」

重村が促した。そして、最上が座り終えるのを見届けて続けた。

「沢村、片桐、ドイツでのことを話してくれるか」


重村の言葉に場が締まった。片桐とは性質の異なるものがある。『善と悪』、『表と裏』ではなく、『朝食は和食か洋食か』、『モノマネの松村邦洋氏が真似る、阪神タイガースOBの掛布氏か岡田氏のどちらの方を好むか』のようなものだ。


ドイツでのことは片桐から話してくれた。

美咲も秋帆も登場しなかった。


誰も話そうとしなかった。僕も何から始めていいか分からなかった。日高が沈黙を破った。

「俺は佐久間に救われた。一方的だけど、佐久間が俺を救ってくれた。直接言われていないが、結果として俺の命は救われたんだ」

日高の目から涙が溢れた。

「佐久間にひとりで背負わせてしまったのか。俺たちを頼って欲しかった」

最上の光るものは消えていた。


沈黙が支配した。

重村は違っていた。この言葉を聞いた時、なぜ時間を要したのかわからなかった。


「じゃあ、これで最後にしよう。珍しく最上が正しかったようだ」

再び沈黙が襲った。今度は片桐が言った。

「俺もそう決めてここへ来た」

僕はみんなを見た。そして言った。

「もう十分だ。佐久間を楽にしてやろう」


「格好つけやがって。婚約のことは黙っているつもりか」

日高が聞いてきた……。

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