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贈り物  作者: 村上は


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第41話 行動

 片桐には僕たちに話していないことがあった。招待状を贈る前の出来事である。

そして、それはお互いに存在の知らない、街で何気なくすれ違う二人の女性に関係していた。一人は智子でもうひとりは杏果と言う。キシリトールガムを切らし、立ち寄ったコンビニのレジの前に並んでいても、僕はその二人の女性が片桐の知り合いだと気づかない。


 片桐は初めて入る池袋にある喫茶店に智子と入った。池袋も喫茶店も、智子が二度と選ばない場所だった。そこで、智子に始まりは告げていないのに別れを告げたのだ。

杏果にはお互いの部屋の鍵を元に戻したいと片桐の自宅で頼んだ。智子は泣いていたが杏果にはなく素振りさえなく、パジャマからまだまだ使えそうな私物を置いて部屋を出て行った。唯一、片桐の頬に赤い印を残して。


——————————


 朝から会議の連続で解放された時には、もう昼に突入していた。部署には誰も居なかった。机を見るとメモが置いてあった。


『片桐さんから電話あり。また掛け直すとの事』


 片桐に折り返すと永井の居場所が分かったから、今日会えないかという事だった。そして、できたら、美咲も連れて来られないかと。


 僕と美咲は五分程遅れて店に着いた。片桐が一人で待っていた。

「…… 」

 僕は座る前に美咲を見た。片桐は、

「こう言うこともある。早く座れ」

「あれ、最上も来るのか」

「いや、最上は来ない」

 僕はピンと来た。

「じゃ、例の」

 と言って僕は美咲に事情を伝えた。

 片桐は頷いて、続けた。

「彼女にはまだ事の真相を伝えてはいないが一緒にドイツへ行く」


 僕はとても驚いた。その驚きには少しばかり嬉しさも混じっていた。そんな折女性は現れた。そして、それは、僕の夜の仕事をする女性への固定概念が壊れた瞬間だった。


 女性はすっぴんで、装飾品は一切身に着けていない。いや、よく見ると胸にネックレスの鎖が少し見えていた。

「紹介する。秋帆さんです」

「秋帆です。よろしく」秋帆は微笑んだ。

「沢村です。そして」

「美咲です」

「この二人は、先月から付き合い始めたんだ」

片桐がふたりの関係を簡単に言った。


 僕はとても不思議な気持ちでここにいた。これは、佐久間が引き合わせてくれたのだろうか、と。


「早速だが、これがやつの住所だ」

「ルートヴィスブルグって私聞いたことがあるわ。確か、シュトゥットガルトから近かったと思うわ」

僕は頭の中でドイツの地図を描こうとしたが、諦めた。

「車でも行けるけど、ICEの方が楽ね」美咲は言った。

「ICEって何」僕は尋ねた。

「日本で言う新幹線みたいなものよ」


 コントのように映ったのか片桐は容赦なく説明を続けた。


「河本の話では、やつの雇っている調査員も近々ドイツに行く」

「つまり、今日ドイツ行きの計画を建てたい訳だな。でも、最上に相談しなくて大丈夫か」

「ああ、あいつにも連絡したが、今はドイツに行っている時間がないそうだ」

「俺たちは暇って訳だ」

僕は多忙極まりない片桐を見た。

「ちょっと待って、その最上って誰なの」


確かに、秋帆は最上には会っていなかった。そう言えば、美咲にも紹介していなかった。


「最上も俺たちの親友の一人さ」

片桐は秋帆に説明した。


「それで、ドイツ行きだが、ミュンヘン行きの直行便が今週の日曜日に出ている」

「私は、大丈夫よ」秋帆と片桐は既に話し合っていたようだ。

「俺も何とかする。美咲、無理に……」と言いかけた僕を制して美咲は言った。

「今すぐには、結論は出せませんが、明日、会社に行って調整できるかやってみます。片桐さん、一応行く方向でお願い出来ますか」


 僕は美咲の意外な一面を見た。


「早速、明日、飛行機のチケットの手配をする。それで、帰りだがその週の土曜日に現地を出発すれば、日曜日に戻ってこられる。まあ、次の日、仕事は辛いが我慢してくれ」

「何か卒業旅行みたいで楽しみだわ」


 秋帆は純粋な目をしていた。この四人の中で本当の目的を知らない。秋帆は鞄からパンフレットと地球の歩き方、ドイツ版を取り出した。その本には複数のポストイットが張ってあった。そして、秋帆は三枚の用紙をそれぞれに配った。


「私、時間に余裕があるのそこに書かれているのが予定です。勿論、人を探すことが優先だから、それに手間取ったら計画の変更が必要だけど……それとこれは私の好みだから皆さんの意見も聞かせて欲しいわ」


 片桐は心持ち明るんだ左頬を撫でながらじっと秋帆が建てたプランを見ていた。プランを指差しながら美咲が言った。


「この日、折角ライン川を北上するのだったら、ベルンカステル‐クースでワインの試飲はどうかしら。モーゼル川を挟んでワインで有名なモーゼルワインがあるの」


 僕の顔に片桐の表情が鏡のように映っていた。女性二人はそんな僕たちの思いを他所に勢いを増していた。そして美咲が僕に言った。


「沢村さんも行きたい所ないの。折角だから楽しみましょう。こんな時こそ楽しむ必要があるわ。素敵な旅になりそうじゃない」

 僕は美咲が言った言葉の意味を考えていた。


「そうよ。婚前旅行じゃないの」

 秋帆は片桐を見てにっこりとした。そして、美咲が秋帆に言い返した。

「それは、そちらのお話でしょ。私たちを追い越しそうな勢いだもの」

「だったら、私たち四人の婚前旅行ってことにしない!」

この二人を止めることはできない。

「それじゃ、明日飛行機の予約を取るから、午前中に沢村は美咲さんの可否を連絡してくれ」


 僕は美咲を家まで送った。

「美咲、何かとんでもないことになってごめん」

「そっかな。それに、私、ドイツ行きが本当に楽しみなの」

「……」

「でも、片桐さん、秋帆さんに本当のことを打ち明ける積もりなのかしら」


 改札で切符を買いながら答えた。

「片桐の性格だと多分言わないと思う」

「それで良いのかな。秋帆さんしっかりしていると思うけどな」

「今日それとなく片桐に電話で話してみる。ところで、会社の方は休めそう」

「多分大丈夫だと思う。藤森がいるから一週間くらいなら。私たち結構上手くやっているの」

「藤森さんに沢山お土産を買って帰らないと」

「そうね。美味しいワインがいいかな。彼女ああ見えてお酒は強いから」

「じゃあ、良い勝負なんだ」

「失礼しちゃう」


 翌朝、僕は美咲からドイツに行けると連絡を受けた。僕も上司に来週一週間休みたいと申し出た。突然のことで上司は驚いて『何かあったのか?』と心配した。


 入社以来、無断欠勤もなく勤怠状況も良かったので、上司は快諾した。片桐に二人ともドイツに行けることだけ伝えた。それから、来週の休暇の為に仕事に追われた。


 結局、仕事を終えたのは、二十時を回っていた。携帯を取り出し、美咲に電話を入れた。『今からそちらに向かうから適当に注文を頼みます』と。


 美咲が待っているレストランへ急いだ。美咲は四人掛けのテーブル席で何やら調べ物をしていた。僕を見るとそれを閉じて横に置いた。

「ごめん、遅くなって」

「お仕事大丈夫」

「ああ、仕事の方は何とかなりそう。それより何を見ていたの」


 美咲は嬉しそうに持っていた本を僕に渡した。本にはカバーが掛けてあった。秋帆が持っていた地球の歩き方で違いは新品ではなかった。僕は思わず噴出した。

「それで、どこに行きたいの」

「色々あるわ!」

「それはゆっくり聞くとして、これが今回の飛行スケジュール。行きは成田発で、到着が同日の夕方ミュンヘン。帰りが現地の土曜日夕方でミュンヘン発。で、成田着が日曜日の昼頃」

「ありがとう。これを元に秋帆さんの計画と比べながら考えるわ」


 JTB顔負けの企画になりそうだ……。

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